第16錠 違和感


 その後、半強制的に猫耳カチューシャをつけることになった誠司と、ウサ耳カチューシャをつけたセイラは、そのあと必然的にプリクラを撮ることになった。


『好きな背景を選んでね!』


 中に入ると、プリクラ機特有の明るい機械音が響く。


 そういえば、最後に撮ったのはいつだったか?

 プリクラなんて、もう長いこと撮ってはいない気がする。


「どのくらいぶりかな? 二人で撮るの?」


「ゲーセン行っても、プリクラは撮らないしな」


「あ。これ、盛った方がいい?」


「え? 盛る?」


 画面をタッチするセイラが、突然、意味わからないことを聞いてきて、誠司は首を傾げた。


「まつ毛バサーってなったり、目パッチリになったり、勝手に加工してくれるよ」


「俺が、目パッチリになっても、キモイだけだろ。普通に撮れ」


 2メートル四方の狭い鉄の箱の中。機会の指示通り進めると、それにより密着度が更に高くなる。


(……そういえば、今、二人っきりなのか)


 不意に、二人きりだと言うことに気づいて、誠司は横にいるセイラを見つめた。


 こんなに近くにいるのに、二年ずっと、この距離にいたからか、昔のようなドキドキはなく、心はおだやかなままだった。


 きっとこの先も、セイラ以上にぴったり合う子は現れないんじゃないかってくらい、セイラの隣は安心するし、居心地がいい。


「ねぇ、誠司!」

「!」


 すると、その瞬間、セイラが急に顔を上げた。


 サラリと流れた長い髪から甘い香りが、ふわらも舞って、パチリと目が合う。


 だからか、お互いの視線が絡み合えば、そこには必然的に、甘い空気が広がった。


(あぁ……別に、難しいことを考えなくても──…)


 すると、穏やかだった鼓動が、微かに早まったのを合図に、誠司は、セイラの腰に腕を回し、その身体からだをそっと抱き寄せた。


「誠……」


 より強く抱きしめれば、かすかな衣擦きぬずれの音とともに、肌と肌が触れあった。


「セイラ」


 耳元で名前を呼んで、その感情に突き動かされるまま、髪をき、そのほほに手をえる。


 今までも、何度と感じてきた、二人だけの距離。


 難しいことなんて考えなくても、自然に任せればいい気がした。


 そして、愛しい。触れたい。


 そんな、思いが高まって、お互いに見つめ合えば、そっと目を閉じ、口付けを落とす──…


「誠司!!」

「ッ!?」


 ──はずだった。


「もうすぐ、撮るよ?」


 だが、お互いの唇が触れるか触れないかの瞬間、セイラが、それをさえぎった。


 高ぶったままの感情が、突然行き場を失い、誠司はセイラを抱き寄せたまま、困惑した表情を見せる。


「ポーズ、どうする?」


「え? あぁ、任せる……っ」


 だが、その後も、いつもと変わらないセイラの声が響いた。


 まるで、何も無かったみたいに……


 だけど、それと同時に感じたのは、ある『違和感』


 そういえば、今までだって何度も、キスしそうな雰囲気になったことがあった。


 だけど……


(なんで、今──…)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る