第10錠 父親
その日、誠司が学校から帰宅すると、自宅の庭には、昨日と同じ黒のワンボックスカーが停まっていた。
誠司は、それを見て、今日も
「葉一さん、こんにちは」
「やぁ、誠司君、おかえり!」
すると、丁度トランクを開けて、中から荷物を取り出した葉一が、誠司に気づき、笑顔で言葉を返した。
その身体つきも、中年特有のメタボッたさは一切なく、顔立ちも、あの彩葉の親だけあり、鼻筋の通った
そして、不意をみせる笑顔や
「引っ越しの準備ですか?」
「あーそうだよ。来週、本格的に引っ越しするから、その前に運べるものは運んでおこうと思ってね?」
「俺、手伝います!」
「え? いいのかい?」
すると、誠司はトランクの中から段ボールを、一箱、手に取ると、それを見た葉一が、嬉しそうに顔を
「ありがとう。助かるよ」
「いいえ。あ、そういうば、今日はアイツ……
「あはは、もう兄弟になるんだし『彩葉』って呼び捨ていいよ。あと、悪いけど、今日は、彩葉は来てないんだ。アイツ、放課後は遊び歩いてばかりでなー。何してんのか知らないけど、もう高校生だし、男の子なら、そんなもんだろう」
「………」
すると、手にした荷物を家の中に運び込みながら、誠司は、少しだけ
(彩葉は来てないのか……良かった)
まさか、第一印象が最悪で、彩葉と
やはり、どんなに、ムカつく奴だろうが、親からしたら、子供たちが仲良くしているに越したことはないだろう。
しかも、これから、その彩葉とは『家族』として一緒に暮らすことになる。なら、それなりに仲良くならなくては!──と思うには、思う。一応……
「そういえば、誠司君の高校って、
「え? はい」
「そっか、彩葉は今、星ケ
「いえ、俺は帰宅部で。子供のころは、サッカーとかしてましたけど」
「おー。そ~か。実は、うちの彩葉も、昔サッカーやってたんだよ」
「そうなんですか?」
それから暫く雑談を繰り返しながら、荷物を全て車から玄関に運びおえた。
すると、今度は少しだけ改まった顔をして、葉一が問いかける。
「誠司くんさ、もしかして、彩葉に、少し苦手意識を抱いてる?」
「え!?」
突然の問いかけに、誠司は顔を引きつらせた。
まさか、バレていたとは!!
「あ、いや……」
「あはは。ごめんなぁ……彩葉、少し取っ付きにくいところがあるから……いきなり、仲良くって訳にはいかないだろうけど、あれでも、根はいい子だから、懲りずに話しかけてやってくれ」
葉一は少し苦笑いを浮かべながら、申し訳なさそうに、そう言った。
その表情を見れば、誠司と彩葉のことを、心配しているのが、よく伝わってきた気がした。
確かに、元はと言えば、自分が彩葉を妹だと勘違いしていたから、あんなことになってしまったわけで、彩葉からしても、女と勘違いされていた挙句、エロい妄想までされていたのかと思えば、悪態をつきたくなる気持ちも分からなくはない。
「いえ、あれは俺も悪かったので……その、頑張ってみます」
誠司はバツが悪そうに、葉一から視線を反らすが、葉一は、にこやかに微笑みながら
「ありがとう。あと、俺にも敬語つかわなくていいよ!」
「え? でも……」
「いいから、いいから! もっと、フレンドリーにいこう! 優子さんも、そうしたいからって、彩葉に『優子ちゃん』とか呼ばせてるし!」
「マジすか!? あれ、うちの親から申し出たんすか!?」
てっきり、彩葉がかってに、馴れ馴れしく「優子ちゃん」と呼んでいるのだと思っていたが、まさかの母親から!?
「優子さん、本当可愛い人だよなー」
「いや、もうすぐ、40なんすけど?」
母のアクティブさに呆れ返る。むしろ、言わされてるのかと思うと逆に、彩葉に申し訳なく感じた。
てか、彩葉! 誤解してて、ゴメン!!
「あはは。まぁ、いいじゃないか、家庭は、楽しく明るいのが1番だ。あ。誠司くんも俺のこと『葉くん』とか、呼んでみる?」
「あはは。葉くんは流石に…」
「だよなー、オッサン捕まえて葉くんはないわな~。まー、俺にも彩葉にも気は使わなくていいから、仲良くしような、誠司くん!」
すると、誠司は、葉一の言葉に顔を綻ばせた。
いきなり「親子」になるのは難しいだろうと、誠司の気持ちも考えながら、葉一は、歩み寄ろうとしてくれる。
(葉一さんて、本当にいいお父さんって感じだなー)
昨日は、まともに会話を弾ませられなかったが、正直、今日、話せて良かった。
なんとなくだが、葉一さんとは、上手くいきそうな気がしたから……
「よし。後は俺がするから、誠司くんは、着替えてきていいよ。ありがとうな!」
(……あれ?)
だが、玄関に運んだ荷物を、今度は一階の書斎に運ぼうと、葉一が前屈みになった瞬間、誠司は、葉一のTシャツの隙間から見えた、あるアザに目を奪われた。
(あのアザ……俺のと、よく似てる)
それは、葉一の左胸上部。
2センチ程の綺麗な
胸元にくっきりと出来ていた、そのアザは、なぜか誠司の脇腹にある、あのアザとよくにている気がした。
「あの、葉一さ」
「葉一さ~ん!」
だが、ふと気になって、葉一にアザのことを問いかけようとしたが、その問いかけは、母の優子によって遮られた。
「あ! 誠司、かえってたの! おかえり~」
「どうしたの、優子さん」
「あ。これ書斎のどこに置こうかしら?」
「あー、そうだなー」
すると、結局アザのことを聞く前に、葉一は優子と共にいってしまい、誠司は、去っていく葉一の後ろ姿をみつめながら、彩葉のことを思い出す。
『お前、このアザ、どうしたの?』
昨日、自分の腹をまくり上げて言った彩葉の言葉。
(彩葉が俺のアザ見て驚いてたのは、葉一さんにも、同じようなアザがあったからか?)
珍しい形のアザだ。
それなら、驚くのも無理はないかもしれない。
──ピコン!
すると、その瞬間、ポケットに忍ばせていたスマホにLIMEの着信音が鳴り響いた。
誠司は、スマホを取り出し、その内容を確認する。
すると、そこには
《早坂ーお前、響と、まだキスもしてないって本当~?》
と、書かれていた。
しかも、ニヤニヤとほくそ笑む、キャラクタースタンプ付きだ。
誠司は、友人の1人からきた、そのLIMEをみて、玄関先で暫く硬直すると
「えぇ!? なんで、知ってんだ!?」
そんなこと、話した記憶ない!
だが、まさか友人の翔真が
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