第7錠 変わらないで


早坂はやさかー、ひびきが呼んでるぞー」


 クラスメイトの声を聞き、誠司が顔を向ければ、教室をのぞき込むようにして、こちらを見つめているセイラと目が合った。


 それを見て、誠司は、すぐさま教室の外へと駆け出し


「セイラ~」

「きゃ!」


 と、両手を広げ、いきなりセイラに抱きついた。


「あ~、やっぱ女の子はこうだよな~」


 そして、自分よりも小柄な彼女を抱きしめ、うんうんとうなる。


 きっと、彩葉とのことがあったから、セイラにいやされたかったのだろう。


 だが、周囲の目もはばからず抱きつく誠司に、セイラは困惑する。


「ちょ、ちょっと、誠司!」


 それもそうだろう。

 なぜなら、ここは、なのだから!


「みんな見てるよ。離して……っ」


「セイラ聞いてくれよ~。俺、もう心折れそう~」


「え、と……聞いてる?」


 だが、離せと言うのに、更にすりり寄ってくる誠司に、セイラは更に困り果てる。


 そして、それを見ていた友人たちは


「あーあ、まーた始まったよ」


「誠司、響のこと大好きだよなー」


「早坂~、セイラ困ってるじゃん。やめなってー!」


 と、呆れながらも誠司に声をかけ始め、それと同時に、教室のすみでは、ボソボソと話し声が聞こえ始める。


「てか、誠司のやつ、あんなことしてるから、響に冷たくさてれんじゃねーの?」


「まぁ、響は可愛いしなぁ。気持ちは分からなくはないっていうか」


「でも、あれじゃ、いつか捨てられるだろ?」


「つーか、イロハちゃん、マジで誠司のこと誘惑してくんねーかな! 浮気して修羅場っちまえばいいのに!」


 誠司が、セイラのことを一途いちずに好きなのは、この学年では有名な話だった。


 まぁ、小柄で色白で、サラサラのストレートヘア。

 まるで、子うさぎのように可愛らしい彼女な喉から、それは、致し方ない。


 だが、やはり場はわきまえるべきだとおもう。


「せ、誠司……恥ずかしい」


「あ。すまん。つい」


 すると、セイラが恥じらいながら、そう言って、誠司は申し訳なさそうに、セイラから離れた。


 するとセイラは、少しだけ間を置き、改めて誠司を見つめた。


「ねぇ、優子ゆうこさん、再婚するの?」


「え!?」


 いつの間に、セイラの耳に入ったのか!?


 突然の問いかけに、誠司は、ジワリと汗をかく。

 だが、ここまでハッキリ聞かれて、しらばっくれるわけにはいかず……


「あ、あぁ……再婚する、ぞ?」


「なんで、教えてくれなかったの?」


「いや、直接伝えようと思ったんだけど……ちょっと、話しづらかったと……言うか」


「…………」


 しどろもどろして、目を合わせようとしない誠司。

 それを見て、セイラは、複雑な心境になる。


(そっか……じゃぁ、ができるって話は、本当なんだ)


 友人のたまきが言っていたことは、どうやら本当らしい。


 勿論、セイラだって、優子には、とても良くしてもらっているし、優子が幸せになるなら、これほど喜ばしいことはない。


 だが、同い年の血の繋がらない女の子と、誠司が一緒に暮らす。そうなると、やはり不安にもなったりもするわけで……


「セイラ?」


 すると、黙ったままうつむくセイラに、誠司が、再び声をかけた。


「どうかしたか?」


「ねぇ……誠司は、私のこと、まだ好き?」


「え?」


「ずっと、変わらないでいてくれる?」


 不安そうに呟くセイラは、目をうるませながらそう言って、誠司は目を見開いた。


 自分が隠し事をしていたせいで、不安にさせてしまったのだろうか?


 日頃セイラが、このような事を言ってくることは、ほとんどない!


「ん!」


「え?」


「もう1回、ハグする?」


 すると、再び腕を広げ、誠司は、穏やかに笑ってセイラが抱きついてくるのを待った。


 だが……


「え……だから、ここ学校」


「あはは。だよなー。じゃ、放課後デートする?」


「…………ごめん、じゅくがある」


「…………」


 だが、その後、ことごとくNOの返答を食らった誠司は


「てか、お前の方こそ、俺のこと好きなのかよ!? ハグ拒否るわ! デート拒否るわ!? おまけに昨日の朝、LIMEも無視しただろ!?」


「ご、ごめん! だって私、朝弱いんだもの! それに、LIMEよりは声を聞きたい派なの!」


「なんだそれ! モーニングコールしろってこと!?」


「誰も、そこまで言ってない!」


 すると廊下で、痴話喧嘩ちわげんかを始めた2人をみて、友人たちは、微笑ましく頬をゆるませながら


「本当アイツら、仲いいよなー」


「まー、2年も付き合ってればなー」


「でも、信じられるか? アレで、まだキスもしてないんだぜ?」


「「え!? マジで!?」」


 すると、何気なく発した翔真しょうまの言葉を聞いて、教室内が、また、ざわつき始めた。


 だが、それに、誠司とセイラが気づくことはなかった。

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