文化祭
文化祭時期になった。俺にとって文化祭とはリア充たちがワーワーするただの遊びで、準備期間なんてものはボッチの俺には相当厳しい時間だった。
放課後、文化祭の準備が始まった。
どうやらこのクラスはカフェをやるらしい。
俺と牧瀬は余り物のポスター作りをやらされていた。もちろん牧瀬が余り物なんてやらされるわけもなく、自分からやります!と言い出したのだ。
『ポスター作るってったって紙がないんじゃ』
『買いに行かなきゃですね』
『あーめんどくせぇな、ちょっと行ってくるわ』
そう言って立ち上がろうとした時、牧瀬は洋介の手首を掴んだ。
『え?なに?』
『私も行きます』
学校から近くのホームセンターまでは片道10分はかかる。正門を出て角を曲がる。
俺が初めてこいつと会ったのもここだったのか。
まぁ、気づかれなかったけどな。
傷つけたくないから、という理由で踏み込んでいなかったが、転校生の牧瀬がなんでこの学校の男に告白したのかが気になっていた。会った瞬間ってのもおかしいし。
『なぁ、答えたくないなら答えなくていいんだけどさ』
『はい?』
『お前、初対面の人に告白したのか?あの時』
『政宗くんですか』
『そう』
政宗というのは学年中で人気のいわゆる人生勝ち組の一人だ。スポーツ万能、頭も良くてあの顔だ。モテるのも当然だ。
『政宗くんは私の幼馴染みなんです』
『え?』
突然の発言に少し驚いてしまう。
『中学生になる前に引っ越しをしたんです。お父さんの都合だったので仕方がありませんでした。その時は仲も良く、一緒に遊んだりもしてました』
牧瀬が政宗と遊んだりしているところなんて想像もつかなかった。
信号が赤に変わり俺たちはその場で止まる。だが彼女の口は止まらずに淡々と話し続けた。
政宗と牧瀬が幼馴染みだったことから始まり、中学では連絡を一切とっていなかったこと。久しぶりに会って勢いで告白してしまったこと。それからはもう話していないことも。
『私は馬鹿なんですかね…まだ政宗くんのことを考えてしまう。忘れなきゃって思っているのになぜか頭の中にはいつも政宗くんがいる』
いつの間にか彼女の目からは大粒の涙が流れていた。
『お前は強いな、強すぎるよ』
『え?』
『もっと泣いていい。悲しいときは泣いたほうがいい。自分の中に辛さを溜め込まないでもっとぶつけていいんだ。ぶつける相手がいないなら俺でいい。ほら俺にぶつけてみろよ、今の牧瀬の気持ちを』
『ひっく…ほんとにいいんですか』
『ああ、受け止めてやる』
彼女は歩くのもやめて洋介を抱きしめた。
洋介の背中にには強く制服を掴む彼女の手があった。そして、大粒の涙をこぼしながら叫ぶ。
『なんで…なんであの黒髪なの…なんで私じゃためなの…なんで!なんで…私を選んでくれなかったの…私の…何処が悪かったの』
もちろん牧瀬はなにも悪くない。だからといって政宗が悪人というわけでもない。ただ政宗は黒髪のほうを選んだ。ただそれだけ。牧瀬は美人だ。しかもスタイルもいい。だがそれは黒髪の方も同じことだ。
どちらかが選ばれ、どちらかが振られる。そこに良いも悪いもない。
それを決めるのは政宗だ。政宗がそっちを選んだ。
ただそれだけのこと。
『私にとって政宗は!初恋だったの…幼稚園のころから大好きだった!小学生のころも同じクラスになれてとても嬉しかった…なんで…なんで!なんで私じゃないの』
『そっか、辛かった』
『ひっく』
『でももう大丈夫だ、スッキリしただろ』
『はい…』
『もしこれから同じようなことがあっても一人で抱え込むな。俺がいることを思い出せ。愚痴なら俺がいくらでも聞いてやる』
その言葉を聞いた牧瀬の目からはもう涙なんか流れていなかった。やっと…もう我慢しなくていい。もう辛くない。そんな感情ていっぱいだった。
そして牧瀬は洋介から離れると『いいんですか?私、結構めんどくさいかもですよ?』そう笑顔で言った。頬に残る涙と混ざった笑顔はとてもきれいだった。
今年の文化祭は少しは楽しくなるかもしれない。そんな気がした。
負けヒロインを慰めていたら、クラス中の皆にバカップルだと思われていた件 @siromarutantan
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