～輝煌めきの炎螺鋼 煉翁伝 トゥウィンクル ボルカノソードメッセンジャー クロニクル 無き昂がり火山伏の ワイルド トラジェクトリー～

陽炎燃えた夏の日の夜に・第－㊈ 3.先にあるもの

　鬱蒼とする夜の闇だ「名士（めいし）」のもとへ急ごうと。はやる気持ちは猛々しい。だが心の内部は憔悴してぐらつく。もはや心臓の鼓動が本体である筈（はず）の童の身体をまくし立てている。その様にすら成り得てしまう。

　季節は夏真っ盛り。カンカン照りの暑かった・熱すぎた、そして眩しく・まぶしすぎた日であった……童には。

　しかし、この情勢も急を要する事態だ。たった今童が移動している樹上には、空から降りてきた影をまとりし「闇雲（あんうん）」そして曇天より、より仄暗（ほのぐら）な【悪なる真の闇】が、彼の周囲を蝕んでいた。

　心のなかが丸く、黒く開いてしまっていた童であったが「ギュ!!」自ずと右手の拳を握りしめた。

　た、まま。只、そのまま。

　一旦深呼吸する。しかし息を整えてから奮い起こしても、とどのつまり前のめりにならざるをえなく。拳の力を彼は弛（ゆる）めた。

　この状況下では誰一人死者も出ず終熄（しゅうそく）するのであろうか。もしも死人（しびと）が出てしまった、その時は。

「俺が、……引き換えとなる！」

　もうどうなってもいいんだ。それであいつも救えさえすれば。俺が果たす偉業が、後世まで伝わっていけば。

　身代わりとなる志願を「心中」で決意。考えを重ねた後（のち）の、一石二鳥以上の答えであった……。自分の終わり方を模索して辿り着いた結果だった「只では終わらない重責」で彼は背負いたちここにいる。

　言い知れぬ恐怖が日を追うごとに襲ってきても。言葉に出来ない切なさと哀しさで胸中が張り裂けそうで堪（たま）らなかった時も。その時がくるまで。今日までを。ずっと、じっと、その瞬刻を。彼は待っている。

　逃げ道は一切存在しない。

　その現実が。いずれ花と散る生命（せいめい）の躍動。身体は全神経を研ぎ澄ませようとし、巡り流るる血は最後の脈動を打ち続けていた。

　彼は。ただ「友」だと【思っていた人】も。この『是空界（ぜくうかい）』からは、決して。消えてほしくはなかった。……だけだった、童にはもう後がない。

　そこまでして彼が追い詰められている理由（わけ）とは何か。果報（かほう）となる要素は主に二つ。永遠（エンドレス）に終わりのない破滅と復讐の輪舞（ロンド）、一方は断腸（だんちょう）を超えない哀愁（あいしゅう）の想い、そしてもう一方は……。

　果たしてその引き金が意味することとは何か。それらが起因した両者にとって、どんな結末が待っているのか。

　正午頃（ごろ）から発生していた『陽炎』だけが、それを知っている……。

　差し迫る時を只々恐い恐いと怖気付いていただけならば、人のために必死になってまで信条を貫こうとする姿など、かつて想像すら童は出来なかっただろう。

　その現実と、定まらない迷いを。自分だけに課せられた宿命だと決意した。それがどんなに苦しかとて、互いを光明へと必ずや帰する、そして【自分だけいずれ救われる】その執念の覚悟で。

「俺は『あいつ』を助けてから生命を全うするんだ、まだ燃え尽きることは決して有り得ない!!　待ってろ……絶対に！」

　そう。童の「あいつ」の行方を追うその眸（ひとみ）は。先へとまっすぐ捉えている。

　ひたすら、生きようと。ひたすら、前（先）をみつめながら──。