第33話 第一回チキチキロクサーヌ恋愛会議 前編

未だ改築中の屋敷。

領主であるカーライルは王都に出向いていて不在である。


「それでは、第一回チキチキロクサーヌ恋愛会議を始めます!!」


青年団団長であるゼスティが丸眼鏡を光らせながら、椅子から立ち上がり叫んだ。


「カーライル不在だけどいいのか?」


私は耳の中をほじりながら呟いた。


「マーガレット。カーライル不在だからいいのですよ!」


ゼスティが力強く叫び返す。

私はカーライルが居る際に「早く結婚しろ」と全員でつるし上げた方が良策だと思うのだが。

ゼスティの考えは違うようだ。


「何より、まずはロクサーヌ殿の気持ちの確認も行わなければなりませんし」

「こんなに人を集めてまでやることかよ。やるならカーライルのつるし上げだろ」


改築中の屋敷、一番広いエントランスホール。

周囲には、村長、青年団副団長、執事。

そしてダークエルフ代表としてガーベラ嬢、教皇領代表としてモロゾフ大司教殿。

オズーフ商会代表としてコンコルド君。

ついでにカーライルのパーティーとして私、ゼスティ、ロック、ルリ。

たまたまいたので暇つぶしに来たモンゾ。

そして何より話の主題であるロクサーヌが居る。


「気持ちの確認も何も、ロクサーヌがカーライルの事が好きなのは皆承知済みだろ」


全員が頷く。

誰が見てもバレバレである。

カーライル自身すら自覚しているのだ。


「私は……妾でも構いません。いえ、愛人でも」


ロクサーヌが殊勝な心がけ、というよりも少し悲しい事を言う。


「ノン!」


ゼスティが否定の言葉を一言で放った。


「狙うは本妻一点です。好きなんでしょう、カーライルの事が。身分や立場なんぞダンジョン運営さえ成功すればどうにでもなります」


テキトーなところの貴族に形ばかりの養女に行って、カーライルと結婚すればよろしい。

このアポロニア王国では身分や立場なんぞ、それをしのぐパワーさえあればどうにでもなります。

そうゼスティが握り拳を作りながら熱く語る。

まあ賛同するが、なんでそんなロクサーヌとカーライルをくっつけることに乗り気なんだゼスティ。

コイバナか。

コイバナが好きなのかゼスティ。


「青年団団長としての責任感の表れがこれじゃ。副団長は見習うように」


村長がうんうん、と優しい目で頷きながらゼスティを褒め称える。

副団長は何かに敗北したような、悔しそうな目でゼスティを見つめていた。

多分義務とか考えて無いと思うぞゼスティ。

コイツのは何か違うところからパワーが出てる。


「ロクサーヌ、本妻にはなりたくないのですか?」

「……」


ロクサーヌはぎゅっと隣に居るコンコルド君を抱きしめる。

きっとモフモフとしている。

いいなあ、ロクサーヌ。

私も抱きしめたい。


「はっきり言ってごらんなさい!」

「なりたいです!!」


ゼスティ詰め寄るような声に、ロクサーヌはコンコルド君を抱きしめながら叫んだ。


「よろしい!! 実によろしい!!」


ゼスティは二度も「よろしい!!」と叫んだ上で、中央のテーブルに音を立てて拳を叩きつけた。


「それでは計画を練るとしましょう。皆さま、何か意見はありますでしょうか」


ゼスティは司会者を気取りながら、叩きつけた拳を掌に変えて、意見を募る。

最初に挙手したのはガーベラだ。


「アイアンタートルの血は精力剤だ。カーライルの食事に大量に盛れ」


ダークエルフは媚薬作戦を推奨した。

だが――


「惜しい。いえ、他の案との組み合わせは考慮しますが」

「それでは駄目だと」


ガーベラが眉を顰める。

よほど案に自信があったらしい。


「アイアンタートルの血はなんだ、凄いぞ。飲んだけど一日身体の火照りが止まらなかったぞ」

「飲んだのかよ」

「飲んだよ。試しにどんなものかと思って」


私の呆れかえった声に、顔を恥ずかし気に赤らめながら言葉を返すガーベラ。

そしてガーベラのその表情に欲情し、少し鼻血を流すモンゾ。

一遍死ねお前は。


「駄目な理由を説明しますが、カーライルはあくまでロクサーヌの事を娘としてしか見ていません。女としてまず見ていないのです。媚薬を盛る程度では足りません」

「……」


ロクサーヌが少し悔しそうな顔をする。

だが事実だ。

カーライルがロクサーヌの事を本当に大切に思っているのは傍から見て誰にでも分かる。

だがそれは娘としてだ。

良い貰い手を探す事しか考えていない。

下手すれば、このまま独身で正式にロクサーヌの事を正式な娘として婿を迎えるまであり得る。

その家系の血が絶えることまでカーライルは覚悟してかねない。

その場合、領民はちゃんとついてくるのかね。

甚だ疑問だ。

ま、それはどうでもいい。

今はそれを避けるための会議だ。


「確かに、私はカーライル様から女として見られていません」


ぎゅーっと腕に力を入れながらロクサーヌが独白する。

コンコルド君は完全にぬいぐるみのようにロクサーヌに抱きしめられている。


「12の時からずっと……13の時も、14の時も、15の時も私は待っていたのに」


ちょっと待て。

何かおかしなこと言いだしたぞこの嬢ちゃん。

ロクサーヌは真剣な目で語り続ける。


「今思えば」


その瞳が遠い目に変わる。


「12の時に懇願した添い寝が成功した時がラストチャンスだったのかもしれません」


12の時から狙ってたのかよ。

私は頭を抱えながら、ゼスティが丸眼鏡を光らせて何か凄い悪い笑みを浮かべてるのを見た。

何かゼスティ、コイバナ好きと言うか荒れた恋愛話大好き人間じゃねえかなあとマーガレットは思った。


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