第30話 ビンボー貴族と借金パーティー

非常に会いずらい。

しかし、会わなければならない。

そんなアンビバレンツを抱えながら、私は王都のギルマス室にて、借金漬けのパーティーを待つ。

しばらくすると、スズナリ殿が笑顔で現れた。

何が愉しいのか――おそらく厄介事が一つ片付いたからだろうが。

そんな顔で、借金パーティーを紹介した。


「それでは紹介を、各自行ってください」

「ビンボー貴族のカーライルです、よろしく」

「借金貴族のイモータンです、よろしく」


二人して固く握手を結び、その手を振る。

何か悲しい。

お互いの紹介がだが。

イモータン殿はその隷属の首輪をスカーフで隠していた。


「貴方がアルバート王を暗殺しかけた事で有名な」

「アルバート王への弁明でも述べたが、元祖国の伯爵に強要されたのだ! あの時、私に断れる立場になかった」

「おいたわしや、お父様」


べそべそと、隣の娘――甲冑姿に腰にメイスをぶら下げているが。

ちゃんと令嬢と言える、その美貌を持ち合わせた彼女が嘆く。


「私が伯爵の元に人質同様の立場になっていなければ、このような事には」

「泣くな、マリエル。これも貴族の定めよ」


何か深い事情があったらしく、だからこそアルバート王も命だけは勘弁してやったんだろうが。

まあ、私には何の関係も無い話だ。

だから聞かない。

今更聞いても意味無いし。


「まあ、何か深い事情がありそうですが私には関係ないので。とにかく、えーと、何人パーティーなんですかね」

「私、執事、騎士3名、娘の6人のパーティーだな」


身内の立場ではなくパーティーの役割を聞きたいところだが、やはり私には細かいところは関係ないので無視する。


「非常に結構です。爵位復権を目指して当カーライル領で頑張ってください」

「もちろんそうする。目指すは最深階だな」


おや。

イモータン殿はちゃんと当ダンジョンの情報を得ているのか?

借金の返済ならば……


「2階にはクリーピングコインが出ますよ」

「それで金貨3000枚返すのに何年かかると思っている」

「そうですね、月50枚として……宿代を考えると6年は」

「そんなに待てぬ。マリエルが結婚適齢期を過ぎてしまう。それに家臣にも家族がいる。食わせてやれる程度の給与は払ってやらねばならぬ事を考えると、先はもっと長い」


沈痛な面持ちでイモータンが呟く。

ただでさえ、アルバート王暗殺の経緯があるのだ。

そりゃ婿の相手を探すのも一苦労だろうが。


「娘も今年で20歳になる。26歳の女に婿の宛があると思うか?」

「まあ、普通は……もっと若くに結婚しますね」


言葉を濁しながら、横のスズナリ殿を見る。

彼と付き合っているという噂のあるエリートの女性辺りだと。

確か、アポロニア王宮魔術士長だったか?

彼女が28歳で行き遅れと有名だ。


「まあ、王宮魔術士長のように28歳過ぎるとキツイですね」

「王宮魔術士長を評価の基準にしてもらっても困るぞ。アレはエリートすぎて婚期が遅れただけではないか。今は次期国王のスズナリ殿が相手だと言うし。男側が良いというなら、何も問題はないのだがなあ」


イモータン殿は、椅子に座るスズナリ殿を見ながら深く深くため息を吐く。


「スズナリ殿に世代交代されれば、当家の名誉も少しマシになるだろうか」

「アルバート王の試練を超えた時点で名誉は回復したとも言えますよ」


スズナリ殿が慰めるように言う。


「まあとにかく、ただでさえ訳アリ――傷がついた家だ。なんとか早く爵位を取り戻し、婿を探さなければならん」

「はあ」


そういう理由なら、中級・上級者パーティーのように、クリーピングコイン以上に稼げるモンスターを相手取るしかないか。


「実力の方は大丈夫なんですか」

「申し分ない。自分達の力量を鑑みるに――中級者程度のパーティーと考えてもらっていい」

「そうですか」


イモータン殿の背後。

チェインメイルに身を包んだ壮年の騎士三人に眼をやると、確かにその程度の実力はあると見える。


「それでは期待しています。ただ来ていただくのは大分先ですがね」

「それも伺っている」


冒険者ギルドの完成まであと4か月。

大分時も過ぎて来た。


「これで人員はひとまず揃ったのかね」


お互いの話が終わったところを見計らって、スズナリ殿が声を掛けてくる。


「お陰様で、一応のパーティーは揃いました」

「それは何より」


スズナリ殿の背後からスケルトンが動き出し、三人用のワイングラスとワイン瓶を手に近づいてくる。

本当に酒好きだな。


「まあ、挨拶も終わったし一杯行こうか」


私とイモータン殿、そしてスズナリ殿は中身の入ったワイングラスを一つに重ね、天に掲げて呟いた。


「それではイモータン殿の爵位復権を願って――乾杯(プロージット)」


今更だが、本当にどんな意味があるんだろう、この行為。

私は疑問を心中に抱きながらも、ワインの口触りの良さに少し微笑んだ。



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