第29話 ビンボー貴族とコボルトパーティー

武装したコボルトの集団が、それ以上の子供達に囲まれている。

『危ないから離れてください。メイスを握らないように』

そう書かれたホワイトボードを持ちながら、彼らのリーダーがこちらを向く。

そうして頷き、ホワイトボードを書き換えた。


『コボルト戦士団リーダーのマグワイアです。よろしく』

「むっちゃモフモフしたい」


私は胸までの身長も無い6人のコボルトを見てそう呟いた。

いや、そうではない。


「領主のカーライルだ。こちらこそよろしく」

『さっきの言葉は何だったんですか』

「思わず本音が出た」


コボルトの集団に囲まれて、モフモフしながら生きたいだけの人生であった。

違う、今それはどうでもいい。

彼等は今後ホームとして活動することになるダンジョンの下見に来たのだ。


『まだ宿は出来て無いんですよね』

「今は後回しだ。悪いが今日は小屋で雑魚寝してくれ」


モンゾ達が使っている小屋しか今は空いていない。

客人を迎えるには無礼だが許してくれ。


『教皇領――ダークエルフの村に居留地を構えようと考えているのですが』

「悪い事は言わんから止めておけ。滅茶苦茶ダークエルフにモフられるぞ。宿住まいがお勧めだ」

『そうします』


コボルトはモフモフされることを、思った以上に嫌がると最近知った。

子供相手のそれは仕方ないというか、諦めているだけらしい。

私は子供を領主権限で蹴散らしながら、コボルトパーティーと連れ立って歩き出す。


『今日一日休んで、明日はダンジョンにアタックしたいと考えています。王都のギルマスから聞いたところによれば、クリーピングコインが出るとか』

「ああ、出る出る。明日はたっぷり稼いでくれ。他のモンスターに注意しながらだがな」


私は注意を加えながらも、我がダンジョンの良い点をアピールする。

クリーピングコインが出る事くらいしか良い点ないけどな。

金を稼ぐことは重要な事だと思う。


『そうですね、教会に収める浄財稼ぎもはかどるというものです』

「……失礼だが、まずは装備の新調や強化に充てた方が、と言いたいところですが」


このコボルトパーティーの大半が、教会から助け出された過去を持つ者たちであることは知っている。

だが、優先順位と言うものが在るだろう。

そう思い、コボルト達の装備を見るが。

コボルト隊の装備は大分使い込まれているが、しっかりと補修・補強されている。

まるでドワーフの集団が手を入れたかのように。


「その装備は?」

『今、コボルトの山の酒蔵作りでドワーフ達が集団でやってきてるんですよね』


かきかき、とホワイトボードにマグワイア君が走り書きをする。


『その方々にコボルトでも装備できる武器を頼んだところ、そりゃ面白いと寄ってたかって製作・強化を』

「正直、羨ましい境遇です」


ウチにも何か変な鉱石が出て、やってこねえかなあドワーフの集団(文明集団)。

儚い祈りを願いつつ、私はコボルトの装備の凄まじさに少し嫉妬した。










「魔法剣でも欲しいなあ」


冒険者時代に使っていた奴があったが、今はもう無い。

この国がドラゴンに襲われた時に冒険者として駆り出された事があった。

その際、ドラゴンの鱗甲を貫くことが出来ずパキリと折れたのだ。

本当にパキリという音だった。

あっけない最期だった。悲しき我が愛剣。


「チェーンメイルも綻びてきているし、ちゃんとしたフリューテッドアーマーが欲しい」


金はあるのだ。

王様から借りた金が。

しかし、自分の装備を整えるのは投資と言えるのだろうか。

言えなくもない。

というか、死んだらお終いだし。

これくらいは見逃して欲しい。


「ゼスティから分け前は貰ってるんだがなあ」


それだと装備の新調分には足らん。

魔法剣は高い。

初歩的な"切り裂き"の、刃が鋭くなる魔法がかけられた剣、世間で呼ばれるところのロングソード+1でも金貨300枚かかるのだ。

国家で正式に採用されているフリューテッドアーマーは金貨200枚かかる。

しめて金貨500枚、さて、どうしよう。


「買うか」


まだ金貨は5000枚ほど残っている。

今度王都に行ったときにでも、マリエ・オズーフ商会に用意してもらうとしよう。

ついでにどっか家紋も入れてもらおう。

昔の冒険者時代を思い出す。

あの頃は酒と装備に全額を費やしていた。

装備はドラゴン戦で全て失ったが、代わりに命が助かった。

今回もそうなる事を願う。


「とはいえ、36のオッサンがどこまで”あの頃”の実力に戻せるかね」


私はやや黄昏ながら、エールをあおる。

そして杯を置き、ぐっ、ぐっと右手で握り拳を作るが、とてもあの頃の握力に戻せるとは思えない。

筋肉はいつまでも鍛えられるというが、やはり体力の限界と言うものがある。

私ははあ、とため息をついて、またエールを瓶から杯に注いだ。


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