第28話 冒険者の目的とマーガレット

冒険者の目的は色々だ。

何を当たり前の事を、と言われるだろう。

人生個々それぞれの目的があって当たり前の事だとも。

だが、私が考えるのは人生設計の整理だ。

人様にとやかく言われる状況ではない。

再度考え直そう。

冒険者の目的は色々だ。

貧乏人が、その日暮らしの金のために。

親が冒険者だったが死んでしまい、止むおえず少年剣士に。

――貴族だったが没落して残ったのは剣だけだった。

そんな成り行きでなってしまった冒険者達。


「ふむ」


単純に冒険というロマンを追い求めて。

凶悪なモンスターを倒し、名誉と名声を得て貴族となるため。

己の力量の限界を確かめるため。

目的を曖昧ながらも持った冒険者達。

――もっと例は挙げられるが、これくらいにしておこう。

主題ではないのだから。

それに、例外と言うものはある。


「はあ」


金なんてその日のうちに使い果たし、その日暮らしの生活で良かったはずが王になった例。

アルバート王の事だが。

危険何て全く望まないらしい、おそらくは文官が適性のはずだが、冒険者という荒くれ者の代表となった例。

王都のギルドマスターの事だが。

そう、本人も気づかないうちに人生の終点に辿り着いているのはままある。


「ほう」


私が言いたいのは、だ。


「ここが人生の終着点になるんじゃねえだろうなって事だよ」

「そんな事気にしてたんですか、マーガレット」


適当に相槌を打っていたルリが、エールを飲みながらあきれ顔で呟く。


「2,3年はここにいる事を決めちまったんだぞ。頭によぎりもするだろうが。アタシは新しい冒険に出かけたかったのに」

「なりませんよ、まだまだ私達若いんですから、そんな事気にしなくても」


ルリはエールをぐびりと飲み干した。

ここはカーライルの屋敷の、それぞれに与えられた私室。

私の部屋だ。

ベッドだけでなく小さな机と椅子も置いてあり、住み心地は正直悪くない。

ルリの座る分の椅子は、ルリの部屋から持ってきた。

どうやら、パーティー全員が同じタイプの部屋の様だ。


「まあ聞け、割と真剣に人生の終着点というやつを考える」

「ひょっとして、このままでいいとか考えたと」

「一瞬、頭によぎりもした。まあ悪くはない生活だなと」


このままダンジョン生活を送り、一生分の不自由ない金を貯めて引退する。

結婚相手を探す。

あとは青空剣術指南所でも運営する。

それも悪くない。

この寂れた田舎町も、6か月も経つと慣れた。


「私は実家の治療院を継がなきゃいけないので、その案は無しですね。今はただの修行中の身ですよ」

「兄貴がいるんだろ?それでも継ぐのか?」

「別に後継者がいるから働いちゃ駄目ってわけでもないでしょう。それに、長兄が錬金術師目指して冒険者になったのと同様、次兄もちょっと最近動きが怪しいんですよねえ」


私が冒険者になると決めたとき、羨ましそうな顔をしてましたよ。

そんな事をルリは呟きながら、またエールを瓶から注ぐ。


「ちなみに長兄は冒険者として有名ですよ、アルデールっていうんですが聞いたことあります?」

「……武闘大会の武器無し部門の優勝者名じゃねえか。聞いたことあるも何もねえだろ」


ふふん、とルリが鼻を鳴らす。

どうやら自慢話らしい。

錬金術師が何でまた武闘大会で優勝してんだ、とツッコミどころはたくさんあるが黙っておく。

あえて機嫌を損ねる必要もあるまい。


「話を戻すが、ゼスティやロックはどう考えてるんだろう? アイツらの方が妙にこの領地に関りが出来ちまってるだろう」

「青年団長と鍛冶師ですからねえ。しかも二人とも弟子までとってますし……」


しかも長命だから気長というか、のんきだ。

このまま、この領地がひと段落着くまで滞在を決め込んでいるのは間違いない。

それはアタシもだが――


「ふむ」


アタシもエールをあおる。

そういえば、カーライルと約束をした。


「そういえば、カーライルと約束をしたな。ダンジョンが稼げるようになったら抱えきれないくらいの金貨をくれると」

「確かに、そんな口約束してましたね。本気なんですか?」

「私は冗談だけど、カーライルは本気なのかもしれんね」


両手で抱えきれないほどの金貨か。

本当にくれるというなら、それで私の冒険はおしまいにしてしまっていいのかもしれない。

まあ、大分先の話だが。

何より、冒険者と言うのは死人と同じだ。

いつ死ぬかわからない存在だ。

2,3年後自分が生きているかどうかもわからない。


「まあ、明日の事なんてわからんがね」

「それでもマーガレットのように考えるのは悪くない事だと、私は思いますが」

「そうだろ」


私はルリの同意を得て、やっとにこやかに笑う。

結局は、酒を飲みながらの話だ。

私が無意味な賛成の意を受け取りたかっただけの話にすぎない。


「さて、明日は青空剣術指南所でまたビシバシ村民をシバくとするか」

「私もエールはここまでとしておきましょう」


瓶一つ丸々開けといて、ここまでも何もないだろう。

ただ酒が無くなっただけの話だ。

私はルリの酒豪ぶりに笑いながら、話を終え眠る事にした。

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