第27話 クリーピングコインと初心冒険者道

改築中の屋敷。

その中で一番広いエントランスホールにて全員が床に座り込み、ゼスティ一党にて会議を行う。


「もうこいつらばっか相手にしてたらよくね?」


ジャラリ、とポケットから投げ出したクリーピングコイン――今はただのアポロニア金貨と化したそれを指さして、マーガレットが呟く。


「週一回の冒険でおよそ12,13匹に遭遇……月にすると金貨50枚。クリーピングコインの収益だけで」

「カーライルへの分け前もあるとはいえ、間引き依頼の頃と収入変わらねえ」


マーガレットがにこやかに、全員のポケットから出した金貨を集め、それをまた全員に配分する。

1階でホブゴブリン相手から装備等を奪い、また壁から浮き出た鉱石等も採取しているため、間引き依頼で月40枚払ってた頃よりもゼスティ一党の儲けは良いだろう。

しかしゼスティは眉を顰め、少し考え込んだ後に。


「貴女の『冒険がしたい!』という気概はどこへ行ったんですマーガレット」

「う」


マーガレットの顔を指さしながら、呟いた。

それに対してマーガレットは小さく呻くのみ。

確かにそうだ。

今のマーガレットの目は金貨に溺れている。

よろしくない傾向だ。


「これがクリーピングコインの真の呪いとも言われているんですよねえ。初心冒険者の歩みを停滞させる」


ゼスティが指でコンコン、と床を叩きながら、何か講義でもしているかのように呟く。


「2階にはクリーピングコイン以外のモンスターも出るんですよ。いつしか実力も気概も衰えた初心者冒険者がクリーピングコインに夢中になってる際に、その他のモンスターに後ろからバッサリ」


なるほど、聞けば確かに呪いと言ってもいい。

ゼスティはため息を吐いた。


「クリーピングコインは確かに美味しいモンスターです。ですが、それで稼いで次の武器を新調次第、第三階層に向かうのがよろしいと考えます」

「じゃあ第三階層へ行けば、今後は狩らないって事か?」


頬を膨らませながら、マーガレットが反論する。


「遭遇したら狩りましょう。だが背後に注意して。何度も言うように、クリーピングコイン以外のモンスターも出るんですからね」

「だいたい、武装を新調するのに何か月ぐらいかかる?」


ゼスティの言葉に横やりを入れる。

それに少しばかり考えた後に回答が為される。


「せっかくです。冒険者ギルドが出来るまではクリーピングコインで稼ぎましょう。それで稼いだ金で武器を新調して、そこから先は第三階層へ挑戦です」


ゼスティの判断。

それに対する、パーティー一同の反応は。


「お前が正しい。賛同するよ」

「同じくワシも」

「私も」


マーガレット、ロック、ルリ全員が賛成のようだ。


「カーライルは」

「私一人反対意見を出すわけにもいくまい」


正直、クリーピングコインの呪いに一番かかっているのはマーガレットではなく私なんだよなあ。

オッサンだから身体が重い。

楽して稼ぎたいのだ。

身体を自由自在に動かせたのはいつ頃か。

かつては王都の武闘大会で決勝まで勝ち進んだ過去が懐かしい。

その決勝戦で騎士団長に半殺しにされたのは今になっても恨んでいる。

何もあんなに衆目の前でボコボコにしなくてもよかったのに。

首を振り――過去への想いを断ち切って、現実に戻る。


「私も賛成だ。ゼスティの案で行こう」

「それでは全員一致ということで。決をとりました」


パチパチパチ、と一人で拍手をするゼスティ君。

なんかゼスティ君、青年団長になったり、植物魔法の講師になってから、一挙一動の仕草がそれに変わってきている。

まあ、職業病として無視する。

そういえば、だ。


「マーガレット、青空剣術指南所の具合はどうだ?」


マーガレットが領民の青年や子供達相手に、剣術指南所をついに開いたのだ。

他にやる事ないからが理由だが。

更に立派な建物もないから、青空の下で剣を振るっている。


「……ひょっとしてカーライル、領民から冒険者パーティー出る事期待してるのか?」

「もちろんそうだぞ」

「あのなあ」


マーガレットが腕を組みながら呟く。


「あんなもん趣味の領域だよ、趣味。精々ゴブリン退治に怯まなくなるのが関の山だよ。剣術より、いざという時の度胸と自信を鍛えること優先してるし」

「そうなのか?」

「アタシだって6年間、街の剣術指南所に通って卒業免状だぜ。いくら素質があるガキが居たって、何年かかることやら」


私の野望は脆くも崩れ去った。

いや、だが長期計画ならアリだな。

マーガレットがもし2,3年後に居なくなっても、続きは街の剣術指南所に修行に出せばいい事だし。

まあ、そんな金があったらの話だがな。


「ところで、いざという時の度胸と自信を鍛えるってどんなの?」

「アタシが適当に受講生をしばく。そのうち、痛みが身体にしみついてビビらなくなる」


それお前がストレス解消しているだけじゃないのか。


「剣術教えろや」

「教えてるよ。並行してだけど」

「並行?」

「投石や、集団で一人を取り囲んで棒で殴り殺すやり方とか優先的に教えてるからさあ」

「マーガレットは街の剣術指南所で何を学んできたんだ?」


酷く疑問に思う。

私が貴族として――貴族のアカデミーに通う金は無かったが。

下級貴族として学んだ剣術のそれとは大きく違う気がする。

いや、練兵としては有効だと思うけどさ。

私は、今は冒険者として領民を鍛えて欲しいんだが。


「とにかく、アタシの好きにさせろ。いつか役立つって。戦争のときとかに」

「アルバート王が生きている限り、他国との戦争に領民が駆り出される事なんぞないわい。天下御免、恐怖のドラゴンバスターだぞ。万の敵が相手でも一人で何とでもするわ」


私は一言だけ言い返して、大きくため息を吐いた。


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