第25話 ビンボー貴族と森の魔女
今では教皇領となった森の中央部。
そこに木造建築でできた、ボロい、もとい年月を経た一軒家がポツンと立っている。
私はノックをして、出てくる人を待つ。
出て来た魔女っ娘は、まず苦言を吐いた。
「支払いが遅いのじゃ」
「忘れてたんですよ」
「言い訳ならまだしも、そこで堂々と忘れてたとかぬかすか普通」
どういう神経しとるんじゃ。
そう呟きながら、ゼスティ君からせしめた飴玉50個を、森の魔女っ娘が受け取る。
「本当に300年もここに住んでいるのか?」
「住んでるというに……爆発魔法で爆破してやろうか」
「ああ、召喚術以外にも魔法使えるんですね」
「建築魔法も小規模なら使えるぞ。この家もそれで建てた」
無い胸を張りながら、自慢げに呟く森の魔女っ娘。
「……もっとも、300年の間に術法は忘れて久しいが。この300年の間も何回かは使ったんじゃけどな、さすがにあんまり使わんと忘れる」
ボケてんじゃねえのか、この魔女っ娘。
とにかく、用も済んだ。
「それではさようなら」
「ちょっと待て、帰るのか」
「いや、要件は済んだでしょう」
「まあ待て。茶ぐらいは出してやる」
魔女っ娘はそう呟いて、ワンドを振りかざす。
そうすると、部屋の中のテーブルにお茶とクッキーが湧いた。
「うお」
「なんじゃ、この手の魔法を見るのは初めてか」
ふふん、と魔女っ娘が自信を持って笑う。
「非効率すぎて300年の間に廃れた魔法ですね」
「えっ、そうなのか?」
魔女っ娘が疑問を呈する。
だってさあ。
「だってわざわざ魔法を覚えるより、手作業で出した方が早いんですもん。これ無から物質を作り出してるわけじゃなくて、すでに用意した茶とクッキーを空間から取り出してるだけでしょ。空間魔法といっても場所を変えられるわけでもないですし」
「いや……それもそうじゃが。そうか、廃れたのか」
しょぼん、と魔女っ娘がへこたれる。
どことなく魔法帽も萎んでいる気がする。
300年の差は大きいなあ。
「まあ。せっかく出された物ですし頂いていきますが」
「あ、でも逸失魔法的なアレで恰好良いかも……」
何やらブツブツと呟く魔女っ娘を無視しながら、私は勝手にテーブルの椅子に座り、クッキーをつまんだ。
◇
「何じゃ、この森が教皇領になったのはダンジョンが絡んどるのか」
「そうです、急にダンジョンが湧いたんで困ってるんですよ」
世間話をしながら、この森が売り払われた経緯を話す。
「いくらお前の領地とはいえ、教皇領とするとは良く決断したの」
「他に道は無いでしょう。どうせ使ってない森ですし」
たまに猟師が鹿取るくらいだったし。
ときどき熊が迷って村に出るから、むしろ領民の安全度は増したんじゃなかろうか。
良い判断だった、うん。
「王はキレたりせんかったのか?」
「うん?」
何か聞き逃せない事を耳にしたぞ。
「いや、だから幾らお前が領主で、お前の領地内の事とはいえ、その安堵を保証している王が勝手な事すんなよとキレたりせんかったのか」
「……」
そういや王様に話してねえや。
しかし、キレたりはせんだろう。
話してないのは拙いかもしれんが。
今度、話に行こう。
「王様怒りますかね?」
「いや、ワシに聞かれても困るんじゃが……教会ってアレじゃろう」
ぶっちゃけ国家にとっては恐怖の象徴じゃろう。
どんな行動に出るか分かったもんじゃないし。
そんな武装勢力に領地与えて大丈夫か。
そう魔女っ娘が問いかけるが。
「現在の王様、アルバート王は良政を敷いていますし。むしろ教皇から他国への侵略を求められる噂があるぐらいだから問題無いんじゃないですか」
「この300年の間に何があったんじゃ」
「この国がドラゴンに襲われたりしましたが……その様子だとご存知ない」
「知らん」
我が人生の過酷極まりないシーンを、知らん、の一言で切り捨てられる。
本当に危機的状況だったんだけどなあ、アルバート王が居なければこの国は滅んでいた。
そういう状況だった。
「お前もドラゴンと闘ったりしたのか」
「しましたよ。一撃浴びせましたけど、皮膚固くて通用しませんでしたが」
「良く生きてたな」
「雑魚だから無視されたんですよ」
殆どアルバート王との一騎打ちという状況だったからな。
ドラゴンもアルバート王以外は蚊のような物として無視していた。
私は蚊だ。
だから生き延びられたんだろう。
というか未だに疑問に思うんだが。
何故あのドラゴンはこの国に攻め込んで来たんだろう。
「……」
軽い長考に入る。
「なんじゃ、何か気になる事でもあるのか」
「いいえ、大したことではないので」
でっかい爬虫類の考えなんぞわからんな。
結局は、ただの自然災害だったのだろう。
そう思う。
この魔女っ娘だってそうだ。
何でここに住んでんだかわからん。
「ところで……何で300年も前からこの森に住んでるんです」
なので聞くことにした。
「……ワシがこの森に住んでる理由?」
別に魔女っ娘だからといって迫害から逃げて来たわけではないだろう。
本来なら、他の長命な魔女と同様に王国のアカデミーにでもいるような存在だ。
ただし。
「忘れた」
ボケていなければだが。
私は出されたハーブティーを喫しながら、残念な目で魔女っ娘を眺めることにした。
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