第23話 ビンボー貴族と現状整理

「ふう」


やっと王都から屋敷の私室に帰り着き、ため息をつく。

少し、現状を整理しよう。

えーと、金はいくら使ったんだっけか。

ダンジョン発見から4か月経った時点で金貨3428枚を消化。

残り8ヵ月で――予定外のコストとして鉄材で500枚。

サイクルコストとしてモンゾ一党に400枚。

ゼスティ一党に240枚。

計、金貨4568枚なり。


「……なんとか体制を整えるまでには、半分以内に収まったか」


安堵のため息をつく。

だが、これは借金。

いつかアルバート王に返さなければならない金だ。

それを考えると頭痛がしてくるが、まあいい。

冒険者ギルドとしての収益が来年からは入ってくるはずだ。


「まあ、あんまり期待できそうにないが」


揃ったパーティーを整理する。

来年からはコボルトのパーティー、ダークエルフのパーティー、スズナリ殿に紹介された『奴隷貴族』のパーティー。

それにたまにくるモンゾ隊。

これで回していくことになる。


「4パーティーじゃなあ。収益はあまり期待できそうにない」


考える。

今、するべきことは何か。

人員不足。

それは変わっていない。

とすれば。


「やはり、ゼスティ達を説得して、なんとかウチの領地をホームに活動してもらうしかないか」


私は机に肘をかけ、顎をその上に乗せる。

というか、我が領地に必要なのだ、彼等という人材は。

だが、何と説得する?

それを考えなければならない。


「……情で押せそうな気もするがな」


それもよろしくない。

やはり利益がなければ。

丁度屋敷の客室も――冒険者ギルドに改築してからも空いているし、滞在費無料で済ませてもらうか。

思い立ったが吉日と言う。

私は立ち上がり、ロクサーヌにゼスティ一党を呼び集めてもらう事にした。











「私はもっと外で冒険がしたいんだけどなあ……」


マーガレットが頭をボリボリと掻きながら、ややあきらめ顔で呟いた。


「お前らは違うんだろう。特にゼスティ」

「青年団団長になっちゃいましたからねえ」


元団長は副団長に追いやられたのだ。

普段の行いが特に悪くないが、特に優れてもいないのが悪いのだ。

哀れ元団長。


「元団長に土下座されて、植物魔法を教えてあげる約束をしちゃったんですよね」


講義料も頂く予定になっています。

ちなみに元団長だけでなく、領民の複数名が講義を希望しているらしいと聞いた。

便利だからな、植物魔法。


「2,3年はここに滞在するつもりになってます」

「月に金貨30枚もらえたら、私も文句はなかったけどさ……」


はあ、とマーガレットのため息。

彼女は次にロックを見た。


「今、子供の志願者2,3人に鍛冶を仕込んどる最中じゃぞ。当たり前じゃが基本的な事でも2,3年かかる」


本音を言えばもっと時間が欲しいくらいじゃが。

本来は生涯かけて教え込む仕事じゃぞ、とロックが呟く。

マーガレットは舌打ちしながら、次にルリを見た。


「私はマーガレットと同じく、ここでの仕事は1年程度と思っていましたが……治療魔術師としての仕事がありますしねえ。まあいいじゃありませんか。滞在費タダなら」


そういってルリは、マーガレットの背を叩く。

肩までは手が届かないのだ。


「うん、お前らはそういうと思ってた。そして私はこのパーティーから離脱するつもりは無い」


両手を挙げて降参のポーズをするマーガレット。

特に我が領地にこだわりのないマーガレットだけが損を食う形になる。

若干どころか、凄く悪い気がする。


「すまんな、マーガレット」

「いいさ。私はすでにカーライルもパーティーの一員だと思ってるしな。私も休日は剣術指南所でも開くかな……卒業免状は持ってるし」


それは有難い。

ダンジョン関係なくゴブリン程度はたまに湧くしな。

……まあ、今は元戦奴50名という強力なダークエルフ軍団が森に滞在しているが。

それに甘えてばかりというわけにもいくまい。


「それでは今後ともよろしくお願いする」


礼はキチンとしておかねばならない。

背筋を伸ばし、ピシッと頭を下げる。

いいよいいよ、と言う感じでひらひらと手を振るマーガレット。


「ところで、第二階層に挑むのはいつにする?」

「挑む気なのか?」


私は疑問を呈する。

が、愚かな疑問だった。

そりゃ装備一式も新調し、パーティーの連携も慣れてきたんだ。

次の階層を目指すのは冒険者として当たり前か。

危険度は増すが。


「モンゾから情報を聞きました。すでに準備は整っています。あのダンジョン、第二階層には”アイツ”が出るそうですから、是非とも行きたい」

「アイツ?」


ゼスティがコホン、と咳をつき、間をおいて口を開く。


「クリーピングコイン――呪われた金貨の化物ですよ」


ゼスティはニヤリと笑いながら、殺すとそのまま金貨になるモンスターの名前を読み上げた。


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