第21話 ギルドマスターとビンボー貴族

王都のギルド。

運よく、総合受付役たるアリーナ・ルル嬢がいたので、さっそく冒険者の斡旋を嘆願する。

土下座も試みるが、それは手で無理やり止められた。

カーライル様、仮にも貴族がそれはどうなんですと止められた。

そしてルル嬢が返答を為す。


「お断りします。そもそもギルド連盟に加盟していない他ギルドの話ですので。信用できる冒険者の斡旋どころか、本来はウチに何の関係も無い話をされても……今までの対応はあくまで我がギルドの好意ですよ」

「他ギルド?」

「カーライル殿のギルドが、ですよ」


王様からギルドの創設権利をもらったでしょう?

ウチ、そんなものもらってませんよ。

アリーナ・ルル嬢は容姿端麗な顔の眉を、僅かにしかめながら答える。


「あれ? 王都のギルドって勝手に設立してるの?」

「公認自体はされていますよ。でも基本独立独歩のギルドですので、ウチは」


勝手にウチはできたんですよ。

何百年も前に冒険者達が勝手に作ったギルド(互助会、兄弟団)なのだ。

そうルル嬢が呟く。


「で、カーライル殿は正式に王様から許可されたギルドです」


つまり。

どういうことだ。


「カーライル殿の冒険者ギルドは、のけもの、というわけです。まだ当国の冒険者ギルドのグループに加盟してません。当然、世界中の冒険者ギルド連盟の方にも参加してません」

「なんで王様から正式に創設権利貰った方が、のけものにされてるんだよ!!」


王様、絶対わかっててやったな。

アルバート王から冒険者ギルドにギルド設立を、一切合切を依頼することも可能だったはずなのに。

本気で私の苦境を面白がってやがる。

とりあえず。


「じゃあギルドのグループに入れてくださいよ!」

「お断りします。グループに入れてダンジョンからモンスターが溢れ出した場合、冒険者ギルドグループの責任問題になりますので」


絶対拒否。

その表情を崩さずに、ルル嬢は冷たく私の嘆願を打ち切ろうとする。


「つまり、傍から見て正常に運営されてからでないと」

「ギルドのグループには入れられませんね。先に言っておきますが、ギルマスも絶対お認めになりませんよ。甘いように見えても当国の冒険者ギルドの総責任者です」


望みが絶たれた。

私は受付のテーブルに顔を突っ伏しながら、呻く。


「ただ……ギルマスから話があると伺っています。一度お会いになりますか?」

「お会いしたいが、先ほどの話だと」

「その件に関してもです」


ルル嬢は受付の背後の階段に視線をやり、それを昇るように促す。


「まあ、ギルマスなら良い考えもあるかと」

「はあ」


私は頭をぼりぼり掻きながら、階段に足を向ける。

しばらく歩き、一番大きな――ギルド長の私室の前で立ち止まり、ノックをする。


「失礼、カーライルと申します」

「スズナリです、入って頂いて構いませんよ」


返答に有難く応じ、ドアを開いて視線を中の人物にやる。

スズナリ、名前はただそれだけ。

家名は不詳。

ただし、この王国のアルバート王の一人娘、その婚約者である。

だから、そのうちに王国名を冠する名前、スズナリ・アポロニアになるかもしれないが。

とにかく、次代の王候補を前にして私は一つ咳ばらいをしながら会話をする。


「今日は運が良かった。今まで会わなくて申し訳ない。前から一度お会いしたかったのだが、普段はダンジョンギルドの方に居るものでね」

「前から、会って頂けるつもりだったのですか」


私は素直に疑問を口にする。


「そうです。アルバート王から無茶ぶりされていると聞けば気になるだろう? 一度会って相談に乗りたかったのだが、機会が無かった」


あ、無茶苦茶いい人だこの人。

そりゃモンゾに甘ちゃん扱いされるわ。


「では、早速相談に乗って頂いても?」

「というか、相談の内容など大体読めている。冒険者が足りないのだろう」

「そうです」


話が早いな。

そりゃ実際にギルドを運営している側だし、こっちの事情もある程度耳にしているようだから当然か。


「最初に言っておく。残念ながら、当ギルドからの冒険者の斡旋は行えない。理由はルル嬢から聞いたな」

「はい」

「だが、私、スズナリ個人からの紹介なら問題ない。そうだな」

「は、はい」

「ちょうど紹介できる、いい人材がいる。そちらを斡旋しよう。ただし、一パーティーだがな」


あれ、無茶苦茶いい人だぞこの人。

この人早く王様にならねえかなあ。

アルバート王早く王様辞めて代わってくれねえかなあ。

人格に差がありすぎる。


「本当に丁度良かった。実は罪人で、隷属の首輪をはめてるパーティーでな」

「待ってください」


前言撤回。

いきなり何の話してんだこの人。


「奴隷が禁じられているアポロニア王国で隷属の首輪をつけたパーティーをギルドが使いまわしてるなんて噂が立てば、外聞が悪い事この上ない。しかし、辺境の田舎なら大丈夫だろ」

「いやいやいや」


モンゾの案を思い出す。

隷属の首輪をつけたパーティー?

確か。


「待ってください、アポロニア王国法では――王様しか隷属の首輪はつけられないはずでは?」

「詳しく話すが、元フロイデ王国の人間なんだよ」


フロイデ王国――。

数か月前に、我がアポロニア王国に降伏してきた王国。

今では侯国となっている。


「アポロニア王国に取り込まれた際に、フロイデ王国の全ての奴隷は解放されたはずでは?」

「ある貴族を除く。アポロニア王国への服属の際に、ついでとばかりに差し出された貴族だ」

「貴族?」

「アルバート王を毒殺しようとした貴族」

「馬鹿ですかその貴族」


そもそも毒効くのかな、アルバート王。

効かない気がする。

腹に何か毒を打ち消す寄生虫でも飼ってそうなイメージだ。


「昔、間者がアポロニア王国に忍び込み、王の水差しに毒を塗った事があるらしい。その毒殺を図った貴族が服属の際、ついでとばかりにフロイデ王国から突き出された。アルバート王は過去の事と、完全に忘れてたみたいなんだがな」

「不幸な貴族ですね」


まあ、縛り首だろうな。

アルバート王が普通ならばだが。


「そこでアルバート王の悪い癖が起きた。すっかり忘れてたそれを面白がって、よりにもよってその爵位も財産も没収された貴族に隷属の首輪をつけたんだ」

「どんな条件で」

「冒険者となり、金貨3000枚をスズナリに払え。そうすれば隷属の首輪は外れる。ついでだ、エサとして爵位の復権も考えてやろう。外れるまではスズナリに従え、と」


そこでスズナリ殿が自分を指さした。

なんでそこでスズナリ殿が出てくるのか。

私の疑問の視線に、答えが返ってくる。


「多くは言えんが、フロイデ王国の服属に多少ないし関わっててな。その礼金のつもりだったんだろう」

「嫌がらせっていいませんか、それ」

「私もそう思う」


二人、視線を合わせる。

そしてはあ、とアルバート王の被害者同士ため息をつき。

会話を元の路線に戻す。


「私の領地でも外聞悪い事この上無いんですが。奴隷を使っているだなんて」

「だが、他に紹介できるパーティーは無いぞ。それに隷属の首輪がついているのは一人だ。なんとか隠せるだろう」

「我慢して使え、ということですか……というかパーティー? 貴族は一人ではないのですか?」

「貴族自身とその家族と、家臣でできたパーティーなんだ。それなりに人望はあったらしく、家族や家臣からは見捨てられんかったらしい」


スズナリ殿は、テーブルのワインを一口で飲み干した。


「もちろん断っても良いが、どうする?」

「ちょっと待ってください」


私は考える。

その間に、スズナリ殿は従属させているスケルトンに次のワインを注がせて、また飲み干している。

飲んだくれと言う噂は本当らしい。

我が領のエールでも土産にもってくるべきだったか。

考えは――まとまった。


「お受けします。我が領で迎え入れましょう。隷属の首輪はスカーフか何かで隠してもらいましょう。王都の噂話も聞こえない田舎町だから誤魔化せるはずです」

「そうか。では君の受け入れ準備が出来次第向かわせよう。大司教からの手紙を読んだが、7か月後だったか。君の冒険者ギルドが出来るのは」

「そうです」


これでゼスティ一党のサイクルコストの問題も解決。

あとはじっくり、冒険者ギルドが出来るまで方々の問題を解決していくだけだ。

私はため息をついた後、テーブルに私用に注がれたワイングラスに口をつけた。

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