第20話 再度王都へ
「というわけでお邪魔します」
「どういうわけやねん」
領民に飴玉や日用品を売る、マリエ・オズーフ商会の馬車に乗り込みながら呟いた。
「王都まで乗っけてってくださいな。どうせ帰るんでしょ?」
「いや、帰るけどやな。人一人くらい載せるスペースならあるし。でも金払いいな」
「乗合馬車代よりは安くしてくださいね」
「ケチやなあ、いや、その根性は嫌いやないけど」
マリエ嬢は何かに感心しながら、頷いた。
そして領民の御婆ちゃんや子供に飴玉を売り続ける。
だが御婆ちゃんに売った飴玉はゼスティのもとに吸収されるのだ。
そしてゼスティから子供に配られる。
万物は流転している。
「何かアホな事考えとる顔しとるな」
「無茶苦茶高尚な事考えてましたよ」
嘘を吐く。
「頼まれてた鉄材は、5か月後に持ってくりゃええんやんな」
「ええ、建設の際に運んでください」
前回の第一回チキチキ村内会議から一か月が経った。
未だに冒険者を誘引する良いアイデアは浮かばない。
だから、とりあえず王都へ行く。
そして土下座して頼み込む。
チャンスは、モンゾ曰くギルマスまで辿り着けるかどうかだ。
木の先に、訴状でも括り付けてギルマスに突貫しようか。
そうしたら話位は聞いてもらえるかもしれない。
「絶対アホな事考えとるわ。顔見たらわかるんや」
マリエ嬢はうるさい。
そう呟きながらも、飴玉や日用品を全部売りさばき、これで看板はお終いらしい。
後は小屋にあるダンジョンからとれた素材を、回収するだけだな。
「アンタ、小屋から素材取り出す際は手伝いや。馬車代はタダにしたるから」
「有難い」
馬車はオズーフ商会用に設けた小屋に辿り着き、そこから素材を回収する。
鉄材以外でだが。
「そういえば、ダークエルフに売れるものって何やろう?」
「ダークエルフ相手にも商売するつもりですか?」
「そりゃするやろ。ダンジョンで稼いで金持っとるんやし」
そんな事を呟いていると――その当人、ガーベラ嬢が幾人かのダークエルフとともに現れた。
「コボルトのハグは売っているか」
「非売品や」
冗談とも本気ともつかぬ言葉をガーベラ嬢はにこやかに投げかけた。
それとともに、首を振って背後のダークエルフに合図をする。
ダークエルフは布のようなものを――いや、熊の毛皮を広げた。
「熊の毛皮か。買い取りか?」
「熊を狩ったのか? 森に生息してはいるが……」
「結構美味かったぞ。滋養がついた」
食ったのかよ。
エルフのゼスティも、結構酒飲みながら肉ばっかバクバク食うんだよなあ。
やっぱり肉食わんとロングボウは引けんのだろうか。
「ダークエルフが欲しいものは、今は金貨だな。日用品ぐらいはその内買うかもしれんが」
「買取でもウチは全然かまわへん。鹿でも熊でも毛皮があるなら買ったるで」
「有難い」
嬉しそうにガーベラ嬢が微笑む。
そのまま金銭交渉に入るのを横目にしながら、私は小屋から素材を取り出し、馬車へと移していく。
肉体労働は36のオッサンには辛い。
週一でダンジョンアタックも実は辛いのだ。
まあ、王都に出かけてる間は私抜きでゼスティ一党は行う事になるのだが。
それにしても。
「……ああ、嫁が欲しい」
「何やねん急に」
マリエ嬢が私の言葉に反応する。
ガーベラ嬢が続いて口を開いた。
「あのロクサーヌ嬢をさっさと嫁にすればいいだろうに。話に聞いたが、領民は賛同しているようだぞ?」
「ロクサーヌには確かなところに嫁に出します。そういうわけにはいきませんよ」
私は首を振る。
どいつもこいつも、ロクサーヌと私をくっつけたいようだが。
子供時代から育てた彼女に、その気にはなれないのだ。
「嫁さんなあ……ウチが貴族の三女ぐらいなら世話したってもええけど、今の状態やとなあ」
「沈みゆく船には載せられませんよね。判ってますよ」
とにかく、ダンジョンをなんとかしなければならない。
嫁はその後の話だ。
逆に、ダンジョンさえなんとかすればそれはこのビンボー村の収益につながる。
嫁が来る可能性も出来るだろう。
「ああ……それにしても金が欲しい」
「それは私もだ。金貨10000枚くらい空から降ってこないかなあ。そうしたら全員分の顔の疱瘡が治療できるのに。一人分くらいはすぐ溜まるが、全員分となると時間がかかるんだよ」
「アンタら、夢みたいな事言うとらんと働き」
私とガーベラ嬢の空想に文句をつけるマリエ嬢。
「銭の花の色は清らかに白い。だが蕾は血がにじんだように赤く、その香りは汗の匂いがするんやで。グダグダ言わず、働くんや」
「無茶苦茶働いてますけどね、私」
「私もだ」
それなのに金は出ていく一方と言うのはどういう事なのだろうか。
今は投資の時期、そう考えよう。
「と、言うわけで荷物が積み終わったんだが」
「そうか。ほなガーベラ嬢」
「有難う」
マリエ嬢が、熊の毛皮の代金である金貨数枚を渡し、馬車の馬の背に乗る。
「ほな、王都まで連れてったる。ガタガタ道で揺れるけど勘弁しろ、アンタの領地が悪い」
「……冒険者ギルドが出来る頃には、道もちゃんと舗装してますよ」
「そやったらええけどな」
領地を貶されながら、それを甘んじる。
領民たちの完全な道づくりは冒険者ギルドが出来上がるまでに終わるのだろうか。
そんな事を考えながら、私は馬車の中でひと眠りすることにした。
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