第19話 第一回チキチキ村内会議 後編

ゆっくりとコンコルド君は文字を書き終え、ホワイトボードを私たちに見せた。


『コボルトの冒険者パーティーが居ます。こちらに誘引できるかと』

「コボルトの冒険者パーティー?」


闘えるのかコボルト。

コンコルド君の体躯を目で測るが、130~140cmも無い。

私は疑問に思うが、居ます、というからには居るんだろうな。


「誘引できるとは?」

『冒険者パーティーの内の多数が、以前教会にお世話になった事がある者です。教皇領も絡んでるとあれば、協力いただけるかと』

「教会にお世話に?」


モロゾフ大司教の方を見る。


「ああ、以前にコボルトを50名ほど奴隷商人から解放したことがありまして、その件ですね」

「私達ダークエルフと同じだな」

「コボルト達は、戦奴ではなく酒蔵で働かされていたようですがね」


モロゾフ大司教とガーベラ嬢の会話を耳にしながら、少し考える。

戦力的にはどの程度期待できるのだろう。

そう思うが。


『戦力的には新人パーティーレベルですので、そこは当てにはしないでくださいね』


先に回答があった。

別に構わん。

来てくれるだけで有難い。


「是非、連れてきてくれ。どれくらいの時間が必要だ」

『丁度、冒険者ギルドができる8ヶ月後ではどうでしょう』

「なるほど」


これで新人パーティーが3つと、熟練者パーティーが1つ揃う。

と、なるとだ。


「モンゾ、あと8ヶ月の間になったな。よろしく頼むぞ」

「ちょっと待て、いや、そうなるのか。俺たちクビだわな」


間引きには新人冒険者パーティーが3つあれば十分なのだ。

月金貨50枚もかけて、来てもらう必要はなくなる。


「じゃあ8ヶ月後以降は勝手に来るようにするわ」

「来るのかよ」

「ガーベラ嬢がいるからな」


モンゾが隣の席のガーベラ嬢に熱視線を送る。

だが――


「いや、顔の疱瘡を治すまで恋愛沙汰に興味は無いぞ」

「俺と付き合ってくれれば、顔の疱瘡なんてすぐにでも」

「いらん、自分の力で治す」


取り付く島もない有様である。

……まあ、モンゾのパーティーが来てくれること自体は有難い事である。

だからガーベラ嬢、我慢して適当に相手してくれ。

そう祈る。


「さて、コンコルド君が良い意見、というか対案を出してくれたのはいいが」


それじゃあ足りないんだよな。

モンゾのパーティーが抜けても、未だにサイクルコスト、金貨30枚を支払ってゼスティ一党を雇っている状態となる。

せめて、そこから脱却したい。


「何か、冒険者を誘致する良いアイデアは無いかな」

「もうクビが決定したから言っちまうんだがよ」


モンゾがガーベラ嬢への求愛を止めて、こちらを向く。


「何だモンゾ。何かいい案あるのか」

「いい案と言うか、悪い案というか。ガーベラ嬢やコボルトのさっきの話題で思いだしたんだが」


かりかり、とこめかみを指で掻きながら、何故かやや言い辛そうにモンゾが呟く。


「借金漬けのパーティーを連れてくるのはどうだ?」

「何だと?」


借金漬けのパーティー?

どういう意味だ。


「言葉の通り、借金漬けの状態に陥っているパーティーだ。冒険依頼の失敗だけならいいが、その際にヘマをして逆に違約金を払う羽目になったパーティー。凶悪なモンスターに遭遇して半壊状態に陥り、パーティーメンバーへの見舞金を払い、金欠のパーティー。要は冒険者ギルドのローンから金を借りてるパーティーだ」

「ちょっと待て、少し考える」


何故かチラチラとガーベラ嬢の反応を気にしながら、モンゾが口を閉じる。

少し、考える。

そして答えた。


「一見、良さそうな案だが。それこそモンゾの言うように冒険者ギルドには冒険者ローンがある。そこまで無理して、こんな辺境の田舎町に来てもらえるとは思えんが」

「厳密には、その冒険者ローンすら滞納している奴らを、連れてくるんだ」

「ちょっと待て。そんな奴ら」


当てにはならん。

一切信用できん。

領内を荒らされて逃げられたら目も当てられん。

そう呟こうとするが。


「隷属の首輪をつけろ。絶対に逃げられないように」


褐色の顔色を朱に染めて、ギロリ、とガーベラ嬢がモンゾを睨んだ。

隷属の首輪。

所有者に対して逆らえないようにする、魔法でできたそれ。

いわば奴隷の証だ。


「だから言いたくなかったんだよ! お前これでガーベラ嬢に嫌われたら恨むからな!!」

「いやいやいや」


お前が勝手に言ったんだろ。

モンゾに感謝するかどうかは、これからの話次第だ。

場合によってはガーベラ嬢とも取りなしてやる。


「アポロニア王国では奴隷は禁止されているぞ。隷属の首輪と言われても付けられるか」

「一個だけ抜け道があるんだよ。抜け道っつーか普通抜けられない抜け道なんだが」


モンゾが指を一本立て、それを折って喋る。


「アポロニア王国法、王が認めた場合に限り隷属の首輪の装着を認める」

「待たんかい」


つまり、それはだ。


「王様に話を通せって事か? 事実上の奴隷扱いとなるそれを!?」

「借金を完済すれば隷属の首輪は自動的に外れるように設定できる。奴隷ではない」


いや、奴隷だろ。

アルバート王がそんなこと認めると思うのか。


「アルバート王なら面白いから、という理由で認めそうな気がする」

「そうだろ」

「いやいやいや、待て、アルバート王が認めても悪しき前例として文官どもが認めるとは思わん。奴隷扱いは死ぬほど毛嫌いされてるからな、当国では」

「ダメか?」


考える。

そもそも何でそんな法があるんだか。

いや、今はそれはどうでもいい。

悩む。

皆が黙り込む中、15分ほど悩んだ末にだ。


「却下だ。外聞が悪い事この上ない。隷属の首輪がついている人間が領内を闊歩する姿なんか見たくもない」


ガーベラ嬢がほっと息をついた。


「ガーベラ嬢、モンゾを許してやってくれ。決して悪意で言ったわけではないし、そのアイデアは頂く」

「というと?」

「ローンの返済に困っている冒険者を勧誘しよう。優遇措置をとる」


モンゾが頷く。

自分より良いアイデアがあるのか、とでも言いたげだ。

正直、上手くいくか微妙なんだが。


「王都のギルドから、信用のできる、かつ冒険者ローンを滞納気味の冒険者を紹介してもらう。もちろん、冒険者側にもメリットを与える。素材の買取時の仲介手数料の優遇だ」

「それができたら一番いいね、と言いたいところだ」


モンゾが呆れたように口を開く。


「お前、王都のギルドを甘く見過ぎだ。わざわざカーライルにそこまでしてやる必要がどこにある? 信用できる冒険者? それこそローンの滞納を許してでも抱え込むわ」

「そうだよ、だから頼み込むんだよ。土下座してな」

「土下座……プライドを売るのか」


ガーベラ嬢に土下座求愛してたお前に言われたくないな。


「とにかく、頼んでみるだけならタダだ。一度、アリーナ・ルル嬢に話を通してみる」

「そんなに甘い嬢ちゃんじゃねえぞ、アレ。ワンチャンあるならギルマスまで話が通る場合だな。甘ちゃんだから配慮してもらえるかもしれねえ」


何にせよ。

話は王都に訪れてみてからだ。


「今日はこれ以上の案は出そうにないな」


私は顔の前で手を仰ぐように振った後、会議の打ち切りを告げた。


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