第18話 第一回チキチキ村内会議 前編
改築中の屋敷。
その中で一番広いエントランスホールにて会議を行う。
周囲には、村長、青年団長、執事にロクサーヌ。
そしてダークエルフ代表としてガーベラ嬢、教皇領代表としてモロゾフ大司教殿。
オズーフ商会代表としてコンコルド君。
ついでに何故か副青年団長としてゼスティと、鍛冶師代表としてロック、熟練パーティー代表としてモンゾが集まっている。
ゼスティとロックとモンゾは俺たち関係ないよなという表情だが。
知恵者は多い方が良いのだ。
「そういうわけで、第一回チキチキ村内会議を行う」
「チキチキ?」
ロクサーヌの疑問に答える。
私も意味はよくわからんのだが。
「何か王都で流行ってるらしいぞ」
何となく語呂が良いという理由で付けるらしい。
そんなこんなで集まった面々に意見を募る。
「今後、冒険者ギルドの運営を行う上で何が必要か、何か見落としてる点はないか、現時点での各自の意見を募りたい。何かないか?」
私が声を挙げるとシュバッとガーベラ嬢が手を挙げる。
何か問題でもあるのか。
「コンコルド君の横に座っても良いか」
コボルトをモフモフしたいだけだった。
マスクで隠してない顔の半分を、やや朱色に染めている。
「好きにしてください」
「もしくは膝に乗っけても」
「止めてあげてください。ハグも禁止です。お触り禁止です」
ただでさえ領民の子供に引っ張り回されているのだ。
コンコルド君も疲れているだろうし、止めてあげて欲しい。
悔しそうな顔でコンコルド君の横に座るガーベラ嬢。
そして、勝手にガーベラ嬢の横に移動するモンゾ。
それを無視するように、青年団長が挙手した。
「はい、カーライル様」
「何だ、青年団長」
「私の団長の座がゼスティ殿に追いやられようとしています」
「追いやられてしまえ。次」
糞どうでもいい事を言うな。
ゼスティは苦笑いしている。
私はチッ、と舌打ちするが、青年団長は不満げに声を挙げる。
「舌打ちしなくてもいいでしょう! 俺の立場の危機何ですよ!!」
「知らん。大体副団長とか決めたの私じゃなくて村長含めた老人会だし」
「ぶっちゃけゼスティ君の方が向いてるし。村民じゃないけど御婆ちゃんからの評判とか考えると」
村長がクッソ真面目な顔で呟く。
いや、村民じゃないのに副団長も十分おかしいんだが。
このままじゃ本気でゼスティ君が団長になりかねんな。
私が関与していることじゃなく、領民内で決めてる事なので何とも言い様がない。
「私は好きでやってるわけじゃないんですけど。あと、飴玉でポケットを一杯になるので御婆ちゃんたちにもう渡さないよう言ってもらえませんか」
だからゼスティからの苦情も無視する。
飴玉は子供にでも配れ。
それでますます評判があがって団長にされても知らんが。
「何か、意見はないか」
「はい、カーライル様」
ゆっくりとロクサーヌが手を挙げる。
引っ込み思案の彼女にしては珍しい。
「何だ、ロクサーヌ」
「冒険者ギルドのついでに、宿屋の建設もお願いしたいのですが」
「ああ、それがあったな。モロゾフ大司教殿、頼めますか」
「ついでだし構いませんが。どれくらいの大きさで?」
「10パーティーが泊まれるぐらいで」
おそらく10パーティーもの人間が集まることなど、この村にはないが。
次の建設機会が無い。多少大きめに作っておかねば困る。
例え私が冒険者ギルドの運営を達成できなくとも、次の領主には役立つであろう。
――ネガティブな考え。
それを止め、ロクサーヌを褒める。
「いい案だ、ロクサーヌ」
「有難うございます」
ロクサーヌがメイド服の裾をつまんで礼をする。
他に何か……他人からアイデアを出すだけでなく、自分でも考えねばならん。
「冒険者ギルドの運営スタッフは……素材買取はコンコルド君がやってくれるとして。依頼受付は――依頼なんか来ないから必要ない。酒場の運営だな」
「それは私が」
ロクサーヌが再び手をあげる。
「メイドと兼務になるが問題ないか」
「どうせ屋敷が改築されてギルドになりますので、大して問題ありませんよ」
なるほど。
ならば宿屋の運営は、というと。
「村長、宿屋の運営を領内で頼める奴はいるか?」
「宿屋運営のノウハウがありませんが……まあお金を頂いて客人を泊めるだけでしょう? 満足度にさえ期待してもらわなければ問題ありませんが」
後で色々問題が起きそうな気がする。
しかし、贅沢は言ってられない。
どうせ泊るのなんか現状ではモンゾのパーティーぐらいだぞ。
モンゾなんか馬小屋で寝てればいいんだ。
優先度が低い事項として、とりあえず了承する。
「まあ、それはそれで今はいい。ちゃんと掃除位はしといてくれよ」
「わかりました」
ギルドの運営スタッフは良い。
宿の準備もできる。
次。
「何が足りない」
「有り体に言って、ワシらの数が足りんじゃろ」
ロックが自分を指さしながら言う。
そうだ、一番重要な事だ。
冒険者の数が足りない。
解決する方法は……思い当たらない。
「ようし、どうしようもないな」
私は静かに諦めた――いや、諦めてはいけない。
だが、どうやって解決するんだよ。
一番困難な問題だぞ。
「何かいい意見ある人」
シーン、と静まり返るエントランスホール。
うん、いい意見なんか出るわけないわな。
そんな中で、ペンの音だけが響く。
コンコルド君が、サラサラとホワイトボードに何かを書き始めた。
『少々、当てがあります』
あるのかコンコルド君。
私は身を乗り出して、コンコルド君が次の文章をホワイトボードに書くのを待った。
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