第17話 ビンボー貴族とモンゾの相談
「何をやってるんだ」
モンゾは小屋に。
モンゾのパーティーのためだけにあつらえた小屋に閉じ込められたまま、何か叫んでいた。
「私は無実です。悪辣な領主に無実の罪で投獄されました! ダークエルフのガーベラ嬢まで助けを呼んでください!!」
格子窓からモンゾは何かアホな事を叫んでいた。
ガーベラ嬢にはお前が会いたいだけだろ。
モンゾのパーティー一同はいつもの事と白けた目で見ている。
「おいアホ」
「何だ悪徳領主」
私は相談相手が本当にコイツでいいのかと思いながらも、一応熟練パーティーだし今はコイツしか相談相手がいない事を思い出し、仕方なく会話する。
「冒険者ギルドの事で相談があるんだが」
「俺はガーベラ嬢の事で相談があるんだが」
二人、黙り込む。
「等価交換だ。一つ答えることに一つ答える」
「おう」
格子窓越しに応諾する。
なんかモンゾ、格子窓越しだと本当に囚人みたいだな。
顔、土下座したときの土でまだ汚れてるし。
「冒険者ギルドってどうやって儲けてるの?」
「ん? いや、そんなんも知らないで、よく冒険者ギルド作ろうとしてるな。ていうか、お前も元は熟練冒険者だろうに」
うるさい。
だから今知ろうとしてるんだろうが。
16年前のシステムなんか覚えてるもんか。
モンゾの言う事は至極もっともだが、その意見を蹴散らす。
黙って答えろ。
「しゃーねーなー、基本は三つだ。一つはミッション。市街を襲うモンスターの討伐や特殊なアイテムの捜索まで、要は『冒険者ギルドへ持ち込まれた依頼』。実際に達成する冒険者への依頼斡旋料がまず一つ」
「ふむ。ウチのギルドでそれは無理だな。というか依頼が来ない」
「話はちと変わるが、王都のギルドマスターはそこらへん糞優秀だからなあ。普通無理だろという依頼でも自分でこなせるから収益は莫大だぞ」
異国であるオデッセイの内乱と、エルフの大国であるルピーアの侵略を食い止めた際には、オデッセイから金貨10万枚の礼金があったと聞く。
実に羨ましい。
「次、の前にガーベラ嬢の事教えろ」
モンゾは等価交換を要求する。
「彼女はガーベラ。家名は無し。教皇領である森に住む50名いるダークエルフの長だ」
「長か……確かにしっかりとした、俺好みの目つきをしていた」
勝手にモンゾが納得して頷く。
あれ、コイツひょっとしてマジでガーベラ嬢に惚れてるのか?
「二つ目だ。ダンジョンからの素材買取後、商人に引き渡す際に価格差を設けて仲介料として稼いでいる」
「うむ。つまり、オズーフ商会の買取の際も」
「アンタの場合、オズーフ商会が独占してるからあっち側で計算して仲介料払ってくれると思うぜ? コボルトのコンコルド君がすでに計算してると思うから、その内話があるんじゃねえ?」
「なるほど」
二つ目は、すでに収益が上がっている状態ということだ。
まあこれについては知っていたが。
そういえば、そこらへんの話はまだオズーフ商会と話をしていなかった。
ウチの場合はコンコルド君がいるから、ギルド側で素材買取のスタッフを雇う必要は無いな。
「ガーベラ嬢の話だったな。過去は戦奴だったらしい。教会の枢機卿が戦争中、ドサクサに紛れて騎士団長を撲殺して周囲を沈黙させた後、全員連れて帰ってきたとか」
「相変わらず怖いな教会。だが良い事をする」
うむ、とモンゾがまた勝手に納得して頷く。
俺は寒気しか感じない話だが。
どうやって騎士集団に囲まれているはずの騎士団長をピンポイントで撲殺して、しかも誰にも文句も言わせず戦奴であるダークエルフを50名も連れて帰ってくる?
私には理解できない生物だ。絶対怖いに違いない。
まあ、我が領地にとっては恩人に違いないのだが。
「三つ目だ。ギルドに併設している酒場の収益。案外バカにならないらしいぜ、これ」
「そりゃ王都のギルド酒場の儲けは凄いだろうさ。何百パーティーも飲み食いするんだから」
ウチの領地、今3パーティーしかいねえじゃん。
しかもお前ら月イチでしか来ねえだろ。
愚痴を内心で吐きつつ、ガーベラ嬢の情報を思い出す。
「花が好き、と大司教から聞いた覚えが。教会にハーブ園を作ってたらしいし。これはダークエルフだからかもしれんが」
「切り花だと拙いか? エルフだよな、ダークつくけど」
「あー、そこまでは判らんな。鉢植えの方が無難だぞ」
エルフは切り花嫌いそうだからなあ。
いや、実際は知らんし勝手なイメージで私ら喋ってるが。
「ガーベラ。確か、ガーベラの花がエルフの交易商から手に入ったはず」
モンゾはクッソ真剣に考え込んでいる。
「コイツ本気なの?」
一応、モンゾのパーティー一同に聞いておく。
「惚れやすいのはいつもの事ですが、今度は本気の一目ぼれみたいで」
「そうか」
ならば止めまい。
おふざけなら止めてたけど。
今となっては大事な隣人だし。
「まあ、冒険者ギルドが儲ける方法は大体わかったモンゾ。感謝する」
「こちらこそ。ガーベラ嬢に似合うのは、やっぱり赤いガーベラの花かなあ……」
「知らん」
私はそっけなく答えておいた。
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