第16話 モンゾの告白
「その顔の疱瘡を治すから、是非お嫁に来てください!!」
土下座。
叩頭しながら、モンゾが道端で絶叫した。
ガーベラと出会った瞬間にだ。
「いや、自分で治すから結構。王都のギルマス殿が治せるのだろう? 聞いたことあるよ」
ガーベラは冷静に拒絶した。
こうしてモンゾの恋は儚く散った。
「くそ、無知な美人さんを嫁にとる計画は失敗に終わった」
「道端で何やってるんだ、モンゾ」
私は呆れた声で顔面を、土にまみれさせたモンゾを見た。
土に汚れた顔が凄く醜い。
そう見えるのは、この男の心が腐って見えるからか。
「いや、顔の疱瘡はダークエルフ達にとって凄く凄く気にしてるだろうから、それを治すと言ったら嫁に来てくれるんじゃないかなーと」
「いきなり出会った拍子に土下座で口説くのは止めろ。しかも無茶苦茶に卑怯なやり方で」
私は領主としてこの男をどう裁こうか――別に見苦しいだけで罪などないが、考えた。
命令はただ一つ。
「その男を君たちの小屋に連れていけ。罪名は『とにかく見苦しい』だ」
「アイアイサー」
モンゾのパーティーの一団が、了承の言葉とともにモンゾの両肩を抱えて引きずっていく。
いいノリだ。
彼も良きパーティーを持ったものだと思う。
「何だあのアホ。長いダークエルフ人生で初めて求婚された思い出がこれとはな」
「大変失礼いたしました」
別にモンゾの罪を被るわけではないが、頭を代わりに下げておく。
ガーベラはけらけらと笑いながら、持っていた槍を肩に乗せた。
「だが悪くない。悪くない気分だぞ。ここはアホばかりで良い土地だな」
どうやら、御機嫌の様だ。
まああんなアホにでも真剣に……真剣かどうか微妙だが、プロポーズされる気分は悪くないのだろう。
アポロニア王国には差別や偏見などないと聞く。
住んでいる領民にとってはよく判らないが、本当に良い土地だ。
「いい土地だな、ここは。領主殿にとっても誇らしいだろう」
ガーベラはのどかな田園地帯を眺めながら、そう呟く。
そう、いい土地だ。
ダンジョンさえなければ。
ダンジョンさえ、なければなあ。
「木材の切り出しは順調ですか」
「順調だよ。領主殿の村の住人も手伝ってくれてるしな」
さすがにダークエルフ50名では手が足りぬだろう。
そう思い、木こりを数名貸し出したが正解だったようだ。
「石材の切り出しは」
「大司教の仕事だろう。心配はいらないよ」
「心配はしてないんですけどね」
ついでに鉄鉱石が山から見つかったりしねえかなあ。
しないか。
してたら報告してくれるだろうし。
「鉄が足りません」
「これでも足りないかあ」
ガーベラはダンジョン帰りの雑嚢を見せる。
そこにはダンジョンで殺したモンスターから拾い上げて来た鉄製の武器でギッシリだが、雑嚢の一袋や二袋では到底足りない。
「結局、オズーフ商会から買うしかないんですよ、それは判ってるんです」
「どれくらい買うんだ」
「金貨500枚分」
「……それは痛いな」
沈痛な面持ちでガーベラが呻く。
まあ、その価格にはゼスティやガーベラから買い集めた鉄の価格も含まれているのだが。
どんどん金がすり減っていく。
「それより問題は、冒険者ギルドが出来ても、まだ一件落着とはいかない事ですよ」
「……王都から遠いものな、ここ」
「他の街からもですよ」
この街には肝心の冒険者が集まらない。
集まらなければ、それはただのハコだ。
それに、冒険者ギルドを運営するスタッフもいる。
「まあ……数年持たせるだけの金銭は王様からお借りしています。その間になんとか考えますよ」
「意外とのんびりしているね、カーライル様」
「カーライルと呼び捨てで結構ですよ、ガーベラ」
私はガーベラにフランクに呼びかける。
ダークエルフの一団が来てくれてよかった。
間引きもはかどるし、彼等のダンジョンでの収益における一部は、オズーフ商会への仲介料の一部として私の懐に入る。
あれ、そもそも冒険者ギルドってどうやって儲けているんだ。
同じやり方か?
「冒険者ギルドってどうやって収益を上げてるんでしたっけ?」
「急に何だ?」
ガーベラは首をかしげて、こちらの顔を覗き見る。
「それはあのモンゾ達と相談すべきじゃないのか? 熟練パーティーなんだろう? 私たちは素人だぞ」
「それもそうですね」
今頃、モンゾ達のパーティーのために用意した小屋に放り込まれているであろうモンゾに聞くことにしよう。
善は急げという。
「それでは、これにて。ガーベラ嬢」
「嬢ちゃん扱いか、これでも年上なんだが……まあいいか。今後はその呼び方で」
ガーベラ嬢はその容姿端麗な半顔を崩し、にやりと笑った。
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