第15話 ビンボー貴族と労使交渉
屋敷の私室。
私は頭目であるゼスティと向かい合い、労使交渉を行う。
「半額の金貨20枚でどうだ?」
「うーん。半額ですか」
彼らを雇用してから、4か月が経った。
モンゾ達に払った金貨が268枚。
ゼスティ達に支払った金貨が160枚。
計428枚だ。
それに教会に支払う浄財を合わせると3428枚になる。
もう王から借りた1/3以上の金を使い果たした。
おまけに領地も一部教皇領となった。使い道無い森だったからいいけど。
サイクルコストは出来る限り下げておきたい。
「そりゃないんじゃないかいカーライル。私達、無茶苦茶村に貢献してるぜ」
マーガレットが反論の声を挙げる。
「そりゃそうだが、治療院の治療や、鍛冶師の鍛冶も、ちゃんと代金は受け取ってるだろ」
「そりゃロックとルリの二人はもらってますけどね」
青年団副団長の私は飴玉一個もらってないんですけど。
そうゼスティは言う。
オズーフ商会が通うようになるから、飴玉はおばあちゃんから貰えるようになると思う。
それまで頑張ってくれ。
「鍛冶師のワシとしてはええんじゃがのう」
「治癒師の私としても、まあ……でもさすがに半額は」
ロックとルリが横から口を挟む。
まあ、半額はさすがに厳しいだろうと予想出来ていた事だ。
「これからは、間引きに専念せず、モンスターからの素材は回収していいから。オズーフ商会のコンコルド君が査定して買い取る。特にゴブリンの短剣とか鉄は高めに買い取る」
「半分、そっちの都合じゃね。ダークエルフが参加するとは聞いたけど」
鉄が……鉄材が居るんだよ。
鉄が無いと冒険者ギルドが出来ねえんだよ。
「今なら鉄、高く買い取るから。オズーフ商会の値段高いんだよ」
「それはいいけどさあ。半額はちと厳しすぎない?」
こっちは命賭けてるんだぜ。
マーガレットはそういうが、初心者パーティーには固定で金貨20枚でも高いと思うぞ。
幾ら辺境の最果てまで来てもらってるとはいえ。
……だが、まあ、分かっていた事だ。
最初の交渉は低めから始める。
それがコツだ。
「金貨30枚!」
「それで手を打ちましょう!」
頭目であるゼスティが乗った。
これで話はお終い。
二人して、握手する。
「一人頭、10枚から7.5枚か」
マーガレットが諦めたように呟く。
「まあ順当なところでしょうよ。素材報酬も入りますし十分補填できます」
ゼスティが冷静に計算し、マーガレットの肩をポンポンと叩いて宥めた。
それでも気になる事があるのか、マーガレットが口を開く。
「モンゾの連中は幾らに減らすんだ?」
「67枚から50枚ってところですかね」
「それじゃあ、まあいいや。つーか、熟練パーティーだと月イチでそんだけもらえるのか」
「羨ましい話ですよ。ビンボー貴族にとっては」
年収金貨200枚――いや、今年は税収が無い私より確実に儲けてるぞ。
それはゼスティ、君たちパーティーもなんだが。
言っても仕方ない事だ。
「ああ、それにしても金と鉄が欲しい……」
魂の叫びを私は呟いた。
◇
「鉄材って領内のどこかに無いのか、ロック」
「運よくダンジョンから鉄鉱石が浮き出すか、それとも鉄の武具をモンスターから奪ってくるしかないのう」
その鉄の武具も、ダンジョンのどこかからモンスターとともに、自然に産み出されているのだが。
常識的な事もよくよく考えてみると、全く不思議じゃのう。
そんなことをロックが口走る。
「山に埋もれてるかもしれんし、露天掘りでもすれば見つかるかもしれんが……そんな時間もないじゃろ」
「ロックなら鉱山調査もできるのでは?」
「ドワーフなら何でもかんでもできると思われても困るぞ」
ロックが両手を大きく広げて、お手上げのポーズをする。
残念ながら、私達が役に立てる事はなさそうだ。
せいぜい、ダンジョンで素材漁りに精を出すくらいか。
「ところで、金貨30枚で皆さん納得できてますか?」
念のため、確認を取っておかねばならない。
不満はパーティーの連携が崩れる元だ。
特に、我々は依頼者のカーライルを含めたパーティーなのだから。
「ぶっちゃけ、元々の金貨40枚が高いからそんな気にしてない。ていうか今まで気まずかった」
「ワシ、ぶっちゃけ今までが新人パーティーにしては取りすぎてると思うぞ。弱みに付け込んでる気がしてのう……」
「二人と同意見です」
元々の金貨40枚が高い、という意見が多いようだった。
そうだな、一人頭で月に一年食っていける額もらってたからな。
とはいえ、こっちも命がけの仕事だし取れる時に取っておかねば困る。
それに、装備を新調したのでまた我々の懐はオケラだ。
冒険には金がかかるのだ。
おかげで身の丈に合わない装備が揃ったけど。
これで第二階層にも挑める。
「というか、モンゾの連中も取り過ぎじゃね? 月イチで金貨67枚て。50枚になるみたいだけど」
「ダンジョン奥底まで辿り着ける熟練パーティーですからねえ。知ってますか、あのダンジョン5階層以上あるみたいですよ」
「以上?」
5階層となれば、ダンジョンとしてはかなり深い。
多くのダンジョン、それも初心者向けとなると3層程度で終わってしまう。
「モンスターが強力過ぎて、そこまでしか確認できなかったようです。ダンジョンである事を確認できたので、途中で撤退したようですよ」
「うへえ」
マーガレットが呻き声をあげる。
第五層以上となれば、最悪でどんなモンスターが出てくるかを想像したのだろう。
ゴブリンロードか、サーペントか、それともミノタウロスか。
仕留めれば「名持ち」として吟遊詩人に謳われるような実力を誇れるに違いない。
……まあ、普通は遭遇すれば逃げるだろうが。
モンゾ達も名持ちではないから、そうなのだろう。
間引きには相手にする必要ないしな。
「第二階層ってどんなモンスターが出る? 一度状況を把握しておきたい」
「それはモンゾ達に聞くべきでしょうね」
私――ゼスティは鼻の頭を掻きながら、モンゾから情報を得るまではまだ第一階層に留まるべきかを考え始めた。
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