第14話 ダークエルフとビンボー貴族
領主屋敷の私室。
そこでモロゾフ殿から紹介を受けた彼女と会う。
「と、いうわけで訪ねさせてもらった」
「はあ」
容姿端麗だが、顔の半分をマスクで覆ったダークエルフが説明を行った。
ようするに、冒険者パーティーを我が領で結成してくれるという事か。
「それは実に有難い話ですが、命がけになりますよ? せっかく」
正直、ダークエルフの苦境はしっている。
想像もつかない苦労の後に、教会に保護されたのだろう。
せっかく安楽の地に辿り着いたのだから、もうよいではないか。
と、言いかけて。
「すいません。助けてください」
言葉を言い換えた。
椅子に座ったまま、ぺこりと頭を下げる。
「何を言おうとしたんですか? いや、助けはしますけど」
「いえ、ダンジョンからモンスターが溢れ出したら困るのは貴女方も一緒だから、一蓮托生だと思い直しまして」
「ああ、そうか。最初から手伝うしかないのか、私達も」
ダークエルフが可笑しそうに笑う。
そして、何を思ったのか、マスクを外す。
「マスクも外さず、失礼したな」
そのマスクの下の顔半分は疱瘡で醜く穢れていた。
「いえ、お気になさらず」
手を軽くひらひらと振って答える。
「……貴方は気にしないようだな。助かる」
ダークエルフが安心したように、呟く。
私はそれに対して。
「いや、正直疱瘡なんぞ、どうでもいいからなんですが」
しまった。
本音をつい口走ってしまった。
相手の境遇も慮らずに、と一瞬焦るが。
「そ、そうか」
きょとん、とした目でダークエルフは固まる。
「さすがにどうでもいい扱いを受けたのは初めてだな。蔑みも優しさも受けた事ならあるが」
「いえ、本音を申しますと、だから何だというのが私カーライルの思うところでありまして」
顔に疱瘡があるからといって呪われただの、なんだの、正直言いだした奴は真正のアホだと思う。
ただの亜人差別だろう。
アポロニア王国の領民である以上は、それなりの見識がある。
我が領土の領民も、殆ど同じ意見ではなかろうか。
「ふふ、そうか。自己紹介が遅れたな。ガーベラという」
「カーライルです。よろしく」
お互いに握手する。
そして横にいるモロゾフ殿に眼を向けた。
「さっそく、屋敷を冒険者ギルドに改築していただきたいのですが」
「それにはまず材料が必要ですな」
「材料?」
「石材と木材、鉄材も必要ですな」
しまった。
そういえば、そうだな。
無から何でも作り出せるわけがないわな。
建築系のマジックキャスターであって、建築資材を作り出すのはまた別だわな。
「木材は、ダークエルフで用意しよう」
「いいのか?」
ガーベラが呟く。
両腰に手を当て、自信満々に頷いた。
「どうせ教皇領――未開拓の森から村を作る際に、木を切り倒す必要があるからな。木材は全てこちらで用意する」
正直、助かる。
後は、石材と鉄材か。
モロゾフ殿が口を開く。
「石材に関しては許可さえ頂ければ、私が建築魔法で領内の山から採石し、石を切り出しましょう。後は鉄材ですな。こちらはそこまで量は必要ありませんが」
「鉄がない」
鉄がウチの領地からは取れない。
いや、山が未開拓なので何が眠ってるからは判らんが。
山師――鉱山技師に調査を頼むような事はしてないしな。なにせ金がない。
「どこからか鉄を買うか。ダンジョンから鉄を集めるかですな」
「ダンジョンから鉄を?」
「鉄鉱石でも、それこそゴブリンの短剣からでも全部溶かして集めるのですよ」
間引き中でも、ゴブリンの短剣ぐらい集めときゃよかったなあ。
間引きでいちいちあんなもん拾ってられるかと思ってたから。
「集められる分はダンジョンから集める。後は他所から買うしかない」
「そうするしかないでしょうな」
モロゾフ殿が顎鬚を撫でながら考える。
「大体、準備からできていない事は予測しておりました。一応、8か月の猶予を代理の枢機卿殿から頂いてまいりましたので、予定を考えると建築資材集めに6か月、建築に2か月ですな」
「2か月で建設が可能なのですか?」
「建築魔法を使いますから」
凄いな建築魔法。
まあいい、鉄だ。
鉄がいる。
間引き中にも鉄になるものは積極的に集めていくことにしよう。
足りない分はオズーフ商会から買う。
後、考えることは何かあるか。
そうだ、ガーベラ達の冒険者パーティーだ。
「お聞きしたいことが。失礼ですが、エルフと耳にするとどうしても弓のイメージが強いのですが」
「我らダークエルフは剣も槍も使うぞ。というか戦奴だったからな」
サラっと暗い過去を漏らしながら、ガーベラが呟く。
「武器も教会に大量にあったから、パーティー分くらいなら支給してもらった。週一でダンジョンアタックを行うつもりだ」
武器を教会が大量に備蓄しているという話は多少気になるが、教会だし気にしない。
ダークエルフパーティーは即戦力か、申し分ない。
さすがに熟練の冒険者パーティーには劣るだろうが、十分強いだろう。
「となると」
いや、まて、ガーベラ達が週一でダンジョンアタックを試みるならば。
間引きの新人パーティーはもう必要ないのではないだろうか。
いや、前言撤回。
必要である。
むっちゃ必要である。
新たにダークエルフのパーティーが加わったとはいえ、安全マージンは欲しいし。
ロックは鍛冶師として、ルリは治癒師として、ゼスティは副青年団長として、マーガレットは村一番の力持ちとして。
――ダンジョン関係ない。
関係ないけど、クビにはできない。
もはや村の労働力と化しているのだ、彼等は。
――だが、月に金貨40枚はキツイ。
だから、やるべきことはといえば。
労使交渉の一手である。
「それでは、さっそく教皇領の確認に行かせて頂きます」
「私も、森のどこに村を決めるか確認に行ってくる。ではまた」
モロゾフ殿とガーベラが礼をし、連れ立って私室から出ていく。
私はロクサーヌの名を呼び、すぐに新人パーティーを集めてもらうよう呼び掛けた。
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