第12話 教会と貧乏貴族

王都の教会にたどり着く。

教会は豪華絢爛、というわけではないが荘厳とした面持ちでそこに建っている。


「この教会も大司教が建てたのかな?」


おそらくは、そうであろう。

建築系のマジックキャスターは少ない。

空間認識能力という従来の素質と訓練が必要であるからと聞いた。


「まあいい、とりあえずお邪魔するか」


私は扉を開けて、まず誰かいるかを確かめた。

そこには清楚、と呼ぶには少し首をかしげる。

サイズの合ってないシスター服が身体にピッチリと張り付いていて、実に艶めかしい姿をしたシスターがそこに立っていた。


「おはようございます。我が教会に何か御用ですか?」

「えーと、はい、御用です」


思わず目をそらす。

なんでこんな艶めかしい女性が教会にいるんだ。

ここは教会だよな?


「シスター長のアリー・クロレットと申します。ご用件は何でしょうか?」

「シスター長!?」


思ったよりも偉い立場の女性だった。


「えーと、こちらの大司教殿に話が合ってきたんですが」

「大司教ですか? お待ちください」


アリー殿はその艶めかしい姿で、くねくねとくびれを見せつけながら告解室へと足をのばす。

しばらくすると、祭服を着た神父が現れた。


「大司教のモロゾフ・クロレットです。何の御用ですかな」

「クロレット? ひょっとしてシスター長とご家族ですか?」

「家族と言えば家族ですな。ウチの孤児は全員私の――クロレットの家名を持つので」


なるほど。

私は納得した後、要件を速やかに伝えるべく――いや、場所をわきまえねばならん。


「実は相談が会ってきました。大司教の建築系のマジックキャスターとしての力をお借りしたく」

「その相談事はよく受け付けますが。とりあえず、部屋に場所を移しましょうか。ここは長椅子しかありません」


私はモロゾフ大司教に案内され、奥の部屋。

おそらくはモロゾフ殿が私室として使っている場所へと案内される。

私は椅子に座るように促され、黙って座り込んだ。


「さて、建築のお話でしたね」

「はい、我が領地に冒険者ギルドを建てたいのです」

「冒険者ギルドを――ですか?」


訝し気にモロゾフ殿が呟く。



「辺境にダンジョンが出来たという話はご存じない?」

「確かに、そのような事は伺った覚えがありますな。確か、モンスターが溢れないように四苦八苦なされているとか」

「そうです、その四苦八苦している下級貴族が私――失礼、自己紹介が遅れました。カーライルと申します」

「なるほど」


慌てて自己紹介を行う。

それを見ながら、全てを理解したように、モロゾフ殿が頷く。


「それでは、ダンジョンを管理されるために冒険者ギルドを設立したいとの事でよろしいですか?」

「はい。そうなります」

「ふむ……」


モロゾフ殿が一寸、悩んだようなそぶりを見せた後に口を開く。


「単刀直入に聞きます。その場合、浄財を頂きますが、いかほど支払えますか?」

「今は支払う事が出来ないと答えた場合は?」

「ふーむ」


悩まし気な声。

困っている。


「困りましたな。慈善事業は教会の役目ですが、限界があります。この教会の管理も、他の大司教――或いは枢機卿殿にお任せして、ツーシーズンを掛けて冒険者ギルドを設立することになります」

「……後払いでなんとかなりませんか?」


困った顔を続けるモロゾフ殿。

実際、私としてもその心境は理解できるが、私はただ懇願するしかない。


「今払うとすれば、幾ら頂けます?」

「金貨3000枚」

「……ううむ。もう少し値上げすることは」

「これが限界です」


もう少し値上げしても、なんとか払えるが、他の費用がいくらかかるかわからんのだ。

ギルドがうまく回るまで何年かかるか。


「金貨3000枚の浄財は教会としても大きい。今貰えるなら動くところですがね。……いや……しかし」


悩むモロゾフ殿。

何か、説得できる材料はないか。

材料は一つだけある。

我が領地だ。


「一部の領地を、教皇領として提供する用意があります」

「何ですと!?」


もう、これしか残っていない。

教会は教皇領を欲しがっている。

亜人を保護するための教皇領を。


「カーライル殿の領地規模はどの程度で?」

「住民200人に満たない寂れた村です。だが、未開拓地域は山も川もあり、大自然に溢れています」


そう、平野部は少ないが、大自然に溢れた山と未開拓の森、それに川もある。

領地だけは広いのだ。


「人が住める場所ではありません。だが、亜人種なら――かえって好都合なのでは?」

「ううむ。カーライル殿含め、住人の亜人への印象はどの程度で?」


そこは当然気にするだろうな。

だが。


「寂れた土地でもアポロニア王国内ですよ。亜人に差別意識を持つ者はいません」

「ふうむ」


考え込むモロゾフ殿。

だが、先ほどと違い悩んでいる様子は無い。

おそらく、教会内部の事情とかみ合わせて計算しているのだ。


「仲良くやれる、間違いありませんね」

「神に誓って」


止めの一撃。

私は神に宣誓した。


「信用しましょう。金貨3000枚。そして領地の一部割譲で冒険者ギルドの設立を飲みましょう」

「有難うございます!」


私は椅子に座ったまま、膝上の両手に握り拳を作り、礼の言葉を叫んだ。

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