第11話 商人と貧乏貴族

乗合馬車から降り、パーティーを解散する。


「それでは私達は装備の新調に行ってきますので」


ゼスティ君が会釈し、パーティーを連れ立って歩いていく。

私はそれを手を振りながら見送った。


「さて、と」


まずはオズーフ商会に行かねばならん。

といっても、乗合馬車の降りた真ん前という好立地にオズーフ商会は存在するから、もうここなんだが。

元々は他国人なんだよな?

なんでこんな好立地確保して、王族から信頼受けてるんだろう。

よくわからん。

が、まあいい。


「すいません、カーライルと申しますがマリエ・オズーフ殿は?」


店番をしていたコボルト――飴玉を手にした子供にハグされている存在に声を掛ける。

子供にしがみつかれたまま、サラサラとホワイトボードに文字を書くコボルト。


『少々お待ちください』


コボルトは子供を親元に返し、テクテクと店の奥に歩いていく。

子供はハグOKなんだ。

いいなあ。

思わず子供に嫉妬する。


「お、カーライルはんやないか。何や、追加融資か?」

「ひょっとしたらそれもお願いするかもしれませんが、道ができましたので」

「マジで? カーライルはんの領でか?」


ぴたり、とマリエ殿が驚愕したように動きを止める。


「ウチ、一度カーライルはんの領の前まで行ったことあったけど道なんかなかったで」

「……その時も、一応道はあったんですけどね」


獣道だがな。

まあ、何にせよ。


「とにかく、馬車が通れる道をワンシーズンかけて作りましたので、モンスター素材を買い取る出張店を設けて頂けませんか?」

「本当に道できたんか? 嘘やろ」

「出来たと言ってるでしょうに!」


何故疑うのだろう。

そんなに不思議なのだろうか。


「それが事実やとしたらカーライルはん、結構やるなあ。見直したわ。なら出張店の約束は守るけど……店ウチに作れと?」

「……出来ればそうしていただけませんか?」


そこら辺をつかれると、弱い。

ウチの村に建築能力は無い。


「ウチの領民だと小屋ぐらいしか造れないんですよね」

「いや、ちょい待ち。別に小屋でもえーんや」

「いいんですか?」


マリエ殿が腕組みしながら、何かを考えるように天井を見上げる。


「ええで。とりあえず――話を聞き及ぶ限りでは、まだ間引きのパーティーだけやろ今」

「ええ、ゼスティ達新人パーティーと、モンゾ達熟練パーティーの2パーティーだけですね」

「そやったら2パーティーだけの買取りやろ。わざわざ店なんかいらんわ」


鉱石や、モンスターから獲れた素材を保管する小屋だけでいい。

そう言う事か。


「素材の回収は?」

「月1で馬車通したる。その時に回収するわ。ついでに商売もさせてもらうで」

「商売? 我が貧乏村でですか」

「貧乏村言うても飴玉くらいは売れるやろ」


まあ、飴玉ぐらいは売れる。

それ以外は何が売れるのか知らんが、そこはマリエ殿の裁量に任せよう。


「素材の査定は?」

「おーい、コンコルド君」


ぱんぱん、とマリエ殿が手を叩いてコンコルド君――さっき店先に立っていたコボルトを呼ぶ。


「この子が出来る。派遣したるわ」

「コボルト!? 計算はもちろん査定とかできるんですか?」

「コボルト舐めたらあかん。計算は最初から出来てたし、査定はイチからウチが仕込んだ」


正直、コンコルド君は派遣するのが勿体ないくらいやわ。

そうマリエ殿が自信を持って言う。

そこまで言うなら信頼してよさそうだ。


「わかった。住むところは屋敷の個室でいいかな? まだ二部屋空いてるしな」

「それでええわ。あくまで今のところは、やけどな」


マリエ殿が椅子をこぐ。


「で、次にやることは自分で把握できとるんかいな」

「屋敷を改築して、冒険者ギルドを設立することですね」

「そやな、まずはそこからやな。目星はついとるんか?」

「王都の大司教殿が、建築系のマジックキャスターと伺いました」


必死に頭を回転させながら、行動の指針を立てる。

ロクサーヌからもらった情報。


「なんとか建築を頼んでみようかと」

「……それは無理ちゃうかなあ。大司教が教会ほったらかしにして辺境まで行くかどうか」

「無理だろうか?」

「いや、頼んでみなわからんけどな。なにせ教会連中が何考えとるかウチにはわからん連中やし」


慈善活動はともかく、亜人の解放で暴動を巻き起こしてる連中やし。

最近、コボルト雇うようになって少しはウチも気持ち分かるようになったけどやな。

そうブツブツと呟きながら、マリエ殿が天井から視線をこちらに戻す。


「まあええわ。飴玉あげるわ。それでもしゃぶりながら教会行ってきい」

「有難く頂きます」


私はもらった飴玉を口に含み、席を立つ。

そして、教会へと向かう事にした。


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