第9話 モンゾ隊とロクサーヌ

「一応道が出来てきたな、正直カーライル様が待ち合わせ場所に来なかったら遭難すると話してたところだぜ」


開口一番、モンゾ殿は我が領地のインフラを貶した。

パーティーの一同も同意見の様だ。


「馬車が通るまではまだ行きませんがね」


とりあえず、1か月では獣道が人一人通れる道になった程度だ。

だが、縦に並べばパーティーも通れるだろう。


「さあて、今日はゆっくり野営で休むとしてだ。明日から間引きだ」

「ああ、よければ小屋一軒お貸ししますよ。個室ありませんけどね」

「助かるが、いいのか?」

「無理やり作ったので、急ごしらえで申し訳ありませんが。今後はその家を自由に使って頂いて結構です」


さすがに客人を野営させるには心苦しい。

領民を使って、無理やり一小屋こしらえたのだ。

それに、疲れて間引きを失敗されて困るのは、こちらだ。


「ああ、それと。雇った新人パーティーにドワーフがいますので、鉱石の類がありましたら取ってきていただければ」

「ほう、買い取ってくれるのか?」

「ええ、査定額はドワーフの見識によりますがね」


ロックが居てくれて助かる。

買い取った鉱石は後でまとめてオズーフ商会に売却するか、ロックに加工してもらってもいいだろう。

私の懐は乏しくなるが、一時的な事だ。

まだ借金した金は残っている。

気にはすまい。


「だけどまだ額は変わらねえぜ。前の2/3だな」

「判っていますよ。春が終わり商人が来るまでは仕方ありません」


私はモンゾ殿に払う金の用意を頭の中で計算した。

金貨100枚。

それがモンゾ殿達、熟練パーティーにダンジョン調査時に支払った代金だ。

その2/3だから、おまけして67枚となる。

それが一年と考えると804枚。

ついでに、ゼスティ達、新人パーティーに払っている額も計算する。

週に一度の間引きで、月金貨40枚。

それが一年と考えると480枚。

合わせると、年に1284枚。


「うーん」


領土の税収は年200枚だから完全に赤字となる。

しかも今年は無税となる。

まあ、アルバート王が大金貸してくれたから

しばらくは持つが……それだとジリ貧であることに変わりはない。


「どうした、カーライル様」

「カーライルでいいよ、モンゾ殿。所詮私はビンボー下級貴族だ」


わたしはフランクにモンゾに話しかけた。

今の私は、冒険者だったころの感覚が戻ってきている。


「じゃあこっちもモンゾでいい」


同じように、モンゾもフランクに返した。

挨拶も終わったところで、私は背後のロクサーヌの名を呼ぶ。


「ロクサーヌ」

「おや、奥方様」

「いえ、私はただのメイドですので」


顔を朱に染めながら、モンゾの軽口にロクサーヌが答える。


「小屋までロクサーヌが案内しますので、よろしく」

「奥方様に案内してもらえるとは光栄ですな」


モンゾの軽口はしつこい。

何故、ロクサーヌを奥方様とからかうのだろう。

ロクサーヌが困っているではないか。


「モンゾ!」


私は叱りつける様に言葉を飛ばす。


「おお、怖。ちょっとからかっただけじゃん」


へらへらと笑いながら、懲りた様子も無くモンゾが笑う。


「……」


ロクサーヌは顔を朱に染めたままだ。


「とにかく、案内を頼むぞロクサーヌ」

「はい、カーライル様」


ロクサーヌはメイドスカートの裾を持ち上げ、優雅に礼をした。












「なんで結婚しないの?」


道中、モンゾ殿の軽口は続いている。

モンゾ殿のパーティーの一同に視線をやるが、困った表情をするのみで止めてはくれない。


「ねえ、なんでよ」

「軽々しく、言わないでくださいませんか? カーライル様は貴族です」


私などではふさわしくない。


「私は両親を亡くし、孤児となったところを、カーライル様に拾って頂いた身です」

「子供から自分好みに育てたのか、いい趣味してるなカーライル」


モンゾ殿は何か誤解をされている。

本当にそうなら、よかったのに。


「そんな私が、貴族たり領主であるカーライル様の奥方になどなれません」

「自他ともに認めるビンボー領だろ? 誰も気にしねえよ」

「私は気にします」


たとえ、カーライル様が気にされなくとも。

夢はある。

カーライル様の所にまともな貴族の嫁が来て、そして私は。

せめて子作りだけでも、認めてもらう事だ。

一人の子を為す。

貴族の子として認められなくて良い。

この平和な――今はちっとも平和ではないが。

領土の農民の一人としてでよい。

平和に暮らしてくれれば良い。


「私は――」


だが、それをこのからかう男などに言う必要はない。


「俺はこれでも応援してるんだけどなあ」


モンゾ殿が急に声色を変え、心配したような声色に変える。


「ロクサーヌちゃんの心は判ってるつもりだぜ。つーか、誰でもわかるよ。なあ」


そう言ってパーティーメンバーに呼びかける。

パーティー一同は苦笑いしながら、頷いた。

私の心はバレバレか。

ならば正直に言おう。


「そうです。私はカーライル様を愛しています。ですが、立場が邪魔するんですよ」

「だから、それを気にしなくていいっつってんじゃんか」


うるさいなあ、この男。

私が気にするって言ってんだろこのタコ。


「ぶちますよ」

「怒った?」

「怒ってません!」


小屋までの道すがら、馬鹿話をしながら歩く。

モンゾ殿の分だけ、夕飯のスープを少なくしてやろう。

そんな事を考えた。


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