第8話 道づくりとビンボー領
道だ。
村の外、他街の道へ連結するまでの道を、村人全員で作っている。
「大分進んでいるみたいですね」
いつの間にかロクサーヌが傍に近寄ってきていた。
「そりゃ200人全員はいないが、身体が動くものは全員動いているからなあ」
地図を手にしながら、私は指揮を執る。
子供も、老人も、皆よく働いてくれるものだ。
まあ、道が通じなかったら村が滅びるのだから、皆必死になって当たり前なのだがな。
「この分だと、ワンシーズンあれば馬車が通れるようになるかもしれん」
「春が終わるまでに、ですか? そうすれば商人の方が来られると」
「そうだ。商人が来たら、負担が少し減る」
モンゾ達や、ゼスティ一同が手に入れた素材の買い取りをする事ができるようになるからな。
「素材の買い取り場所はまだできていませんが……」
「オズーフ商会にまずは直接買い取ってもらう形になるな。その後はどうするか」
道を作った後は、屋敷を冒険者ギルドに改築・増築しなければならない。
領民で家を建てられないわけではないが、本格的なギルドとなると建築は領民では不可能である。
「建築系のマジックキャスターを頼むか?」
「お金の方は大丈夫ですか?」
「正直、厳しくなるな」
借用した金貨10000枚を間引きで使い切るような事にはならないが、建築系のマジックキャスターを雇うとなると馬鹿みたいな金がかかる。
その代わり、仕事はバッチリなのだが。
「その、差し出がましいようですが、意見をよろしいでしょうか?」
「何かな?」
ロクサーヌが恐縮しながら、意見を出す。
「教会にお願いしてはいかがでしょうか?」
「教会に?」
「王都の大司教様は、建築系のマジックキャスターと伺いました」
良い案ではある。
だがなあ。
「それにしたって浄財がいるだろう。普通に頼むよりは安いかもしれんが」
「なんとか懇願できませんか?」
ロクサーヌの意見を鑑みる。
悪くない。
プライドを捨てて懇願すれば、後払いも可能かもしれない。
問題は、こんな辺鄙なところまで大司教殿が来てくれるかどうかだが。
それに、王都にも一度寄らねば――いや、どのみち道が出来たら王都には一度行くのか。
オズーフ商会に道が出来た事を伝えに行かねばならない。
「いい案だ。有り難う、ロクサーヌ」
「いいえ、少しでもお役に立てたなら……」
ロクサーヌが私の誉め言葉に、顔を朱に染める。
彼女も16歳だ。
嫁ぎ先をそろそろ考えてあげなければならない。
もちろん、私以外でだ。
だが、領民にロクサーヌを任せられそうな男はいない。
いっそ、王都で出来ていくであろう新しい伝手を頼って嫁ぎ先を探してあげた方がいいかもしれない。
私はそんな事を考えて――
「おーい、カーライル」
背後から、ロックの声がした。
「なんだ、ロックか」
「チェーンメイルとロングソードの修繕が終わったから部屋に置いておいたぞ。後な」
ゴソゴソと、何やら懐から髪飾りのようなものを取り出す。
「この間の鉱石で造ったんじゃ」
右手で白髭をいじりながら、その出来に満足そうに微笑む。
そして左手で私にその髪飾りを突き出してきた。
「? 私にか?」
「そうじゃ、この間の間引きの、お前の取り分じゃな」
「有り難いが、髪飾りなんてもらってもな」
私がそう呟くとロックが口を開きながら、かーっ、と声を出し、そうして横を指さした。
「横にプレゼントする相手がおるじゃろうが?」
「私ですか!? わ、私にプレゼントなんて……」
「なるほど」
確かに、似合いそうな女性が隣にいた。
私もかなり鈍いようだ。
「ロクサーヌ、動かないでくれ」
「は、はい」
私は髪飾りをロクサーヌの頭に付けた。
金髪の髪に、黒光りする蝶をあしらった髪飾りがとてもよく似合っている。
「良く似合っているよ、ロクサーヌ」
「あ、有り難うございます。ロック様も」
「ロックでいいわい。お主もこれでは気苦労がたえんのう」
はあ、と何やら残念そうなため息をロックはついた後、背を向ける。
「それでは、わしゃ鍛冶場に戻るぞい」
「武器や防具の補修は全て終わったんじゃないのか?」
「鍋の穴塞ぎや包丁研ぎがまだ残っとる。ここの住人、儂を何だと思っとるんだ? そりゃドワーフじゃから頼まれればやるけど」
やってくれるのか。
さすがドワーフ。
「多少の小遣い稼ぎにもなるしの」
「ああ、金はとってるのか」
「当たり前じゃろ」
ロックはそのまま振り向くことなく、鍛冶場の方角へ歩いて行った。
「それにしてもよく――」
ロックも居なくなったことだし、再度ロクサーヌを褒めようとするが。
領民が作業を止めて、何やらこちらをニヤニヤと伺っていた。
「貴様ら、作業はどうした!」
怒鳴り散らすと、蜘蛛の子を散らすようにして領民が散らばる。
そうして、また道作りを再開した。
「全くもう」
「……本当に素敵な髪飾りですね」
私はため息を吐くが、ロクサーヌは髪飾りを何度も触っている。
完全に夢中になっているようだ。
本当に腕がいいな、ロック。
そういえば――領民のために働いていると言えば、ゼスティもだ。
「何で私がこんなことを……」
植物魔法を活かして、穀物の生育を手助けしているのが見える。
「いやあ、本当に助かる」
「エルフ様様だわなあ」
腰をいわしているので、道つくりに参加していないおばあちゃん達に拝まれているゼスティ。
「……手伝えるのは、暇な間だけですからねえ」
「それでも有り難いこったね」
何だかんだでお人よしだな。
ロックとゼスティ、ウチの領に永久就職してくれないだろうか、マジで。
ビンボーだから無理か。
でも、ビンボーじゃなくなれば?
「説得できたらいいのになあ」
私は腕組みをしながら、道作りの様子を見守る。
そろそろ夕暮れだ。
解散させねばならないだろう。
私は懐から笛を取り出し、それを大きく鳴らした。
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