第6話 鍛冶屋ロックとビンボー村

一夜明けて、翌日。

今日は休日として、明日のダンジョンアタックに向けて英気を養う。

といっても部屋に閉じこもっていてもつまらんので、村を案内させられていたのだが。


「なんじゃ、ちゃんと鍛冶場があるじゃろうが。ちゃんと教えろよな」


ロックが目ざとく、鍛冶場を見つけて呟いた。


「鍛冶場はあっても鍛冶師がおらんのだ。死んでしまってな」


せいぜい、鹿を仕留めた猟師がなめし革を作るのに場所を使っているぐらいだ。


「後継者は?」

「おらん。だから自由に使っていいぞ、武器防具の補修にも必要だろう」

「おお、確かに」


ロックが嬉しそうに鍛冶場のあちこちを見て回る。

道具は手入れされてないから、大分古ぼけているが大丈夫だろうか。


「道具は使えそうか?」

「状態は悪いが、手入れすれば問題ない。わしゃここで抜けるぞ。夜には帰る」


早速、道具の手入れに入りだした。

さすがにドワーフは頼もしい。

その様子を見守っていると、背後からゼスティが声を掛けてきたた。


「念のため、ロックもいるうちに先に確認しておきますが、カーライル様。今後はカーライルとお呼びしても? パーティーに加わる以上、戦闘時等は」

「ああ、呼びにくいもんな。別に構わんよ」


パーティーに加わる以上、変な上下関係は避けたい。

依頼者と受諾者の関係ではあるが、変な敬称は邪魔だ。

それを聞いてマーガレットが、つまらなそうにつぶやく。


「じゃあカーライルと呼ぶわ。それと聞くけど、他に見に行くところとかないの?」

「他に大きな施設は村の学問所といっても、筆記計算を子供に教えるところとかぐらいだぞ。見るところはない」

「つまんねえ。ところで、冒険者ギルドだけど、どこに建てるつもりなのさ?」

「それは――」


マーガレットの質問に一瞬考えたが、答えは一つしかない。


「村にある一番デカい建物。元々ある私の屋敷を改築するしかないだろうな」

「それでいいのかい?」

「他に方法が無い」


屋敷はなくなってしまうが、他に方法は無い。

エントランスを酒場に改築し、モンスター素材の買取場所を増築する。

宿もただただ、建てるしかないな。

できれば今から始めたいところだが――村人の労働力の抽出は、道づくりで限界だ。

現状でできることは何もない。

ただ、道が出来るまでの間、モンスターの間引きをしていく。

それだけだ。


「明日はダンジョンアタックかー、実はアタシら5回目なんだけど大丈夫かね」

「新人なのは承知している。こっちもロートルだ、不安なのは一緒だ」


回復術士がいたのは、せめてもの幸いだ。

そう思いルリに目を向けると、興味深そうにロックの作業を眺めている。

なんか低い背丈と合わさって子供みたいだな。


「そういえば、全員歳は?」

「アタシとルリは16歳。エルフとドワーフは測定不能」

「私もまだまだ若いですよ」

「ワシもじゃわい」


ゼスティとロックから非難の声が飛ぶ。

そう言われても、エルフとドワーフは見かけじゃ年齢がわからん。

経験が浅い新人という事だけは判るが。


「ちなみにカーライルは?」

「36」


オッサンである。


「……一応、下級貴族とはいえ貴族だよな。昨日、屋敷に泊ったけど嫁さんの影も見えなかったぞ」

「ほっとけ。嫁の来手がビンボーすぎて無いのだ」

「もう領民から募ればいいのでは? 昨日のロクサーヌ嬢とか」

「ゼスティまで領民と同じことを言うのか」


ロクサーヌは子供のころから育てたので、そういう感情は持てないのだ。

しかし、真面目に嫁さんは探さねばならん。

だが、今はそれどころではないのだ。


「俺の恋愛事情はほっとけ。今はこの村が滅ぶか滅ばないかの瀬戸際なんだ。明日のダンジョンアタックの準備は出来てるのか?」

「そりゃもうバッチリだよ」

「そんなに装備品もありませんしね……貧乏パーティーですから」


貧乏村に貧乏ロートル貴族に貧乏新人パーティー。

どこを向いても貧乏ばかりだ。

王都のギルドマスターは、最近10万金貨ばかし儲けたと聞いたのに。

あるところにはある金が、何故ここには無いのだろう。

私は何か物悲しくなった。


「諸君、私達には金が無い。代わりに何がある?」

「……労働力じゃねえかなあ」

「そうだ。明日は働くぞ。金はキチンと払う。貧乏だけど」

「……」


マーガレットとルリが、何かもの悲しい目で私を見ている。

私はそれに耐えきれず、背を向けた。









「実際、とんでもないところに来ちまったなあ。そう思わねえ」


結局、案内するところも無いというので、鍛冶屋でのんべんだらりと過ごす。

カーライルは空気を読んで先に帰った。


「私はそう思わんぞ。中々面白い状況ではないか」


ニヤニヤとゼスティが笑いながら呟く。

こいつは苦境を愉しむタイプだからなあ。


「ルリはどう思うよ」

「カーライル様……いえ、カーライルは悪い人ではありません。報酬は死んでも払ってくれるかと」

「重要なのはそこだけど、何か貰いにくいよなあ」


こんなに金を受け取りにくい相手も初めてだぜ。

本気で切羽詰まってやがる。

そもそも王様からの借金でアタシらに報酬払う予定らしいし。


「ワシは、鍛冶場を独占できることになったから満足じゃ」


ロックが道具の調整を終えたらしく、薄汚れた顔をにこやかにさせる。

明日のダンジョンアタックの前に、風呂入れよお前。


「まあ……とりあえず、アタシらはアタシらの仕事をこなしてやるか」

「そうですねえ。あと頭撫でるの止めてください」


ルリの頭を撫でながら、その非難をパンチで食らう。

丁度撫でやすい位置にあるんだ。

仕方ないだろう。


「明日はいきなり死ぬかもしれねえなあ」

「冒険者なんですから、当たり前でしょう」


不穏な事を口にしながら、鍛冶場の椅子をこぐ。

そして、あえてゼスティに当たり前の事を口にさせる。

嗚呼。

この世に、一つ思い残すことがあるとすれば。


「ギルドの受付のコボルト、無理やりにでもハグしときゃよかった」

「それは私も同感です」


ルリも同じ意見のようであった。

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