第4話 新人パーティーとビンボー貴族

「えーと、貴女達は?」

「私はマーガレット、こっちはルリ。他にもう二人いるが、今は二人だ」


赤毛の女戦士――マーガレットが答える。


「新人パーティーという事なので、実力は問いませんが。面談だけは行いたいかと」

「おっ、話が早いね」

「他のメンバーを連れてきてくれますか?」

「了解」


パタパタ、と慌ただしくマーガレット嬢が駆けていく。

そして酒場内の1テーブルに近づき、話しかけた。

よく考えれば呼ぶよりも、こっちから出向いた方が早い。

私は自らそのテーブルに歩み寄り、どっしりと椅子に腰をおろす。


「カーライルだ。彼女から――マーガレット嬢からまだ話は聞いてないか」

「いや、聞いた。モンスターの間引きじゃと?」


ドワーフ。

白髭を伸ばしているので年齢がわからんが、まだ若いのだろう。


「あんま、面白うないのう。素材の鉱石を磨いてこそのドワーフじゃし」

「いや、個人で採取できる分に関しては持ち帰ってもらって構わん」

「何じゃと?」


ドワーフが気色ばんだ。

かと思うとエールを飲み、自分を落ち着かせる。

そして、くるりと頭を回転させたようだ。


「あー、何じゃ。ようは間引きが目的ではあるが、素材の買取場所が無いから間引きだけを目的としてるだけじゃと」

「そう。活用できるなら勝手に持ち帰ってもらって構わん」


ドワーフが、うんうん、と頷いた後に、納得した様子を見せる。

そうして私に手を伸ばす。


「見ての通り、ドワーフのロックじゃ。よろしく頼むぞ」

「こちらこそ」


お互い、握手を交わす。

ロック殿には納得いただけたようだ。


「その間の宿泊料は必要ないんですよね」


横から、口をはさんでくる人がいる。

こちらもドワーフ同様に亜人だ。

エルフの男性だ。珍しい。


「滞在費、丸ごとウチが持つ。まあ滞在費と言っても商人もいない場所だから、飯と宿だけだが」

「乗りましょう。なにせウチのパーティーには金が無い」


エルフが懐から帳簿のようなものを取り出して、指を舐めながらめくる。

エルフにしては変わり種だな。

ロングボウをニコニコ引いてモンスターを皆殺しにする脳筋種族と聞いていたが。


「最初に言っておきますが、私は他のエルフと違って脳味噌筋肉ではありませんからね」

「はあ、それで総脳筋の国が嫌で出てきたと」

「……まあ、そんな感じです」


図星をつかれたといった感じで、エルフの長耳がしおれる。

エルフの感情表現はわかりやすい。


「自己紹介を。エルフのゼスティと申します」

「カーライルだ。ビンボー貴族をやっている」


お互い、握手をしあう。


「話はまとまったかい。ちなみに私とルリは最初から納得してるよ」

「納得してるなら問題ありません。四人――いえ、五人いれば間引きには十分です」

「五人?」


マーガレット嬢の問いかけに、私は黙って自分を指さした。

彼女は目をぱちくりしながら、私に問いかける。


「アンタも参加するってのかい? 生憎素人は……つっても私らも素人なんだけど」

「16年前にやってただけのロートルだが、剣の腕には自信がある。参加させてもらうぞ。間引きの人数が足らんし、なにせ金をあまり使いたくない」

「金、ないの?」

「無い。すべて借金運営だ」


豊富な資金は用意されたが、全て借金だ。

あまり使いたくない。


「ま、いいや、それなら新たなパーティーメンバーとしてよろしく頼むよ」

「一応、各自の紹介だけやっておきましょうか。というか、カーライル様も各メンバーの職業が知りたいでしょうし」


トコトコと歩いてきたルリ嬢が喋る。

黒髪映えする美しい顔をしているが、背が低い。

受付のコボルト並ではなかろうか。


「先ほども名前だけは紹介していただきましたが、ルリと申します。生物魔法――回復術士をやっています。先日、市井の学問所を卒業しました」

「同じく、マーガレットだ。剣士をやってるよ。ルリと同じく、市井の剣術指南所を卒業したところだな」


女性陣二人がにこやかに自己紹介をする。

続けて、男性陣二人も挨拶を続ける。


「ロックじゃ。斧の使い手じゃが、ドワーフじゃからの。鍛冶の類もできるぞ。使えそうな素材があったら全部もらいうけるからの」


ドワーフの挨拶――特技は鍛冶師。

ぜひ欲しい。


「ウチの土地に永久就職しない?」

「悪いが、ビンボー貴族領の鍛冶師はゴメンじゃの……。というか、ワシ、冒険者やりたくてやっとるわけなんじゃが」


白髭をいじりながら、あえなく断られた。

これも貧乏が全て悪いんだ。


「ゼスティです。エルフですので弓の使い手です。植物魔法も一応一部使えますよ」


エルフの挨拶。

植物魔法の使い手も欲しいんだよなあ。


「ウチの土地に永久就職しない?」

「農作業に使いたいんですね? ロックと同じ理由でお断りします」


これも、ビンボーが悪いんだ。

私は自分の領地に使える人材がいない事を嘆く。

200人もいたら、一人くらい突出した傑物が生まれても、いいもんじゃないか?

みんな剣術も魔法も使えず、農作業やってるよ。


「まあまあ、何か落ち込んでらっしゃいますけど、それでは飲み会と行きましょうよ」

「飲み会?」

「もちろん、新メンバーの加入を祝ってです」


びし、とルリ嬢が私を指さす。

そうか、これからはパーティーメンバーになるんだったな。

……まあ、一日くらいはいいか。

今日の仕事はこれで終わりだ。


「それでは――料金は割り勘でいいか」

「そこは奢ってくださいよ。どこまでビンボーなんですか」

「わかったよ」


私は酒場の受付のおねーさんを呼んで、全員分のエールを用意してもらう。


「それでは乾杯」


私は木製のコップを重ね合わせようとして、ちっちっちっ、とマーガレット嬢に舌打ちを受ける。


「そこは違うぞ」

「そこは違いますよ」


ロックとゼスティからも注意を受ける。

なんなんだよ。


「今の王都の流行りは違うぜ。こうコップを高く持ち上げて叫ぶんだ」


マーガレット嬢とルリ嬢――ルリ嬢は背が低すぎて、私の胸元までしか手が持ち上がっていないが。

とにかく、マネしてできる限りコップを高く持ち上げる。


「そしてこう叫ぶ。乾杯(プロージット)!」

「「「「乾杯(プロージット)!」」」」


マーガレット嬢に合わせ、パーティーメンバー全員で叫んだ。

流行りなのは分かった。

何となく叫ぶのが気持ちいいのも。

だが、プロージットってどういう意味だ?

そこだけがわからなかった。

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