第3話 冒険者ギルドとビンボー貴族
「やっと冒険者ギルドか」
街の冒険者ギルドに辿り着く。
相変わらずデカい。
飲食のできる酒場と、モンスターの素材買取施設。
そしてギルドスタッフの寝床が整備されている。
そこら辺は昔にちょっと冒険者のマネゴトやったことあるから知っている。
いい小遣い稼ぎになったものだ。
――その頃と違うのは。
「コボ……コボルト?」
ヘッヘッと犬のような息遣いをした身長130cmぐらいのコボルトが受付のカウンター席に座っている。
どうしよう。
可愛い。
なんか抱きしめたい。
だが、横に『ハグ禁止』なる看板が立っているので諦めることにする。
「あー、なんだ。ここが受付で間違いないのかね」
『間違いありません。驚かれたでしょうが、私が受付を行っています』
サラサラとホワイトボードに、コボルトがペンで文字を書く。
そういえば、王都ではコボルトを雇用することが流行っていると風の噂で聞いた。
たしか、公爵領の山から、火山の噴火で焼け出されて来たんだったか。
そう思えば、彼らも困ってるんだなと、なんとなく親近感が湧く。
向こうは一応解決したみたいだが。
「実は、ダンジョンのモンスターの間引きに冒険者を雇いたいのだが」
『モンスターの間引きに? 今国内にあるダンジョンには間引きが必要なところは無いと聞いていますが』
「それが出来たんだよ。新しく我が領地にな」
『……少々お待ちください』
コボルトがぺこり、と頭を下げ、椅子からばっと飛び降りる。
そうしてトコトコと階段を昇って行った。
微笑ましい動作だ。
ギルドの酒場の様子を見ながら、少々待つと――
「お待たせしました」
妙齢の、美しい金髪碧眼の女性が現れた。
「アリーナ・ルルと申します。今後はお見知りおきを。王城からすでに通知は出回っています」
「そうですか」
なんだ、投げっぱなしかと思いきや、アルバート王もやる事やってくれてるではないか。
……まあ、村民の命がかかってるしな。
なんだかんだ慈悲深い王様として人気だから当然か。
「間引きのための冒険者を雇いたいとの事ですが、宿の方は? 無いと伺っていますが」
「急ピッチで、宿屋を作る。それまでは――我がボロ屋敷に泊っていただくしかないな」
「屋敷に? よろしいのですか?」
「そんなにデカイ屋敷じゃないから、泊れるのは1パーティーのみだが」
というか、他に止められる場所も無い。
あるとすれば村民の家だけとなる。
「派遣したモンゾ達のパーティーによれば、間引きは1パーティで十分行えると言っています。それなりのレベルのパーティーになりますが」
「その……モンゾ殿のパーティーをそのまま雇い入れるわけには?」
「ちょっと聞いてみましょう。酒場におりますので。モンゾ!!」
ルル嬢の良く通る声が、横に併設した酒場に響き渡る。
酒をかっくらっていい気分になっているモンゾ殿が、ふらふらと歩いてきた。
「何だ、カーライル様じゃねえか。何やってんの? こんなところで」
「モンスターの間引きをするパーティーを募集している。モンゾ殿のパーティーは可能か?」
「あ、それは無理だわ」
モンゾ殿がぐびりと酒をもう一度あおり、答える。
「カーライル様を嫌ってるわけじゃないぜ、どれくらいのシーズン拘束されるか判らん仕事は仲間が反対するだろうからヤダってだけで」
「そうか」
ならば、新しいパーティーを探す必要がある。
「他に雇用できるパーティーは?」
「その……残念ながら、熟練したパーティーは、シーズン拘束されるのを嫌がります。特に間引きは。お宝を黙ってダンジョンに捨てていくみたいで冒険者は嫌がるんですよ」
ルル嬢が残念そうに答える。
「なるほど」
せっかくモンスターを倒しても、素材買取場所が無い以上はダンジョンに放置していくしかないからな。
それは冒険者にとってはキツいだろう。
冒険者をやった事があるから、その心境はよくわかる。
「どうせなら新人パーティーを雇いなよ。その手の嫌いがまだ身についてない連中」
モンゾ殿が横から口を出す。
新人パーティーか。
「しかも、素材を拾わねえから、余計な荷物をしょい込むより安全度も高いし、初心者向けと言える」
なるほど。
だが。
「モンゾ殿、良い意見ですが、間引きには熟練した1パーティーが必要なんですよ」
「新人を2,3パーティー雇うわけには……ああ、泊るところがないのか」
「ですよ」
さすがに野営させたり、村民の家に世話させるわけにもいくまい。
あくまでお客様としての待遇をする必要がある。
「じゃあ、月に1度は俺たちが間引きにいってやるよ。野営でな。それなら新人1パーティーでもいいだろ」
「……前回のような報酬は望めませんが」
「定期的な収入と考えたら、ちょっと値段を落としてもいいぜ。あ、でもそこのところどうなのルル嬢」
値段交渉が始まる。
ルル嬢はその間、口を出さない。
一応、ギルドで規定の料金が厳密に決まっているはずだが――
「……カーライル様は、すでにギルド創設権利をお持ちですので、そこら辺の値段交渉は自由に行って良いのですよ」
「あ、そうなのか?」
「値段はすでにあるギルドをある程度参考にした方がいいでしょうけどね」
そうしよう。
ようするに、前回の額を参考にして値下げすればいいわけだな。
「モンゾ殿、どれくらいなら受けてくれる?」
「前回の2/3でやってやるよ。どうだ?」
ヒック、と酒の匂いをさせながらもモンゾ殿は金銭交渉に細かい。
そこは半額と言って欲しかった。
だが。
「いいでしょう。月に一度、間引きをお願いします」
「了解した。モンスターの素材買取場所ができたら、値段下げてやるよ」
私達はがっしりと握手をした。
そんな中、背後から遠慮がちな声がかかる。
「あのー、その新人パーティーなんですけど」
「私たちが募集しても、いいか?」
背後を振り向く。
そこには大人しそうな顔をした、ローブを被った黒髪の少女と。
ルル嬢と同じく甲冑姿を身にまとった、赤毛の女戦士がそこにいた。
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