第30話くらいの陽キャ視点


「くそっ、俺はもうダメだ!シュンスケ、マホ、サキ!ここは俺が食い止めるから……先に行け!!」


「嫌だ!タケル君を置いて何ていけません!」


 俺達の旅は順調に思えた。俺とタケルで後衛の二人を守りながら、深追いはせず、余裕をもってレベルを上げて装備を整えながら進む旅は注意さえしていれば大きな怪我を負う事もなかった。


 しかし、とあるダンジョンで俺達はトラップを踏み、魔物が大量に待ち構えるモンスターハウスと呼ばれる迷宮に落とされてしまった。迷宮にいる魔物は俺達の力では倒すことが難しく、俺とタケルが力を合わせてやっと一体倒せるようなレベルの魔物がうじゃうじゃと現れた。

 万が一の為と持っていた透明化薬を使ってなんとか別の通路へ逃げ込むことが出来たと思ったら、今度は巨大なゴーレムが俺達の行く手を阻んだ。こいつを相手にしていたら後ろから俺達を追ってきている別の魔物に追いつかれて全滅するのは確実だった。


「悪いな、シュンスケ。俺の代わりに世界を救ってくれ・・・」


 パーティで最も耐久と攻撃力に優れた戦士のタケルは、相打ち覚悟でゴーレムを引き止めた。俺は悔し涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらサキとマホの手を引いて俺はとにかく走った。


「すまない、タケル!」


 密かにタケルに片思いをしていたマホは特に震えていて、自分で走ることができないくらいだった。それでも俺はタケルの為にもこの危機を乗り越え、世界を救わないといけないんだ。



 大型の魔物が追ってこれないようになるべく狭い通路を選び、とにかく俺達三人はあてもない安息地を求めて逃げた。体力回復アイテムも魔力回復アイテムも、使えるものは全部使って少しでも生き延びて、少しでも前に進んだ。ひたすらがむしゃらに、生きるために。


「そんな・・・っ」


 しかし、この世界はゲームみたいに甘くは無かった。


「行き止まり・・・どこにも行けないじゃない!」


 大きな袋小路。一つ前の分岐点はもう相当前だ。魔物が迫っていてもう戻ることは出来ない、進む道を間違えた。


「くそっ!!!」


 俺は扉も横穴もないただの空間に向かって叫んだ。サキとマホはその場に座り込んで、ただただ泣いていた。


「こんなことなら、タケル君と一緒に死ねばよかった」


 そんな絶望的なマホの言葉を否定する元気すら、俺には残っていなかった。


「俺は勇者なんじゃないのかよ、ここで死んだら終わりだろ、頼むよ神様、一回だけでいいから、今だけでいいから俺達を助けてくれ!」


 無駄だとわかっていながら、俺は何度も叫んだ。何度も何度も。しかし、神はいなかった。


「ずいぶん大変なことになってるみたいだな」


 その代わり、空間の中央に見たことのあるシルエットが現れた。


「た、田中・・・!」


 田中は見たことも無いような神々しいローブと、大きな虹色の水晶玉が付いた杖を持って、神と見間違えるほどに厳かな雰囲気でそこに突然現れた。


「なんで田中がここに!」


 旅立ちのあの時、ステータスの低さから助けることは出来ないと決めつけて最初の街に残してきた田中が見違えるほどの強い魔力を纏い俺達の目の前にいる。


「空間転移魔法さ。お前達に捨てられたあの後に知ったんだが、俺の『遊び人』は最強の職業『賢者』の下位職。そして高い経験値率のおかげで今の俺は大賢者の称号を得たんだ」


「そうだったのか! それで俺達を助けに来てくれたんだな、ありがとう!」


 神様はいなかった。その代わり、仲間が俺達を救ってくれた。賢者の転移魔法があればこの理不尽な難易度の迷宮からも抜け出せる。


「は? そんなわけないだろ」


 しかし、田中は俺を蔑むような眼でそう言い放った。


「俺はいつも偉そうにしているお前の無様な死に際を見に来ただけだ。そして死ぬ前にちゃんと理解させたかったんだよ、あの時俺をパーティから外したのはお前の人生最大のミスだって」


「な、なんでそんなことを言うんだ。一緒に現代からやってきた仲間じゃないか! それに、一緒に旅をしなかったのは田中があの時弱かったからで・・・」


「それで強くなったら手のひら返しか、これだからスクールカースト上位のイケメンは。自分のしたことで相手がどれだけ傷ついたかなんて全く覚えていない。いじめをする側はいつもそうだ、相手がどんなトラウマを背負っても、そのせいで歪んだまま成長したとしても、数年後には全部忘れて平気な顔して楽しく女といちゃいちゃして!! 許せるわけないだろ! あの日お前に戦力外通告を受けて俺がどれだけ辛い想いをしたのかわかれよ!! 何が仲間だ! 俺はお前等のそういう都合の良い時だけ仲間面するところが大嫌いなんだよ!」


「ごめん。そんなに傷ついていたなんて知らなかった。謝るから俺達を助けてくれ」


「はぁ、今更気付いたってもう遅いよ。軽薄なお前の軽薄な謝罪何てどう信じろって言うんだよ・・・・・・まぁ、お前は絶対に何を言われても許す気はないけど、どうしてもというなら女子は助けてあげてもいいかもな」


「酷い! シュンが仲間に入れてあげなきゃぼっちだった癖に・・・もごご」


 熱くなるサキの口をふさぎ、俺はサキとマホに耳打ちをした。


「この世界に来たあの日、田中を置いていこうと言ったのは俺のミスだ。サキ、マホ、せめて二人だけは助けてもらってくれ。全て俺に命令されて逆らえなかったことにして、今は俺の事なんてもう使えないクズ勇者としか思っていないって、とにかく俺の事を沢山悪く言って、可能な限りあいつに媚びてくれ・・・そうすればきっと二人だけでも助けてもらえる」


 当然サキは反対したが、俺の気持ちが通じたのか言う通りにしてくれた。

 女子は強い。こういう時、ちゃんと演技ができる。


「そうかそうか、より俺の方がいいか」


 急な手のひら返しに田中は疑っていたが、可愛い女子に持ち上げられて段々と気分を良くしてくれた。なにより、俺の事を罵倒させたのが良かったみたいだ。


「えぇ、あんなの勇者でもなんでもないもの。本当に騙されたわ」

「そうです。あの偽勇者のせいで散々な目にあいました」


「そろそろ魔物達がここにやってくるな・・・というわけで、じゃあな。勇者様」


 田中は二人の肩を抱いて、再び転移魔法を詠唱した。目の前から消える瞬間、サキが泣きそうな顔でこちらに駆け寄ってきそうだったので俺は強く睨み返す演技をした。


「良かった、これで二人は助かった・・・」


 大賢者の強さがあれば、きっとこの世界を救うことだってできるだろう。


「よかった。ほんとうに」


 俺は剣を持ち、押し寄せる魔物に向き合った。


「心細かったのに、わかってやれなくて・・・ごめんな」

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陽キャ視点のテンプレ異世界ざまぁ系 寄紡チタン@ヤンデレンジャー投稿中 @usotukidaimajin

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