陽キャ視点のテンプレ異世界ざまぁ系

寄紡チタン@ヤンデレンジャー投稿中

第1話の陽キャ視点


 俺が元の世界で最後に見た景色は、バスが此方に猛スピードで突っ込んでくるところだった。

 高校の修学旅行、2日目は班ごとの自由行動で、俺を含んだ5人のメンバーは定番の観光地に向かうためのバス停に立っていた。旅のしおりを見たり、寄りたい土産物屋を確認するのに夢中で俺たちは誰一人としてフラつきながら此方に向かってくる観光バスの存在に気付くことが出来なかった。

 向かいのバス停にいたクラスメイトの「シュンスケ、危ない!」という声で顔を上げた時には、もう遅い。


 

 目が覚めると、そこは病院ではなくて石造の祭壇のような場所だった。俺は祭壇の中央に立っていて、その周囲には白いローブを見にまとった怪しげな大人がたくさんいて、神妙な面持ちで此方をみている。


「こ、ここは一体?」


 俺が言葉を発すると白ローブ達はいっせいに「やった!成功したぞ!!」と騒ぎ出した。なにがなんやら。


「シュン君!無事だったんだね」


 戸惑う俺に後ろから抱きついてきたのは班員の一人で俺の彼女のサキだった。


「おいおい、ここは何だ?俺たちバス停にいたはずじゃ……」

「あ、あのっ。周りで喜んでいる方たちが助けて下さったのではないでしょうか?」


 同じく班員のタケルとマホも俺と同じように祭壇で目を覚ましたようだ。


「ここは……もしかして、異世界?」


 そしてもう一人。


「田中、何か覚えているのか?」

「ひっ! い、いや?何も知らないです」


 恋人のサキは当然のこと、タケルとマホと俺の四人は普段でもよく連む仲だ。しかし田中は修学旅行の班決めの際に誰とも組まずにいたところ、学級委員のマホが先生に頼まれて俺たちの班に入ることになった為、こいつのことをあまり知らない。

 クラスに親しい友達がいないみたいで前から気になっていたし、これもいい機会だと思って俺は仲良くなろうと話しかけているのだが何故か俺の事を怖がっているみたいであまり良い反応をしてくれない。


「お待ちしておりました勇者様方、ぜひ此方へ」


 白ローブの中から現れた一際煌びやかな装飾をつけた神父みたいなおじさんが俺たちに声をかける。


「勇者様。あなた達は……」


 神父のおじさんが言うにはここは俺達のいた日本とは全く別の世界で、現代で事故にあった俺たちは白ローブ達の召喚の儀式によって肉体を再生し、此方の世界にやってきた。その目的はこの世界を滅ぼそうとする魔王を退治する為、魔王は異世界から来た勇者にしか倒すことができないという言い伝えがあるらしい。

 信じられない話だったが、白ローブ達に魔物や魔法を見せてもらったことで俺も他の4人も渋々状況を飲み込むことにした。


 剣と魔法、勇者と魔王、まるで子供の頃にやったRPGの世界みたいだ。


「この世界にはステータス、レベル、スキルというものがございます。また、勇者である皆様には職業適性が存在します。ステータスに表示された職業をみていただけますか」


「ステータス!」


 各々がそう叫ぶと驚くことに目の前にホログラムでメニュー画面みたいなものが現れた。


『職業 勇者』


「攻撃、防御、魔法、俊敏……なんかどれも3桁くらいいってるけど、これって強いんですか?」

「素晴らしい!あなたこそ真の勇者様だ!!」


 俺の疑問への返事は神父の絶賛という凄くわかりやすいものだった。RPGにおいても勇者が特別な職業だということはわかっていたし、この喜び用を見ると俺は凄く強いステータスなのだろう。スキルの欄も色々と書いてある。


「私は僧侶だって」


 サキは僧侶、タケルは戦士、マホは魔法使いの職業適性があったみたいだ。それぞれ回復魔法や攻撃力など、俺より少しだけ高いステータスがあるが苦手分野も目立つ。

 なんとなくわかってきた、俺は攻守共に優れた能力を持った勇者で他の奴らには得意不得意がある。特にサキやマホは防御力と耐久力がかなり低い、魔物と戦うのなら危険な目に遭うことも多いだろう。この先命懸けの戦いに身を置くことになった場合、真っ先に怪我をするのは女子達だ。俺とタケルで二人を守りながら戦うことはできるのだろうか、剣道部のタケルと違って俺が中学から5年間打ち込んできたサッカーは戦闘には役に立たなそうなのが悔しい。


 いや、俺とタケルだけじゃ無い。田中にも協力してもらって女子二人を助けながら頑張っていけばいい。まだ親しく無い仲だけど一緒に不可解に巻き込まれた者同士、仲間として協力してくれる筈だ。


「なぁ、田中はどんな職業だった?」

「ひぇっ!? あ、あっ、えっと」


 田中の目の前に浮かぶステータス画面を覗き見た。


『遊び人』


「な、なんだよこれ。攻撃も防御も魔法も、全部低いじゃないか!」


 田中のステータスは理不尽なまでに散々なものだった。耐久面に関しては誰よりも低いし、攻撃もタケルの半分程。唯一高いのは幸運というステータスだけど、これはゲームと違って俺達の命をかけたものだ、幸運に賭ける余裕なんてない。


「いや、でも、頑張れば強くなれるかも……」


 田中は必死にそう言ってはいるが、本当にそうだろうか。頑張って強くなるのが皆一緒だとしたら俺達の溝は埋まらない。

 なにより、耐久力の高い俺とタケルでサキとマホだけではなく田中まで庇わなくてはいけない。戦闘なんてしたことが無いのでわからないが、普通の人が守れるのはどれだけ頑張っても一人だけのような気がする。


 もしかしたら田中が強くなるのを待ってのんびり進んでいくこともできるかもしれない。ただ、神父のおじさんは魔王の力は日に日に強まっていると言うので、この戦いにはタイムリミットがあると考えられる。可能な限り命を大事にしたいがあまり悠長にしていられるわけではなさそうだ。時にはリスクを背負う場面も出てくるだろう。

 そして、俺達の進行が遅ければ遅いほどリスクを背負って無理に突破しなくてはいけない場面は後々増えていくことも想像できた。


「あのさ、田中」


 俺には3人を庇いながら戦える自信なんてない。失敗すれば全員死ぬかもしれないんだ。そうなれば俺達五人の人生は今度こそ終わるし、この世界と一緒に滅びることになる。


「お前は旅に出なくていいよ」


 俺には苦渋の決断だった。


「な、何でそんなこと言うんだ!俺が弱そうだからか?それともお情けで無理矢理班に入れられたのをまだ怒ってるのか?」


 田中は声を裏返しながら烈火の如く反論し出した。


「仕方ないんだ、お前のステータスを見たら……その、きっと俺達の旅にはついていけないだろ? 一緒に行くのは無理だ」


「だからってお荷物扱いでここに置いていくのか!何でそんなことができるんだ!悪魔め!」


 俺の意図を察したのか、その後タケル達も俺の味方になって一緒に田中を説得してくれた。


「……くそ、今に見てろよ」


 しかし、何を伝えても田中は俺の言うことを信じてはくれず、最後に恨言を呟いて何処かに行ってしまった。


「すまん、田中。俺だって出来るなら5人一緒が良かった……お前の代わりに俺が必ず魔王を倒すから、お前は安全なところで待っていてくれ」


 本当は恋人であるサキも安全な場所に残して旅立ちたい気持ちだったが、俺達の中で唯一回復魔法に適性があるサキを連れて行かないのは無理がある。


 こうして、俺たち4人は全異世界国民達の期待を背負い、魔王討伐の旅に出るのだった。

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