第113話:デジャヴ
「注目の的ってやつだね」
隣を歩くぽわ
私たちは、エフェネヴィクさんが手配してくれた六人の護衛兵とハナムラさんに付き添われながら、かれこれ三十分くらい王都の繁華街を歩いている。
ただでさえ、顔だちも服装も目立つ私たち。なぜか沿道から一緒に歩きはじめる人たちも加わって、すごい人数になってきた。マセトヴォ人、ヒマなの?
ぽわ男に目をとめたらしい若い娘たちもいる。
「ジョフロワのせいじゃないんですか? ほら、あの
いつもイジられてばかりだから、たまにはイジり返そう。
「ま……まあね」
え、なに? もしかして、テレてる!?
「マセトヴォのお嬢様がた、なかなか見る目があるよ」
そう言うと、ぽわ男は娘たちに手を振りながらウィンクした。突然のファンサに、キャーキャーはしゃぐマセトヴォ娘たち。
うん、そういう「ぽわすぃ」言動のほうが、あんたには似合ってるよ。
でも、一番の注目を集めているのは、もちろんペト様。
今、二人の護衛兵に挟まれるように数歩先を歩いているけど、行く手には人の壁ができていて、護衛兵が例の警棒みたいなやつで威嚇しながら(?)押し進んでいる感じ。
たぶん三十人はいる。もしこの世界にスマホがあったら、今ごろペト様の写真がトレンド入りしてるにちがいない。
ま、注目を集めるのは当然だし、あの女官さんたちの熱い視線とか見てたから、ある程度予想はしてたけど。さすがに、これほどまでとは……。
私たちを取り巻くヤジウマたち、ちょっと離れて様子をうかがう人もいれば、ガンガン近づいてきてボディタッチしてくる人もいる。
パーソナルスペース、おかしくね?
ついさっきも、どさくさにまぎれて私に手を伸ばしてきた
こんな状況でもさりげなく私のことを気づかってくれるとか、ステキすぎ!
声は出さずに口だけ動かして「ありがとう」と伝えたら、ウィンクで返された。
ウッ! こんな路上でキュン死するわけには!
「エフェネヴィクさんの言ったとおり、もしミチャが一緒だったら、すごいことになってたね」
私のすぐ後ろを歩くジャコちゃんが言う。エフェネヴィクさんによると、王族が街中を自分の足で歩くことは絶対にないらしい。
フェリーチャがさびしがるかと思ったけど、すんなり受け入れて、今は大人しくレオ様と手をつないで歩いている。レオ様の周囲にただよう殺気を感じるせいか、誰もフェリーチャに手を伸ばしてはこない。
「これ……なんの匂いでしょうね?」
あたりを見まわしながら、マテ君が言う。たしかに、なんかいい匂い、というか、とってもおいしそうな匂いがしていた。まだお腹は空いてないはずなのに、食欲をそそられる。
「ピエーロさん!」
先を歩くペト様に、マテ君が声をかけた。
「この辺をのぞいてみてもいいですか?」
振り向いたペト様は、微笑みながらうなずいた。人ごみをかきわけ、匂いのする方向にズンズン歩いていくマテ君。後ろからついていくと、道沿いのあちこちに屋台やらテーブルやらが並び、たくさんの人たちが食事していた。
「すす、すごいですねぇ!」
食事中の客たちがキョトンとしてマテ君を見つめるのもかまわず、そこら辺のテーブルに近づいていっては料理をガン見している。突然、マテ君が客の一人に声をかけた。
「ウ・ストゥーフナ?」
あれ? これ、なんだっけ?
テーブルには三人のおじさんたちが座っていた。飲み物のほかは、真ん中にドンと置かれた大皿が一つ。焼き鳥みたいな串料理が、文字どおり山のように盛られている。
「ウ・ケプファ」
「ケプファ?」
「ウー」
会話が成立してるっぽい!
興味津々で眺めるマテ君に、客の一人が串を差しだした。「食べてみろ」ということらしい。マテ君が振りかえると、ペト様はOKのサインを出した。
一口食べた途端、マテ君のまん丸の目が輝き、一層大きく開かれる。
「おいしいです!!」
おじさんは、その顔を見て、満足そうに大声で笑った。
テーブルに座っていた二人も、両手に串をもち、私たちに渡そうとする。それがきっかけになったのか、近くの客たちも料理をもって押し寄せてきた。まるで、私たちに食べさせるのを競いあっているみたい。
なに、このカオス(笑)。
私も、せっかくだから串を一本食べてみた。宮廷の料理みたいな高級感はないけど、これはこれで悪くないな。
「せっかくだから、休憩がてら、軽く食べていくのはどうかな?」
ジャコちゃんの提案に、みんなも同意する。まだ大して歩いてないけど、人ごみをかきわけて進むので疲れたのかもしれない。
「この店にしませんか?」
店選びをまかされたマテ君が、よく繁盛している店の前で言った。私たちが通ってきた狭い道をぬけて、広場にさしかかったところ。たくさんのテーブルが並び、ほとんど満席だ。
「座る場所、ねえじゃん!」
歩き疲れたフェリーチャが文句を言う。ハナムラさんを入れると総勢九人だから、しばらく待たないと席がない。
――と思ったら、店員たちがどこかからテーブルと椅子を運んできた。食事中の客にすこしずつ詰めさせて、あっという間に場所を空けてくれる。
なんだかゆるくていいかも。
◇
注文もマテ君が済ませてくれた。
あちこちのテーブルを回って良さそうなものを見つけては、例の「ウ・ストゥーフナ?」――「これなに?」の意味だった――で料理の名前を聞き出し、そのまま店員に伝える。ハナムラさんの通訳は出番がなかった。
マテ君、こんな行動力あるんだ。
料理は、おいしいものから微妙なものまで、いろいろだったけど、なんだかんだ言いながら、みんなで完食した。
「正直、城のなかより、街中のほうが落ちつくなぁ」
食べ終えたジャコちゃんがそう言うと、隣に座るアル様もうなずく。
「街の暮らしがどんなものか、気がかりでしたが、思いのほか活気がありますね」
エフェネヴィクさんの話を聞いていたせいか、私の脳内イメージでも、マセトヴォの人たちはみな暗い顔になっていた。ちょうど私たちについている護衛兵たちのように。一緒に食事しようとハナムラさんから伝えてもらったけど、勤務中だからと言って座ろうともしない。
「それはそうと、アルフォンソさん。昨晩の歓迎会には来てませんでしたね?」
ジャコちゃんが話題を変える。
「ええ。お恥ずかしい話ですが、部屋に着いてすぐ眠りこんでしまって」
アル様は、きまり悪そうに言った。
「無理もない。お疲れだったんでしょう。ただ、お腹すきませんでした?」
「それがね。夜ふけすぎに侍女たちが、食べきれないほどの料理を運んできたのです」
ん……?
「僧侶に夜ばいをかけるとは! やるね、あの
ぽわ男が、またムダ口をたたいている。
「そういう
そう前置きをして、アル様は昨晩のことを話しはじめた。
「食事を終えても、侍女たちが帰ろうとしないのです」
「ほう」
ジャコちゃんが答える。
それにしても――――なんだろう、この違和感?
「どうやら、食事の前、神に祈りをささげたことに興味を持ったらしくて」
前にもまったく同じ情景を見たような気がする。デジャヴってやつ?
「侍女たちが、私の祈りをまねるのです」
「で、どうされたんですか?」
私は思わず尋ねた。
「
やっぱり同じだ。
「未来のマセトヴォ大司教様だね」
期待したような話でなかったのにがっかりしながら、ぽわ男が言った。
気がつくと、ヤジウマたちもほとんどいなくなっている。結局、もうひと歩きして宮殿に戻ることになった。
それにしても……デジャヴって、疲れてるとなるんだっけ?
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