第3章:ゴーレム!
第98話:あちらの方々は?
ここは名前も知らない異世界惑星の、名前も知らない湖底都市。
「マセトヴォー! ネヤー! スクウェゴラーミチャー!」
「マセトヴォー! ネヤー! スクウェゴラーミチャー!」
周囲に集まった人たちは、ずっとミチャの名を唱え続けている。広場の外だと、ミチャの姿もろくに見えないんだろうけど。
行方不明になっていたペト様と(この星の時間で九日目に)ようやく再会をはたした。
隣に立つペト様の顔をチラリと見上げる。目が合うと、青みがかったグレーの瞳が優しく輝いた。その瞬間、全身に電流が走ったみたいになる。
ああ、やっとまた会えたんだ(涙)。
「心配かけてしまいましたね、カナ」
そう言って微笑む顔を見たら、つらかった気持ちなんか、秒で吹っ飛びそう!
「うん、でも……ペーターが無事で、ほんとうによかった!」
文字どおり、毎日この瞬間を夢見ていた――のだけど、会えない時間が長すぎたせいか、距離のとり方にとまどってしまう。
ペト様は元気みたいだし、着ている服も清潔そうだ。囚われの身にしては、あつかいがよかったってこと?
「ペーター! オカイリー!」
そう大声で叫びながら、今度はミチャがペト様に抱きついた。いや、「おかえり」は、どっちかというとミチャのほうだけどね。
「ミチャさん! ご無事でなによりです。それにしても、素敵なお召し物ですね!」
きっと意味はわからないんだろうけど、
それにしても……なんだろう? この妙な緊張感……。なんか、痛いくらいの視線が刺さってくる気がする。ええと……?
ふと見まわすと、こちらに向いていた視線が、一斉にそらされる。いや、見てたの、バレバレですけど。
「ああ……そういうこと」
ま、そうなるよね。
私たちを見張っていた警備兵はいつの間にか姿を消し、代わって、やんごとない雰囲気の美女たちが、遠まきに控えていた。いつでも
でも、それだけじゃなさそう。
「カナ? どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです!」
リアルにペト様が現れたら、どうしても注目の
女官のなかに、この囚われの異世界人を見そめてしまった人がいたって不思議はない。ペト様の隣に立つ私に、ビシバシ突き刺さる視線のえげつなさよ。
◇
湖底の街は、ようやく帰ってきた
遠くから、楽器を奏でているみたいな音も聞こえてくる。住民にとっては、お祭りみたいな感じなのかもしれない。
ついさっきまで王女誘拐の疑いをかけられていたらしいけど、
例の特大型スクーターに代わってやって来たのは、めっちゃ豪華な二階建ての乗り物。見たこともない形で、なんとなく京都の夏祭りに出る大きな
「こっここ、これに乗るんでしょうか?」
目を輝かせて、マテ君が尋ねる。
「うん、みたいね」
乗りこむ準備がととのうまでの間に、さっき取り上げられた護身用の銃だけでなく、私のスマホも返却された。これでひと安心。
返しにきたのは、やや年配のおじさんだった。例の制服を着ているけど、ちょっと階級が高そうだから、警備兵の隊長さんかもしれない。その彼も、ミチャに直接話しかけることは許されず、女官の一人に取り次いでもらっている。
「ミチャさん、この国では相当な権威をもっているようですね」
様子を見ていたアル様がつぶやいた。
「そうと知ってたら、もっといろいろお世話しておくんだったな」
ぽわ
そのとき、女官さんたちのなかでもひときわ目を引く美人さんが近づいてきた。
ペト様のそばに立っても遜色ない、身長一七〇は余裕で越えてそうなスレンダービューティー。髪は明るいピンクグレープフルーツみたいな色だけど、華のある顔立ちなので全然浮いた感じがしない。
ミチャの前でうやうやしくひざまずき、なにかを伝えている。どうやら、ドデカ山車に乗る準備ができたらしい。それを聞いているミチャは、なんかとっても偉そうだ。ま、いつものこと?
スレンダーさんは、そんなこと気にする様子もなく、流れるごとくエレガントな身のこなしで、女官たちのところへ帰っていく。ヤバい、かっこいい!
「よかったね、ジョフロワ」
その様子に見とれながら、私はそばにいたぽわ男に声をかけた。
「ん、なにが?」
「いや、なにがって、この世界も美女がいっぱいで」
「わかってないね。言ったろう? ボクは、小柄な子が好みだって」
「ゼイタクか」
たしかに、言ってたけども! そう言えば、ぽわ男って私と身長いくらも変わらないんだよね。
女官さんたちに先導されながら、私たちはドデカ山車に乗りこむ。なかから見ると、ますます豪華さが
天井や壁や床は、素材も仕上げも一目見て高級感がある。きらびやかな装飾もほどこされているのに、派手すぎないのがステキだ。
そのまま宮殿に戻るのかと思ったら、ドデカ山車は広場の外周道路に向かっている。それに気づいたのか、ミチャの名前を唱える声がいっそう高まった。ああ、沿道に集まる人たちへのファンサ的な?
女官さんたちに導かれて、ミチャは最上部の特別席へ。私たちもその後についていく形になる。
見下ろすとかなりの高さだ。地上の人たちが小さく見えた。フェリーチャは、レオ様の肩車に乗せてもらい、自分が一番高いとはしゃいでいる。
ドデカ山車が走る外周道路はかなりの道幅があり、集まった人々はそのさらに外側に立っていた。
ゆっくり進む山車の左右には、スクーターに乗る警備兵たちが、整然と隊列を組みながら並走する。ミチャのいる特別室はオープンカーみたいに屋根もないけど、周囲にはうっすらと青白い色の光の壁ができていた。これって、シールドじゃない?
「なんとも厳重な警備だね」
シールドに気づいたらしいジャコちゃんが、小声で言った。
「まあ、王女様ですから」
私より先に、隣にいたペト様が答える。
沿道の群衆は、ミチャの帰還を熱烈に歓迎している様子だけど、快く思っている人たちばかりじゃないってこと?
「カナ」
ドデカ山車からの眺めに気を取られていると、ペト様が私を隅のほうに呼び寄せた。なにやら落ち着かない様子で、周囲を気にしている。
「どうしたの?」
「お尋ねしたいのですが」
「はい」
「あちらの方々はどなたですか?」
「あちらの方々?」
「さきほどから一緒にいた人たちです。男性五人と女の子が一人。みな、ヨーロッパ人ではありませんか?」
「ええと?」
「今、私と言葉を交わしたのは、もしやグアルティエーリさん?」
「そ、それは、そうですけど……」
ああ、そうか。このとき初めて、私はある重大な事実に気づいてしまった。
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