第85話:心が読める

 夕食の後、私はGLBα5のことをみんなに説明した。スマホで撮った画像をスクリーンに映しながら話す。即席で作った可動式スクリーンだ。


「巨人が兵器として強力なことは、よくわかった。だが、人がに入る? しかも、ひとりだけ?」


 身を乗り出すようにして、レオ様が尋ねる。


「はい」

「なるほど、甲冑かっちゅうのようなものか」

「カッチュー?」


 時代劇で見た鎧兜よろいかぶとを思い浮かべる。うーん、ちょっと違くね?


「そう言われてみれば、あの分厚いはがねのかたまり、いかにも鎧って感じだ」


 ぽわがうなずきながら言った。ああ、異世界ファンタジーに出てくる騎士みたいな?


「ただ、あれだけ重い鎧だと、ろくに身動きもできないのでは?」


 アル様が、もっともな疑問を投げかける。


「人間の力じゃムリですね。空飛ぶ船と同じように、機械の力で動かすんです」

「ほう、なるほど。機械の力……」


 あんまり納得いただけてないご様子。アル様はまだ、空を飛んだことないしな。スクリーン上のGLBα5は、仰向けに倒れたままだ。


「じゃさ、カナ!」


 隣に座るフェリーチャが、目をキラキラさせながら話に入ってきた。さっきのアグレッシブな雰囲気は、もうすっかり消えている。


「あーしでも、巨人これに乗ったら、ひとりで空飛べんの?」

「ええと、飛べなくはないけど、危ないよ」

「ハァー!?」


 だから、いきなり人格変えるの、やめようよ。怖いから。 


「あんだけ頑丈なら、ちょっとくらい撃たれても、余裕だし?」

「リーチャ。カナ殿の言うとおり、それは危険すぎる」

「えー。でも、おじさま! 私、戦場に出たら、そんじょそこ……いえ、おおかたの殿方より、ずっと巧みに動いてみせる自信ありましてよ!」


 今「殿方」のところで、ぽわ男のほうチラ見したね。


「フェリーチャちゃん、それ、ボクのことかな?」


 ぽわ男が、すかさずツッコむ。


「ち、ちげーけど!」

「こう見えても、ボク、のはしくれなんだよ。戦場での速さなら、誰にも負けない! ま、逃げ足の話だけどね」


 フェリーチャは、ぽわ男の言うことにかまわず、小声でつぶやいた。


「空……飛びたいの」

「空?」


 意外に感じて、とっさに聞き返す。


「うん。だってそうしたら、ミチャと一緒に飛べるじゃん?」


 ああ、たしかに。ミチャの能力で連れていってもらわないと、一緒には飛べないもんね。そんなこと夢見てたの? カワイイな。


 でも、GLBα5に乗ったフェリーチャが、ミチャと手をつないで空を飛ぶところを想像すると――それって、楽しいんですか?


「あ、あの……話を戻しますけど」


 マテ君が口を開いた。


「機械の力で動かすってことは、なかに入る人が、巨人を操らないといけないんですよね?」

「うん、そういうこと」


 手もとのスマホを操作して、スクリーンの画像を切り替えた。デッキの上から撮ったもので、GLBα5を見下ろす画角だ。ピンチアウトであたりを拡大すると、パイロットの搭乗エリアが映し出される。


「この銀色のところが入口になってるの」

「だが、だとすると」


 ふたたびレオ様が話に入ってくる。


「巨人が、突然立ち上がったのは、どういうわけか? 誰かが乗っていたわけではあるまい?」

「そのことなんですが……」


 私は、みんなの顔をゆっくりと見まわした。


「実は、あの巨人、人の心が読めるんです」

「心が読める!?」


 面くらった様子で、レオ様が尋ねる。


「だから、操縦してなくても、近くにいる人の思考や感情を巨人が読みとって、動くことがあります。というか、んです」


 みんなは驚きの声をあげた。


「つまり、それが先ほどの?」


 まだ半信半疑といった様子のレオ様。


「はい、おそらく。レオンハルト、さっきガレージに行ったとき、私のこと怒ってたでしょ?」

「い、いやべつに、怒ってなどは……」


 言いながら、レオ様は視線をそらせた。わかりやすすぎか! ほら、ちゃんと目を見て言ってごらん!


「いいんです。私のほうこそ、ごめんなさい。レオンハルトにはいろんなこと考えてもらってるのに、私の態度がハッキリしなくて」

「ああ……うむ」


 あいまいな返事だけど、怒っていたっていうのは、当たってるんだな。


「この仕組みをうまく使えば、人間の操作では追いつかないくらい速い攻撃を受けても、機械が守ってくれる――らしいんですよ」

「カナさん」


 説明の途中で、アル様が口をはさむ。


「はい! なんでしょう?」

「さっきから何度か、その『らしいんです』を繰り返してますが、なにか理由わけでも?」

「ああ、それは簡単な話。実は、私もよくわからないんです」

「なるほど。で、もう一点。『この仕組みをうまく使えば』とおっしゃいましたね」

「はい」

「うまく使えない場合は、どうなるんでしょう?」


 核心をついてきましたね。さすが、アル様。


「うまく使えない場合は……操縦者が死んじゃうかもしれません」


 どよめきが起こる。


「実はこれも、よくわかりません。でもたとえば、戦闘時にエキサイトしすぎると、コントロールが効かなくなる――らしいんです」


 今度は、みんな一斉に黙ってしまった。だから、GLBα5のことは、触れたくなかったのにー!


「それで、カナ」


 黙って話を聞いていたジャコちゃんが、ようやく発言する。


「基本的な操縦法は、わかるの?」


 私は、首を横に振った。


「今のところ、まったく。ただ、操縦席に入ることができたら、なにかわかるかもしれない」

「では、まずそこから始めよう」


 レオ様が立ち上がり、きっぱりとした口調で言う。


「いくばくかの危険はあるにせよ、ただちに人が死ぬわけでもあるまい」

「巨人が心を読むっていう話は、ちょっと気味が悪いですけどね」


 ジャコちゃんが答えた。やっぱりそう思うよね。


「私は問題ない」


 スクリーン上のGLBα5を見すえながら、レオ様が言った。


「たとえ心を読まれようと、やましい考えなどひとつもないからな」


 ――いや、そういう話じゃなくて!




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