第82話:生き返った!?

「それにしても……戻ってこないね」


 アル様のメモを眺めていたジャコちゃんが、ふとつぶやいた。


「レオナルドさんとリーチャさんですか?」


 マテ君が尋ねると、ジャコちゃんがうなずく。


「まあ、部屋で休んでいるだけかもしれないけど」


 私も、すこし気になっていた。レオ様、私が煮え切らない態度だから、腹を立ててるのかな。


 GLBα5がほんとうは兵器だってこと――しかも手持ちのなかでダントツの戦闘能力をもつ兵器だってこと――このまま黙っておくのも悪い気がした。話したところで、どうにかなるわけでもないけど……。


「ええと」


 私は席を立った。


「ちょっと見てきます。アルフォンソさんののことも報告したいし」

「そうですね。話を聞いたら、きっとよろこんでくれますよ」


 微笑みながら、マテ君が答える。


 フェリーチャを探しにいくと思ったのか、ミチャも一緒についてきた。


     ◇


 とりあえず、レオ様たちの部屋に行ってみよう。廊下の窓から見える空は、めずらしくどんより曇っている。


「今晩あたり、雨……かなあ」

「……カナ?」


 あ、いや、それは私の名前な。


 突然ミチャは、つないでいた手を引っ張るようにグッと力をこめた。自然と私も足がとまる。


 なんだ? さっき食べたばかりだし、まさかお腹すいたわけじゃないよね?


「どうしたの?」


 なにかを訴えるような目。うーん、最近ミチャのこと、フェリーチャに任せてばかりだったから、寂しい、とか? そういえば、こんな風に手をつないで歩くの、ひさしぶりかも……。


「カナ」

「はい、なあに?」


 ちょっとかがんで、ミチャに目線を合わせる。心配そうな顔をしてても、惚れぼれするほどの美少女。うらやましいよ、お姉さんは。


 その瞬間――ズンという、地震のような鈍い振動を感じた。中腰だったから、バランスを崩しそうになる。


「カナ!」


 ミチャが不安そうな表情で、私の腕に抱きついた。気のせいじゃない。なんか揺れたぞ。この星にも、地震ってあるのか?


 そのまま数秒、様子をうかがっていると、遠くで悲鳴が聞こえた。フェリーチャの声だ。


 途端にミチャが駆け出す――と思ったら、助走をつけて空中を飛びはじめた。


「待って、ミチャ!」


 速い! 追いかける私をグングン引き離していく。声は、レオ様たちの部屋じゃなくて、地下ガレージに向かう通路から聞こえてきた。


 フェリーチャの悲鳴に、レオ様の叫びも混じっているらしい。いったい、なにがあったんだ!?


     ◇


 うす暗いライトに照らされた長い通路。右手奥から強い照明が差しこんでいる。ガレージへの入口部分だ。


「い……い……いき!」


 入口のすこし手前で、フェリーチャをかばうように、かがみこんでいたレオ様が、近づいてくる私を見るなり、なにか言おうとする。途中まで走ってきた私は、肩で息していた。


「どうしたんですか?」


 驚きと恐怖の入り混じったような表情。冷静さを絵に描いたようなレオ様のこんな顔を見るのは、はじめてだ。


「巨人が……巨人が、生き返った!」

「え! どういうこと!?」


 フェリーチャは、レオ様のそばで通路にへたりこんだまま、呆然としている。心配そうな顔のミチャが、フェリーチャの両手をしっかり握っていた。


 なにが起こっているのかわからないまま、ガレージの入口に立つ。


「……え?」


 手前には、弐号機からろく号機までの小型偵察機が並び、一番奥には、中型雷撃艇のNSQ110が見えた。


 その間にあるのが「貴族の館」号――のはずなんだけど。


 たき火? キャンプファイヤー?


 船体の後部は、モウモウと立ちのぼる煙に包まれていた。船内からは、炎もあがっている。


「レオンハルト! なに、これ? なにがあったの!?」


 煙に包まれながら見えかくれしているのは、見間違えようもない、GLBα5の後ろ姿。「貴族の館」号の貨物庫を突き破り、。でも、私が目にしたとき、その巨体はバランスを失ったように傾きはじめた。


「危ない!」


 とっさに入口のボタンを操作し、ドアを閉じる。まるでスローモーションのように、ゆっくり仰向けに倒れていくGLBα5。


 ドアが閉まって数秒後、ガレージから大きな爆発音が響いた。


 こんなの、聞いてないよぉ!





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