第59話:見えない敵
私はまた一人でPCに向かい、
あいかわらず、イメージさえすれば、塗ってない色まで再現してくれる私の魔法。でも、融通のきかないところもある。PCを導入してから、描いた画像は全部保存しているけど、保存したデータを使いまわすことはできないらしい。
だから、毎日食べるものでも、その都度、描きなおす必要がある(まあ、ジャガイモならジャガイモを、ひと山ざっくりと描けば、足りるんだけど)。
「女性たち……ねえ」
今朝、ぽわ男から出された宿題は、頭が痛い。
そもそも誰を描くんだって話だよな。たとえば――イザベラ・デッラ・スカラ? いやいや。わざわざライバルになっちゃいそうな相手を召喚してどうするよ?
ただ、そんな風に考えてると、自分がすっごく自己中に思えてきて、ちょっと
今ここにいるのは、ペト様のことが大好きな人たちばかり。それは、友情だったり、恩義だったり、いろいろだけど、みんな男性か子供だ。
でも、もしそこにイザベラが現れたら? 私みたいなモブキャラなんか、一瞬で
「はぁ……」
と、一人考え込んでは鬱になるという不毛な堂々巡りを、かれこれ一時間も繰り返している。
「こちら
マテ君からの通信だ。今日は、ジャコちゃんとぽわ男を連れて、北に飛んでいた。
「こちら参号機。はっきり聞こえている」
レオ様は、ミチャとフェリーチャを連れて、昨日に引き続き「南の海」――とペト様が命名した――の沿岸を探査している。
「カナです。こちらもよく聞こえます」
「今、北部山脈一帯をまわってきました。山頂が雪に覆われて、アルプスのようでしたよ。高いところから見下ろすのは、爽快でした!」
すっかり上機嫌のマテ君。
「これから丘陵地帯に戻り、お二人に飛行の練習をしていただくつもりです」
「了解です、テオ」
ジャコちゃんとぽわ男の健闘を祈ろう。
「参号機は、海岸に沿って南西に飛行中。リーチャもがんばって探しているが、町も港も船も見当たらない。適当なところで、海上へ出たいと思う」
「報告ありがとう、レオンハルト。私も作業を進めています。みんな、お気をつけて!」
ひとまず、順調ってところか。
そして私は、アルフォンソ・デ・トレドという名の、もう一つの課題を抱えていた。
ナギちゃんのアイディアではじめた、このハーレム(?)化計画。なんとかここまで順調に来たのは、召喚したみんなの優しさのおかげだ。
アル様は、どうか? 自分でも気づいてたけど、ヤツの召喚だけは、どうも気が進まない。
思い当たる理由はいくつかある。
その1:妙に自己主張の強いヒゲ。でも、アル様推しに言わせれば、あのヒゲがあるから、セクシーなんだって。
その2:クールすぎる(?)性格。目的のためには、手段をえらばないようなところがあるし、必要とあらば、いつでも敵と手を組んだり、味方を裏切ったりする。今ひとつ、なにを考えてるかわからない。
その3:なにかとペト様を目の
まあ、理由はいろいろあるんだけど、よくわからないというのが、正直なところ。
「やっぱ、ヒゲかなあ……」
PCの画面を前に、つぶやく。
「ヒゲが、どうかしましたか?」
マテ君が、尋ねてきた。通信装置のマイクをオンにしたままだったので、ひとり言が聞こえてしまったらしい。
「ううん、なんでもない! 気にしないで!」
「了解」
画面上では、カメラの前で話すマテ君の隣で、操縦桿を握るぽわ男の姿が見える。いつになく真剣な表情が、なんとなく
「ジョフロワさん、すぐに操縦をマスターできそうですよ!」
「マスターするより前に、船酔いで墜落しなけりゃあね」
その瞬間、通信装置から、なにかがぶつかるような鈍い音が聞こえた。
「あれ? 今の、なんの音?」
「いや、こっちじゃないですよ」
音は、参号機のものらしかった。モニターを見ると、うす暗い画面には、さっきまで映っていたレオ様たちの姿がない。
「参号機、どうしました?」
返事はないけど、マイクは入ったままらしい。ときおり、フェリーチャとミチャの叫び声が聞こえてくる。
「レオンハルト、聞こえますか?」
うす暗い画面は、どうやら床を映しているようだった。固定してないので、なにかのはずみで落下したのだろう。フェリーチャがなにか話している様子だけど、内容まで聞きとれない。
「こちら、肆号機のマッテオです。レオナルドさん、聞こえますか?」
マテ君が言い終わる前に、ふたたび鈍い衝撃音とミチャたちの悲鳴が響いた。それと同時にカメラが転がり、今度はフェリーチャたちの足もとがモニターに映る。
いったい、なにが起こってるの?
「あ、そこ!」
今度は、はっきりとフェリーチャの声が聞こえた。画面上で、その声の主が近づいてくる。
「リーチャ、聞こえる?」
「聞こえてるよ」
そう言いながら、フェリーチャが通信装置を拾いあげた。
「おじさま、カナから通信です」
「ありがとう、リーチャ」
ようやく、レオ様が画面に映った。
「こちら参号機。現在、何者かに攻撃を受けている」
落ち着いた声の報告を聞いて、飛んでくるビームの記憶が、脳裏をよぎる。血が凍るような感覚。
「こここ、攻撃ですか!?」
面食らった様子のマテ君が、聞き返す。
「まちがいない。狙われている。すでに二発被弾。大きな衝撃はあったが、全員無事だ」
シールドが効いているってことか。
「レオンハルト、光学迷彩は? 作動してますか?」
「もちろんだ。出発時からずっとオンになっている」
画面には、操縦するレオ様の手もとが見えている。細かく方向転換をしながら、攻撃を回避しようとしているようだった。
「敵機は確認できますか?」
「いや、機影らしき……またか!」
一瞬だけ、モニターに映る操縦室内が、不自然に明るくなる。
「いや、確認できない。現在、洋上を飛行中だが、機影はまったく確認できない。フェリーチャが、船外をモニターしてくれているのだが、砲撃は……」
ミチャが、後ろでなにか叫んでいた。
「ほぼ真上から受けている」
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