第50話:アプリにお願い
アプリの本棚から、『チェリゴの
何日ぶりだろう? なんか懐かしい感じ。たしか、ペト様とレオ様の出会いは、レオ様視点のエピソードだったはず――――
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レオンハルトは、焦りを覚えていた。治療代が
やむをえない。同郷の仲間から聞いたジャコモという男を訪ねてみよう。表向きは貿易商、裏では傭兵の仕事の斡旋などもしているという。胡散臭いが、背に腹はかえられぬ。
グアルティエーリ商会の建物は、すぐに見つかった。さびれた事務所の入口で紹介状を手渡す。ジャコモのほか、部屋の奥にもう一人、来客中らしい男が座っていた。貿易商にしては、やけに人の出入りが少ない。
「ええと、ツィーグラーさん。傭兵の働き口をご希望、と……」
「いかにも」
レオンハルトは、手短に要望を伝えた。条件はどれだけ悪くてもかまわない、ただし、自分の留守のあいだ、報酬から
「はぁ」
気乗りしないのを隠そうともせず、ジャコモが応じる。すると突然、奥に座っていた若い男が、口を挟んだ。
「失礼ながら、ご自身は、かならず戦地から帰還なさるおつもりですか?」
レオンハルトの表情が、さっと険しくなる。
「どなたか存じませぬが、貴殿には関わりのないこと。心配はご無用」
「だとよいのですが」
「どういう意味か?」
男は、すっと立ち上がった。当惑した様子で振り返ったジャコモが、心配そうに声をかける。
「
男は、「わかった」という手ぶりで
「この男に依頼なさるおつもりなら、
「貴殿は医者なのか?」
「いちおう、ボローニャ大学
ジャコモが、素っ気なく答える。
「はい。街の
「なるほど。だが、申し訳ない。ご覧のとおり、貧しい外国人傭兵だ。高額の報酬がお望みなら、他をあたっていただきたい」
医師を名乗る男は、唇に微笑を浮かべた。
「誤解されているようですね、ツィーグラーさん。むしろ逆です」
「おっしゃりたいことが、わかりかねるが?」
「私のような医者にとって、リスクは二通りある。治療に失敗するリスク。そして、報酬を取り逃がすリスク。おそらくより重大なのは、二番目のリスクです」
「……腕前には、相当の自信がおありということですかな」
男は、肯定も否定もせず、軽く肩をすくめる。
「どちらにせよ、減らせるリスクは減らしたほうがいい。そうは思いませんか?」
「理屈はわかるが、私にどうしろと?」
「まず、戦場には行かないこと。これで、二番目のリスクが回避できます」
ここまでのやりとりを聞くと、ジャコモは呆れたようにため息をつき、そのまま事務所の奥に引っ込んでしまった。
「いや、私が戦地に赴かなければ、報酬もなくなる」
「必要ありませんので」
一瞬、からかわれているのか、とレオンハルトは疑った。
「では、
「もちろん、私が引き受けます。よその医者に任せるよりは、治る見込みもあるでしょう。おおかた、効きもしない薬を処方されているのでは?」
「つまり、第一のリスクも、心配しなくてよいということか。で、見返りは?」
「私の身辺警護です」
「身辺警護!?」
レオンハルトは、つい大声を出した。ジャコモはこちらを向いて肩をすくめながら、「ほらね」とでも言いたげな顔をしている。
「ええ。最近、どうも厄介な連中につきまとわれているのです」
「それはまた……」
「自分で蒔いた種ってやつでね!」
即座にジャコモが付け足した。
「なるほど、戦場よりは安全な仕事ということか」
「実はそれが、こちらへ出向いた用件でしてね。あなたにとっても悪い話でないとよいのですが……」
「街から離れずにすむなら、こちらとしてもありがたい」
「では、決まりですね」
そう言うと、男は握手を求めてきた。
「自己紹介が遅れました。私、ペトルス・リプシウスと申します」
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ここまで読んで、私はアプリを閉じた。
何度も読んでる箇所なのに、登場人物のうち二人と実際に会った後だと、まるで映画のワンシーンみたいに、新鮮な感じがする。この場面に、フェリーチャ自身は登場しない。でも、レオ様に案内されて診察に向かうペト様の姿が、目に浮かぶようだった。
「よし!」
私は、ペンタブに向かって、一気に描きはじめる――
◇
「えっ? ちょ! ここ、どこ? てゆーか、アンタ、誰!?」
少女は、ビックリした様子であたりを見まわすと、いきなり質問をぶつけてきた。声、メッチャかわいいのに。なんだ、この話しかた、ギャルかよ?
「えっと、フェリーチャちゃん、だよね?」
「だから、誰よ、アンタ!?」
肖像画にかなり寄せて描けたつもりだったけど、まさかの――召喚失敗? やっぱり見たこともない人物を描くのは、ムリがあったか?
いかん、顔が引きつってしまう。スマイル、スマイル!
「私、カナっていうの。よろしくね!」
フェリーチャ(?)は、怪訝そうな顔で、私を見ている。
「カナ? 何者なの? アンタ、異国の人間よね? なにが望み? 金?」
「イヤイヤイヤ、なにも望んでなんかないから!」
この子、まだ八歳とかじゃなかったっけ。てことは、日本なら小二くらいよね? 妙に世間
私が困っていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「カナ殿、入ってもよろしいか?」
レオ様の声だ。
「え! おじさま!?」
突然、フェリーチャの顔が、ぱあっと明るくなった。
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