第49話:肖像画

「ミチャ殿に、ご家族は?」


 散歩から戻る途中で、レオ様が尋ねる。背の高いレオ様と並んで歩くと、見上げながら話さないといけない。


「出会ったときはもう1人だったので、家族のこと、よくわからないんです」

「そうでしたか。家族と離れて、ミチャ殿も寂しかろうに。健気けなげですな」


 レオ様は、機嫌よさそうに歩くミチャの後ろ姿を見ながら、そう言った。どこかで、フェリーチャの境遇を重ねているのかもしれない。ひょっとすると、早くに家族を失った自分自身の境遇も……。


「しかし今は、カナ殿が一緒で、なによりだ。実の姉のように、慕っている」

「うーん、慕ってるというほどでは……」


 ミチャ、まったく人見知りしないからなあ。


「リーチャと暮らしはじめたときは、なかなか打ち解けてくれず、苦労したものです」

「えーと、リーチャって……」

「失礼。フェリーチャの愛称です」

「ああ、なるほど」


 なんか、ミチャとまぎらわしいな。


「そういえば、リーチャは、何歳いくつでしたっけ?」


 私は、さっきの肖像画を思い出しながら、聞いてみた。


「そろそろ9歳になります」

「じゃあ、ミチャにとっては、妹くらいかな」


 自分の名前が出たのに気づいたのか、ミチャが振り返り、ニコニコと微笑む。黙ってると、ただの(?)美少女なんだけどなあ。


「もうそんなになりますか! 早いものですねえ」


 驚いた様子で、横からマテ君が言った。そうか、フェリーチャはペト様に診てもらったから、マテ君も会ったこともあるんだな。


「また会えるのが、楽しみです!」


 だから、変に期待あおるの、やめて! うまく召喚できる保証、ないんだってば!


     ◇


「あ、あのぅ……」


 PCの前に座る私の左右に、マテ君とレオ様が立っている。私が絵を描くとき、普段なら関心を示さないミチャまで、2人に釣られたのか、近寄ってきた。


「どうされた、カナ殿?」


 レオ様が、心配そうに私の顔をのぞき込む。近くで見られてると、正直すっごく描きにくいんです。うーん、でも、なんと伝えたものか。


「隣で見ていて、楽しいものじゃないと思うんですけど……」


 まあ、レオ様にしたら、かわいい養女むすめとの再会が、待ち遠しいんだろうな。


「これまた不思議な装置ですねえ!」


 マテ君まで、ペンタブを興味深そうに眺めている。いいね、キミは気楽で!


 そのペンタブの前には、レオ様からあずかったフェリーチャのミニミニ肖像画が置かれていた。栗色の、マテ君よりはすこし暗めの髪。ゆるくウェーブのかかった髪の毛は、頭の上できれいにまとめられている。


 肖像画の少女は、生まじめな表情で、左手の虚空を見つめていた。ああ、まったくうまく描ける気がしない……。


「あ、ひょっとして、そばで見ていると、描きにくいですか?」


 考えこんでいる私に、マテ君が声をかける。


「え? そうですね……。あ、いえ! そういうわけでは、けっして!」


 あわてて否定する私の様子を見て、マテ君がちょっとあきれたような顔をした。


「もう、カナ。大事な役目なんだから、私たちに気をつかわないで」


 突然、こちらの気持ちをズバリと言い当てるマテ君。察しがいいんだか、悪いんだか。


「なるほど。そういうことなら、私たちは席を外すのがよかろう。マッテオ殿、ミチャ殿、広間のほうで待とうか」

「はい! お茶でもいれましょう」


 そう言って、部屋を出ていこうとする。早々に興味をなくしたミチャも、2人についていった。


「なんか、いろいろすいません……」


 なにはともあれ、ありがたい。これでちょっと落ち着いて描けそうだ。


 あらためて、フェリーチャの肖像をじっと見る。


 やっぱり、むずかしく感じるけど、よく見れば、とても丁寧に描いてあった。これ描いた画家さん、さすがプロ! でも、いかんせん、プリクラなみのサイズしかない。だいたいの雰囲気はわかるのに。もうちょっと大きかったらなあ。


 私は、目を閉じた。もうすこしリアルにイメージさえできれば、なんとか描けるかもしれない……。


 ふと、ペト様の姿が思い浮かんだ。PCの隣にあったスマホを手に取り、電子書籍アプリを立ち上げてみる。

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