第48話:絵描きの試練

 レオ様に、あっさり断られてしまった。


「どどど、どうしてです、レオナルドさん?」


 マテ君は、私以上にガッカリしてるみたい。


「悪く思わないでいただきたい。カナ殿、マッテオ殿」


 レオ様は、ふと足をとめて、私のほうに顔を向けた。


「私も、先生ドットーレには人一倍恩義を感じている者だ。しかしながら、この救出作戦、すぐに決着がつくものではないとお見受けした」

「それは……そうかもしれません」

「お手伝いしたい気持ちはやまやまだが、私にも、面倒を見なければならない幼い養女むすめがいる。私の都合で、放り出すわけにはいかないのだ」

「フェリーチャ……」


 しまった! つい口走ってしまった。レオ様が、驚いている。


「ご存知なのか? フェリーチャのことを?」

「ええ、まあ。知ってるっていうと、言い過ぎですが……」


 フェリーチャというのは、レオ様の養女の名前だ。戦乱で家族を失くした孤児みなしごで、レオ様は、実の娘のように大事にしている。そして、原因不明の熱病で生死の境をさまよっていたフェリーチャを救ったのが、先生ドットーレこと、ペト様だった。


「それなら、話は早い」


 マテ君が、ニッコリ微笑みながら、私の顔を見る。


「どういうこと?」

「カナの腕の見せどころじゃないですか」


 私になにをどうしろと?


「マッテオ殿、説明していただけないか」

「つまり、カナが絵に描いて、フェリーチャをここへ呼んだらいいのですよ」

「ええっ!?」


 そう来たか。


 マテ君、名案と言いたいとこだけど、それはムリだよ。理由は簡単。『チェリせん』には、フェリーチャを描いた挿絵、1枚もないから。矢嶋ミウ先生のイラストは、隅から隅まで模写してきた私が言うんだから、間違いない。


「なるほど。カナ殿の魔術という手がありましたな」

「イヤイヤ、ムリです!」

「え、どうして?」


 せっかくの名案にケチをつけられたと思ったか、マテ君が、不服そうに尋ねる。


「私、フェリーチャの顔、見たことないから」


 レオ様は、一瞬なるほどという顔をしたけど、マテ君は、引き下がらない。


「私やレオナルドさんだって、一度も会ったことなかったでしょう?」

「そ、それは、ええと――」

「マッテオ殿の疑問は、もっともだ。どうして私たちは描けて、フェリーチャは描けないのです?」


 痛いところを突かれてしまった。まさか、『チェリ占』のこと、話すわけにもいかないし……。


「お会いしたことはなかったけど、2人の絵は前に見たことあったから!」


 とっさに口をついて出てきた言い訳だけど、ウソではない。


「絵を見たら、描けるってこと?」

「エ?」


 マテ君が追い打ちをかけてくる。


「こんな絵でよければ、持っているのですが……」

「エ?」


 まさか――。すこしきまり悪そうに、レオ様が、ふところからペンダントを取り出す。フタの部分を開くと、女の子の肖像画が現れた。


「フェリーチャです」


 っさ! サイズもだけど、これ、本格的な肖像画だ。たぶんレオ様が、本職の画家に描いてもらったんだろう。私が描くイラストとは、タッチも技法も、まったく違う。これを手本に描け、と?


「どう、カナ? これなら描けるでしょう?」


 マテ君が、ニコニコしながら尋ねる。


 立派な絵があるのに、描けないとは言えない。どうする、香南絵かなえよ? 絵描きに与えられた突然の試練(in 異世界)。


「わかった。描いてみるよ」


 無事フェリーチャを召喚できれば、レオ様にも協力してもらえそう。でも――ほんとに、こんな絵を模写できるのか、私!?



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