第46話:なに、これ?
「ミミミ、ミチャさんが、飛ばしてたんですね」
ようやく状況を理解したマテ君が、すこしホッとした顔で言った。
「のようです」
「それはそうと、カナ」
「はい?」
「ち、ちちち、近いです……」
「あっ!」
気づいたら、ずっとマテ君の腕にしがみついていた。気まずい。
「ご、ごめんなさい!」
「い、いえ、別にいいんですが……」
私は、急いで腕を放した。マテ君も、耳が赤くなってる。
「すすす、すごい音しましたけど、機体はあまり損傷もなさそうですね」
「う、うん」
これって、中の人いたら……。いや、考えるの、やめとこう。
興味をそそられたのか、マテ君が、そろそろと黒ブーメランに近づいていく。すると、ミチャがまた突然、マテ君の前に駆け出した。
「アアーー! デニーーッ!」
デニ?
今度はなにが起きるのかと眺めていると、黒ブーメランの機体が、地面から30 cmほど浮かび、そのまま小刻みに振動しはじめた。振動が高まるとともに、なにか耳障りな音が、かすかに聞こえてくる。
え、この音って? どこかで聞いたような……。ああ、そうか。空飛ぶ船から出る飛行音と同じ音だ。
「なんでしょう、この音?」
気味の悪い響きに、マテ君も顔をしかめる。その間にも振動音は大きくなり、耳を覆いたくなるほどになった。
「テオ、見て!」
黒ブーメランは、振動するだけでなく、ちょうどくの字の真ん中あたりが、高温で熱したように赤く光っていた。見る見るうちに、その色が白い輝きに変わる。ミチャがやってることを知らなかったら、逃げ出したくなる不気味さだ。
「デニーッ!」
デニ、2回目。呪文か?
その瞬間、鋭い金属音が響くと、黒ブーメランは真っ二つに割れ、そのまま地面に落下した。切断された部分が、まだ白く光っている。
その途端、ミチャは、ヘナヘナとしゃがみ込んでしまった。
「だいじょうぶですか、ミチャさん?」
マテ君が、さっと駆け寄る。優しいのね(ミチャには)。
能力を酷使したせいか、ミチャは疲れきった様子だ。それにしても、金属を切断しちゃうとか、怖すぎです。
私は、スマホを取り出して、真っ二つに割れた黒ブーメランを撮影しはじめた。
ん?
「ねえ、テオ」
「どうしました?」
「なに、これ?」
マテ君も、切断された機体のそばに来た。
「おや? なかが空っぽ?」
「ですよね、やっぱり」
さっき光っていた部分は、ほぼ元の色に戻っている。プロレス技のようなミチャの攻撃で、だいぶ変形してるけど、間違いない。黒ブーメランのなかは、完全な空洞だった。
◇
「無人機かあ」
私は、右手にスプーンを持ったまま、ため息をついた。
「もう、カナったら。食事中にため息とか、やめてくださいよ!」
「あ、ゴメン。気になったもので、つい」
あの後も30分くらい、黒ブーメランの機体を詳しく調べた。
銃で穴を開けてみたりもしたけど、結論は同じ。機体は、分厚い金属の装甲と1台の機銃みたいな兵器だけで、なかはまったくの空洞。エンジンのようなものすらなかった。操縦者もナシ。道理で小さいわけだ。
「だいたいカナは、不思議だ、不思議だって言いますけど、私に言わせれば、空飛ぶ船だって奇跡みたいなものですよ。無人の船くらい、どうってことないでしょう?」
「うーん、まあ、それはそうなんだけど……」
なんだろう、この微妙なモヤモヤ感。一度は、自分たちが殺されかけた相手だから? それもすこしあるけど、それだけじゃない気がする。ああ、ペト様がいてくれたら、この違和感の理由を、あっという間に説明してくれそう……。
「話は変わりますけど」
「はい」
「この料理、とっても美味しかった! 今度、作り方を教えてください」
「うん、喜んで! これ、カレーっていうんです」
正直、料理は得意なほうじゃないけど、カレーは母と一緒に作ることもある。夕飯の用意をはじめたとき、ふとあの味を思い出して作りたくなった。
「気に入ってくれて、うれしいな」
マテ君は、2皿目をきれいに平らげていた。
「そう言えば、もっと仲間を増やすって話してましたね」
「あ、はい」
「私もね、食事の用意くらいなら、すこしは役に立てると思います」
「テオ……ありがとう」
「ほら、私は、けっこう臆病者だし、いざというときは、頼りにならないこともあるから」
マテ君は、ちょっと恥ずかしそうに、目を伏せた。
「そんなことないです。さっきだって、私たち2人を守ろうとしてくれたじゃないですか」
「ああ、あれは……。気がついたら、ああなっていただけで」
ミチャは、すさまじいスピードでカレーを3皿食べ終えたあと、そのままソファーで熟睡している。
私たちと出会う前、黒ブーメラン相手に、どんな目にあったんだろう? 無人機だってこと、ミチャにはわかってたのかな? そもそも、どうしてミチャは、黒ブーメランたちと戦ってるんだ? いや、ミチャ(たち?)は、一方的に攻撃されてるだけ?
すこしだけ敵のこともわかったけど、疑問は、むしろ増えるばかりだ。
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