第38話:そこ、感心するとこじゃないから!

 大型船は、青白い光を発しながら、ほぼ静止している。日の光が遮られ、私たちの周囲は影に飲みこまれた。


「これ、捕まっちゃう流れ?」


 UFOからビヨーンってビーム出て、地上の人間や動物が吸い上げられるシーンを想像した。ていうか、この船、どんだけデカいんだ? ジャンボジェット機の何倍もありそう……。


「ホー!」


 ミチャが、大型船を見上げながら、うれしそうに声を上げる。いや! そこ、感心するとこじゃないから!


 眼下の森から、突然の暗闇に驚いた鳥たちが飛び立つのが見える。一緒にまぎれて、逃げ出したい。


「!」


 そのとき、正面の地平線から何本もの赤い光線が、大型船めがけて伸びてきた。光線の一部はまともに命中している。このどぎつい色、忘れもしない、昨日の攻撃と同じビームだ。ほんと、心臓に悪いわ、これ!


 敵はまだ遠すぎて見えないけど、頭上の大型船は、応戦をはじめている。私たちを取り囲んでいた4機の小型船も、このマザーシップ(?)に引き上げていくようだ。よく見ると、船は、かすかな薄緑色の光で包まれていた。防御シールドとかかな。敵のビームをくらってるはずなのに、破損している様子はない。


 そんなことより……このすきに、逃げよう!


 私は、ビームが来るのと反対方向に操縦桿をきった。


「ミチャ、しっかりつかまって!」


 全速前進!


「グッア゛~ッ!」


 いきおいよく加速しすぎたせいで、座席に体がグッと圧しつけられる。気持ち悪い。後方モニターの画面では、大型船がグングン小さくなっていく。回避成功? 周囲に敵がいないか、見回してみる。そのとき――


「ええっ!?」


 不意打ちの音に驚いた。スマホの通知音。「大河内凪」の表示。ナギちゃんだ!


「なんてタイミングで、かけてくんだよ!」


 あいにく、レバーと操縦桿で両手がふさがっている。どうしよう? 早く取らないと、切れちゃうかもしれない。


「むぅ……」


 私は、おそるおそる操縦桿から右手をはなして(よい子は絶対マネしちゃダメ!)、応答ボタンを押し、そのままハンズフリーに切り替えた。


「おー、いたいた!」


 スピーカーから、妙に緊張感のない声が響いてくる。


「カナ、聞こえてるー?」

「う、うん」

「ひさびさに通じたー! 元気か~?」


 普段どおりの、あっけらかんとした口調だった。


「ごめん、ナギ。今ね、すっごくヤバい状況」

「え? どしたの?」

「目の前で異世界人たちが交戦状態。私は宇宙船で、その場から離脱中」

「マジか! 草生える!」

「生やすな! 昨日だって、ガチで死にかけてんだぞ!」


 向こうに悪気ないのはわかるんだけど、今の状況だと、さすがにイラっとくる。


「ゴメンって! かけ直す?」

「ううん! かけてくれたのは、うれしいよ。もう話せないかと思ってた」


 電波状態は、なぜかすこぶる良好。高度は1000メートル超えてるんだけどな……。


「カナのライン、届いてたよ。まだ読めてないけど」

「ああ、送信保留になってたやつ」


 電波が復活したら、すぐ送信されるように、ラインのメッセージをあらかじめ書いて送っておいたのだった。ってことは、お母さんにも届いてるはず。どうしてるかな?


「待って。どこかに着陸する」

「え? 宇宙船って、まさかカナが操縦してんの?」

「自分でも信じられんよ」


 後方を確認すると、大型船は、もうほとんど見えないくらい離れている。機体をうまく隠せそうな渓谷が見えたので、ひとまずそこに下降することにした。光学迷彩は切らないでおくけど、目立たないに越したことはない。


「お待たせ」


 弐号機を着陸させると、私はビデオ通話に切り替えた。

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