第36話:ビデオ・メッセージ
リストの最後には、新しい動画があった。
ペト様、前にパスコードを教えたから、それで撮ったのか。撮影時刻は、日本時間で「火曜日」、つまり昨日と表示されているけど、この星の時間で言えば、今日の午前未明といったところだ。
サムネには、ペト様の顔が映っている。その表情は、深刻そうだ……。
私は、深呼吸する。
ペト様のメッセージ、どんな話なんだろう? この家を出ていく理由――それは私に関係してるはず――をペト様本人の口から聞きたいという思いと、聞いてしまったら取り返しがつかなくなりそうという思いが、頭のなかでぶつかり合う。
どっちにしても、私の疑問のほとんどは、このビデオを観れば、答えが出るはずだ。それだけに、緊張感がハンパない。
「よし、観よ!」
私は、ビデオの再生アイコンをクリックした。
◇
「カナ……」
画面に映るペト様は、言葉を探すかのように、口をつぐんだ。
「このビデオを観ているということは、残念ながら、悪い知らせです。もし無事に帰ってきていたら、消去するつもりでいました」
え? なになになに?
画面が不安定に動く。ペト様は、手持ちで撮っているらしい。
「見えるでしょうか?」
そう言うと、ペト様はカメラを窓の外に向けた。部屋の照明がガラスに反射して、夜だということしかわからない。
「ダメですね。今、すこし離れているようです。……いえ、ちょっと待ってください」
カメラは、窓を背景に、外の様子をうかがうペト様を映している。すると、窓の外が急に明るくなり、一瞬、ペト様の姿がほとんど逆光になった。
「また近づいてきています。……今、ほぼ真上ですね」
青白い光が見える。光は、強まったり、弱まったりしながら、付近の木々を照らしているらしい。何度か耳にした「空飛ぶ船」の音も、かなりはっきり聞きとれた。
「さっきまで、もうすこし遠くを飛んでいたのですが、だんだんと、確実に近づいてきています」
こんな状況なのに、私は、1つ下の階でグ~スカ寝てたのか!
「今のところまだ、光学迷彩でごまかせているようです。しかし、時間の問題でしょう。私たちのことを探しているとしか思えません」
画面は、また正面からペト様を映していた。
「カナ」
その真剣な表情に、私も思わず、気をつけ! の姿勢になる。
「ごめんなさい。相談もせずに決めてしまって。それから……」
ペト様は、言葉を切って、一度だけ、ゆっくり振り返り、外の光をじっと見た。
「カナを守るという約束を守れなくて。しかし、時間がありません。私は、『空飛ぶ船』で出ます。彼らの注意を引き、
「ダメだよー! そんなの、ダメー!」
私は、画面に向かって叫んでいた。もう涙が止まらない。
ビデオの残りは、短い別れのあいさつで締めくくられていた――
これまで、私と一緒に過ごした時間が幸せだったこと
私にはとても感謝していること
私とミチャの健康を願うこと
それから……
それから……
「ズルいよ、ペーター! このタイミングで! そんなの……そのまま全部、こっちのセリフだよーっ!」
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