第34話:「やーめーてー!!」

 帰りの機内では、あれこれととりとめのない考えが、頭のなかで渦巻いていた――。焼かれた家、空飛ぶ船、ブルーベリー、花火、ナギちゃん、光学迷彩、ペト様の失踪……。


 いったい、なにが起きてるの? があんなことを?


 ずっと前、アニ同同期の推理小説マニア、山野井君と話したことを思い出した。犯人探しのとき、その犯行で「誰が得をするのか」を考える、という方法があるのだそうだ。


「たとえばさ、殺された被害者にうらみをもつ容疑者が見つからないとするよね」

「うんうん」

「そういうとき、被害者の死によって、誰かのふところに大金が転がりこむとしたら、その人が疑わしいってなるじゃない?」

「ああ、なるね」


 話を聞いたときは、なるほどそうか、と思った。よし、では。その考え方を、今回のケースに適用してみると――


 さっぱり、わからん。


 ていうか、なんで家を壊さないといけないの? 空き家になってることくらい、見ればわかりそうなものなのに。あんなことしたって、一銭の得にもならない……。


「ラスヴァシオー! アー!」


 あの光景を見て動揺したのだろう。ミチャも落ちつかない様子だ。ときおり、こんな風に大声をあげたり、私になにか訴えるように話したりするのだけど、意味はまったくわからない。


「うんうん、怖いね」

「アー! カワイー!」


 いや、ちがう。けど、まあ、いいか。


「カナー!」


 心配そうな顔で、操縦桿を握る私の手に、自分の手を重ねてきた。目にちょっと涙を浮かべ、ウルウルさせている。もう! カワイーのは、おまえなー!


「なーに、ミチャ?」

「グミー!」


 腹減ったんかい! まあ、でも、そろそろ来るなーとは思ってたよ。


「!」


 その瞬間、地面から、まばゆいほどの赤い光線が、空に向かって伸びた。


 5本? 6本? 突然で、数えることもできないけど、絶対、私たちを狙ってる! 幸い、どれも外れていた。当たってたら、即死にちがいない。いつか見たのと、同じビームだ。


「そーゆーの、やーめーてー!!」


 私は、泣きそうになりながら、操縦した。思い切ってガーンと速度を上げ、できるだけ細かく針路を変えながら、地表近くを目指して飛ぶ。


 前に目撃した宇宙船チェイスのときも、追われる側はジグザグに回避行動をとっていた。下から撃たれると、遮るものがなく余計に狙われやすい。


 操縦で手一杯だから、まわりを見てる余裕はないけど、地上から多数の敵機が上昇してくるのはわかった。パニクって、頭のなか、もうグシャグシャ! さらに数発のビーム。光の帯が、すぐ隣を抜けていく。


 ……空飛ぶ船、ブルーベリー、浴衣……


「今度こそ、ヤバいかも!?」


 ……BL、ケバブ、花火……ペーター……


 せめて、死ぬ前に、もう一度だけ会いたかった――


 ペーター!


「それだ!」


 私は、とっさに操縦パネル左手の緑色のスイッチを押した。同時に、機体を思い切って急降下させる。


 その瞬間、下方から、また何本もの赤いビームが伸びた。でも、今度は、狙いがデタラメで、かすりもしない。


 休む間もなく、黒い機体が10機ほど迫ってくる。たぶん、前に襲われたのと同じタイプだ。急速に接近してくる――と思ったら、急降下を続ける私たちのわきを、素通りしていく。


 う、うまく行った!?


 私は、いったん機体を停止させ、様子をうかがった。


 上空で、敵機が減速しながら、あるものは旋回し、あるものは完全に停止しているのが見える。やはり、こちらの姿は、向こうに見えていないらしい。


「よかったぁ。間に合ってくれた!」


 初号機にはなかった光学迷彩の機能を追加しておいたのが、ギリギリのところで、役に立った。これも、ペト様のアイディアだ。


 私は、敵に気づかれないよう、できるだけゆっくりと、PY37γ5を発進させた。だいぶ離れたところで、連中の機体が、雨雲を背景にゴマつぶほどの大きさになったのを見届けてから、徐々に加速していく。


「今日のところは、このくらいで勘弁しといてやる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る