第2章:ハーレム?
第31話:ペトルス・リプシウスの消失?
「カナ〜!!」
ベッドで寝ている私を、ミチャが起こしにきた。いつもどおり、元気いっぱいだ。
「オナタ、スイテニョ〜」
メロディなら瞬時に耳コピしちゃうのに、言葉はビックリするくらい間違って覚えるよね。それも愛嬌? まあ、お腹をすかせてることは、そぶりでわかるからいいんだけど。
「おはよう、ミチャ!」
「オッハヨー!」
朝ご飯、なに作ろう? 家庭菜園に果物を追加しておいたから、フルーツを添えてヨーグルト食べたいな。
2人でキッチンのある1階に降りていく。めずらしく窓の外は小降りの雨だ。傘をさして、ミチャと一緒にイチゴとブルーベリーを採りにいく。
ちょっと肌寒い庭を歩きながら、頭のなかで、昨晩のことを思い返した。
ペト様、浴衣のこと、いっぱいほめてくれたな。がんばった甲斐があったかも。
――ではあるが。
別れ際、ペト様は、優しくハグしてくれた。
「じゃあ、おやすみなさい、カナ」
そして、そのまま、寝室に入っていった――。
それのどこに問題があるのかというと……。いや、どこも。
夜だし。「おやすみなさい」、フツウっしょ。寝るんだし。寝室に入ってくの、当たり前っしょ。だいたい、別々の寝室にしたの、私なんだから……。
「はあ……」
私は、しずくで濡れたイチゴを採りながら、ため息をついていた。
つまり、あれな。ペト様、私なんかじゃ、ガキすぎるのな。そういうことなんだろう、結局……。
浴衣をほめてくれたのは、初めて見るものというめずらしさもあったし、なんというか、社交辞令的なもの? 私に「女として興味ない」と思わせないための、ペト様なりの優しさ?
「カナ~?」
いかん、いかん。すっかり手が止まっていた。ミチャが、心配そうに私を見上げている。
昨晩、心のどこかで期待してた展開をふと思い出して、その都合のいい想像に、われながら嫌気がさした。
ペト様は、私の初恋にして、最愛の人だ。もちろん、最初から、私の一方通行の想い。でも、それで困ることはなかった。気持ちが報われる可能性なんて、これっぽっちもなかったから。
そう、この世界に来るまでは……。
同じ世界で
「はあ……」
昨晩、いい雰囲気だったのは思い違いじゃない。だから、今度こそ、なにかあるかな、と思ったのに……。
◇
朝食の準備ができた。
それにしても、ペト様が起きてこない。いつもは早起きで、私が目覚めてくるころには、道具の修理とか、周辺の偵察とか、なにかしらひと仕事終えて、爽やかに「おはようございます」って言いながら現れるのに。
昨日は、長時間の遠出もしたし、疲れてたのかな。もうちょっと寝かせておいてあげたほうがいいのかも。
そうこうするうちに、5分たった。うーん、コーヒー冷めちゃうな。でも、もう3分だけ待とうか――。
「オナタ、スイテニョ〜」
ミチャが、泣きそうな顔で文句を言う。でも、ペト様が起きるまでは、と我慢しているみたい。やっぱり、起こしにいかなきゃ。
2階の寝室をノックしてみた。
「ペーター、起きてる?」
返事はない。もう一度だけノックしてみるが、物音ひとつしないので、すこし心配になる。どうしたのかな……?
「ごめんなさい、開けるね」
ペト様は、頭まで掛けぶとんにくるまって寝てるみたいだ。まあ、そんな日もあるよね。疲れてベッドから起きあがれないペト様を想像したら、ふと優しく起こしてあげたくなった。目覚めて、私が添い寝してたら、ビックリするよね。でも、たまには、そんなのも悪くないかも……。
私は、ちょっとした
「カナ?」
予想外の方向から声がして、飛び起きる。ドアの手前に、不思議そうな目で私を見つめるミチャが立っていた。
「あ、あのね! これは、ちがうの! なんでもないの! ちょっと、その、サプライズ? 的な……」
なにをミチャ相手に動揺してるんだ、私。
ていうか、あれ? なんか変。
ふとんをめくってみると、そこにペト様はいなかった。
「ミチャ。今日ってペーターのこと、見た?」
どこまで言葉を理解してるかわからないけど、ミチャは「わからない」という感じで首を振った。私も、先に起きてたミチャも、今朝はまだペト様を見ていない。とすると、もうずいぶん前に起きていたことになる。
なんだか、イヤな胸騒ぎがした。
「ペーター、どこにいるの?」
「ペーター、ノコモイルジョー」
ミチャと2人でペト様を探す。バスやトイレやバルコニーを含め、家のなかのどこを探しても、ペト様はいなかった。昨日の晩、バーベキューと花火をした庭や河原にも姿はない。
「ペーター、お願い、出てきて!」
なにも言わずに出ていくなんて、今までなかったのに。なにがあった?
「ペーター!」
心配そうな顔をしたミチャは、とうとう浮遊して、空からの捜索まで始めた。
空から……。そうだ! まだ1ヶ所、見てない場所がある。私は、地下に続く階段をかけ降りた。
不安な気持ちをおさえながら、半地下にあるガレージの入口を開く。すると、そこにあるはずの「空飛ぶ船」は、姿を消していた。
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