第27話:気になる質問

「私を守る、なんて。そんなことを目標にしてもらっていいのかな」


 ナギちゃんとの電話で、あんな風に言ってもらえて、感激した。ペト様は、その言葉どおり、毎日ほんとうにいろいろ考えて行動してくれている。


「カナは、やはり、元の世界に帰りたいですか?」


 突然の質問にドキッとする。今一番考えたくない問題かもしれない。


「帰りたくないと言えば、ウソになる、けど……」

「けど?」


 もちろん、家族にだって、友達にだって、会いたい。心配してくれているのも、痛いほどよくわかった。


 でも、ここで「帰りたい」と言ってしまうのは、ためらいがある。元の世界に帰れるかどうかもわからないけど、もしその方法がわかったとして――ペト様はどうなる? 私の気まぐれで召喚されただけなのに、この世界に一人残すなんて、私にはできない。


「あのね、ペーター」

「はい」


 私は目を伏せて、尋ねた。


「もしかして……一緒に、帰る、なんてことできるかな?」

「私と一緒に、ですか?」


 思ったとおり、驚いた顔をしてる。


「はい。あ! でも、勝手なこと言って、ごめんなさい! 元の世界に帰りたいのは、ペーターだって同じだよね?」

「いえ」


 浮輪をかかえて水辺に走っていくミチャを目で追いながら、ペト様が言う。


「元の世界に、正直未練はありません。むしろ、できるものなら、カナと一緒に日本に行きたいですね」

「ほんとに? そう言ってもらえるなんて……」


 ペト様なら、すぐ適応できちゃいそうだけど……。


「ところで、つかぬことをお尋ねしますが」

「はい!」

「ユウトさんというのは、どなたでしょう?」

「はい?」


 いきなり出た名前に、私はうろたえた。どなたでしょうと言われましても……。


 ペト様がこの名前を知ってるのは、ナギちゃんが電話でなにか言ったせいにちがいない。


「ええと、ユウトさんというのは、私の高校の先輩で」

「センパイ?」

「あ、はい。同じ学校で、1つ年上の人なんです」

「なるほど。ナギさんは、そのユウトさんもこちらにいるのではないか、とおっしゃったのです」


 そうだったのか。ナギちゃんは、私にも同じことを聞こうとしてたのかもしれない(途中で切れてしまったけど)。


「どうしてあのようなことを尋ねられたのでしょうね」

「それは、私が知りたいです」


 数日前に電話してから、ペト様、この質問のことは今まで話してくれなかったな。


「ついでと言ってはなんですが、もう一つ教えてもらえますか?」

「はい! なんでしょう?」


 ペト様は、ちらりと私の顔を見て、すぐに目をそらした。


「ユウトさんというのは、男性、でしょうか?」


 ああ。日本人の名前を聞いても、男女の区別ってわからないものなのね。


「はい、男の人です」

「なるほど……」


 ペト様は、なにか言いたげだ。


「ひょっとして、カナにとって、大切な人なのではありませんか?」

「え、ユウトさんが? 私にとって?」

「もし思い違いなら、すまないのですが……」


 ユウトさんは、アニ同の先輩。それ以上でも、それ以下でもない。一部では煙たがられているけど、私からしたら、まあ、話しやすい人だ。でも、たぶん、先輩が卒業してほんとに東京行ったりしたら、個人的に連絡をとり続けるかどうかも正直自信ない。ユウトさんだって、私のこと、そのくらいにしか思ってないだろうし……。


「いろいろお世話にはなってます。基本的にはいい人だし、頼りになるところもありますけど。うーん、『大切な人』かっていうと、それはちがうかなぁ」

「そうでしたか。私はてっきり、カナの許婚いいなずけのような人なのかと……」

「えーっ!?」


 私は、思わず叫んだ。


「ない、ない、ない! それ、100%、ないです!」

「思いっきり否定しますね」

「そんなこと、1ミリも考えたことなかったので!」

「そうですか。ごめんなさい。私の勝手な想像でした」


 いえいえ! 勝手な妄想なら、私も負けませんが!


「あまりミチャを一人にしておくと危ないですし、もうすこし、泳ぎましょうか」


 ペト様は、立ち上がりながら、言った。


「はい、そうですね」


 気のせいか、ペト様、なんかホッとしてる? ユウトさんのこと、そんなに気にしてたなんて。ヤキモチ焼いてたとか? いや、まさかね!


 私は、先を歩いていくペト様の後を、追いかけた。

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