第22話:偵察機でピクニック♪
窓から見下ろすと、ずっと遠くまで、森や草地が広がっている。この高さから見える地面は、緑の
「どこがいいでしょう?」
操縦するペト様が、サングラス越しにたずねる。陽ざしがまぶしいというから作ってみたら、気に入ってくれたみたいだ。
ほんと、なに着せても似合うから、マジ困る(いや、困らない)。
「ええと、あの大きな湖とか、どうですか?」
私は、このあたりで一番広そうな湖を指さした。
「ミズゥー!」
後部席に座っていたミチャも、うれしそうに声を上げる。
「うん、ミ・ズ・ウ・ミ、ね」
「ミズゥミー!」
ペト様は小さくうなずくと、「空飛ぶ船」――とペト様は呼んでいる――の針路を変えた。操縦は、完璧。もうずっと前から乗ってますって言われても違和感ないくらい、サマになっている。
ほんと、なにやらせてもカッコいいから、マジ困る(いや、困らない)。
◇
「カナには、申し訳ないのですが……」
あの襲撃(?)事件から帰ってきたあと、すぐにペト様はこう切り出した。
「はい、なんでしょう?」
「引っ越し、しませんか?」
「引っ越し?」
「ええ。さっきの集団が、まだ近くにいるかもしれないし、そうでなくても、この家はなにかと目立ってしまいそうです」
「ですよね~」
周辺環境との調和とか、まったく考えてなかった。目立つよな、やっぱり……。
「もう少し安全な場所に、新しい家を建てませんか?」
「なるほど」
「建てるといっても、カナにお願いしないとならないのですが……」
「ぜんぜんOKです! いくらでも描きますよ!」
「申し訳ありません」
ほんとうに申し訳なさそうな表情が、とってもキュート♪ そんな顔を前にしたら、なんでも許せちゃいます!
「がんばって大豪邸を建てちゃいましょう!」
「いや、あまり目立ってしまうと、それはそれで……」
「あ、たしかに」
「この家、とても気に入っていたのに。残念です」
「気にしないで。危険かもしれないっていうのは、ペーターの言うとおりだし」
「ありがとう」
「でも、安全な場所へ引っ越すって、どこへ?」
「問題は、そこです」
この星の様子をもっとよく知るためにも、「空飛ぶ船」を作ってみよう、というのがペト様の提案だった。空を飛べれば、早く移動できるし、上空から広範囲を見渡すこともできる。敵に見つかりにくそうな場所も、探しやすいかもしれない。
だが、しかし、BUT ――「空飛ぶ船」? 私に描けるのか……。その手のものに興味ないから、描いたことがない。
私たちを襲った謎の船隊を見たのは、ほんの一瞬のこと。ゆっくり観察する余裕なんてまったくなかった。ぼんやりした記憶しか残ってない。適当に描いて、飛ばなかったりしたら、まずいしなぁ……。
「あ、そうだ! アレのお世話になろう!」
「アレと言いますと?」
私は、カバンのなかから、『完全版〈宇宙艦隊ギルボア〉詳細設定集』を引っぱり出した。描いたことなくても、お手本があれば、すぐ描けちゃう(にちがいない)。
「ずいぶん立派な本ですね。日本から持ってきたのですか?」
「そうなんです」
「カナは、こういう本が好きなのですね!」
「好き、というか、なんというか……」
ちょっと誤解されている気はするけど、まあ、いいか。ついでに、ユウトさんの本だってことは、ひとまず言わずにおいた。
絵を描くとき、参考にしたのは「PY37γ5」という機種。3人くらい乗れそうで、赤くて丸っこい機体が、なんとなくかわいい感じだから選んだ。これなら描くのも楽そうだ。
要は、飛べば、いいのよ!
でも、『ギルボア』にこんなの出てきてたっけ? よく思い出せない。数日前に通しで観たばっかりなのに、われながら驚く。『設定集』によれば、「外惑星同盟軍が、モンバサ戦役で実戦投入した空挺部隊の偵察機」なんだそうです。ふーん。
◇
「人間が空を飛ぶなんて、空想の物語のなかだけだと思っていましたよ。まさか自分がその体験をすることになるとは!」
初の試験飛行を終えると、ペト様は、感激して語ってくれた。
「とってもカッコよく飛んでましたよ! 操縦しにくくなかったですか?」
「いいえ、まったく! カナが説明してくれたとおり動かしただけです。すぐ慣れましたよ」
それから数日の間は、ミチャと3人で、上空からあちこち探索するのが日課になった。食べ物や着替えを詰め込んで、ピクニック気分だ。
果てしなく広がる大洋に浮かぶ小さな島々、激流に削られた切り立つ山が並ぶ山岳地帯、水生植物の密生する浮島のただよう巨大な湿原……。この星の地形も、地球に負けないくらいバラエティに富んでいるらしい。
こうして、すぐに移住地は見つかった。空から見つかりにくいよう工夫もしたので、当分のあいだは安心できそうだ。
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