第14話:新しい家族(前編)
しまった。
気分よくお風呂から上がった後でようやく、着るものがないのに気がついた。ミチャの分もだ。そう、服を着るには、まず私が描かないとならない。
そんなの、服脱いだ時点で気づけよ、私。
「どうしよう……」
答えはカンタン。隣の部屋にいるはずのペト様に頼むしかない。なぜなら、ここ(脱衣所)には、紙もペンもないからだ。そして、紙もペンもなければ、絵は描けないからだ。
「あー! なんでそこまで考えが回らなかったんだろう」
とりあえず、身体にバスタオルを巻き、ミチャの身体を拭いてあげる。それから自分の身体。
バスタオル一枚の状態で、ペト様の前に行く自分を想像してみた。セーフ? アウト? ぎりぎりセーフ? いや、間違いなくアウトだろう。
風呂上がりのお父さんがパンツ一枚になって部屋をうろつくだけで激怒する私が、あろうことか、ペト様の前に、そんな姿でノコノコ現われていいはずがない!
百歩譲ってマンガやアニメなら、バスタオル一枚のところにいきなり好きな人が!みたいなシチュエーションで萌える、とか、ありなのかもしれないけど……。いや、ない?
「カナ、考えごとをしている最中に悪いのだけど」
「!」
背後からペト様の声がした。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「なんで謝るんですか?」
すっかり気が動転している。バスタオル姿、見られちゃった。
「突然で悪いんですが、向こうを向いているので、安心して」
「あ、ありがとう」
私が恥ずかしそうにしているのを見て、ペト様は気を利かせてくれた。
「で、ご用件は、なんでしたでしょう?」
「はい、これ。紙と鉛筆とペンです」
ペト様は、後ろに手を伸ばして、真新しい紙を渡してくれた。その上には鉛筆とサインペンが一本ずつ。学校のプリント裏だけでは紙が足りなくなってきたので、出かける前に、新しい紙の絵を古い紙に描くという面倒なことをしておいたのだった。
「必要ですよね? 気がつかなくて、ごめんなさい」
「ありがとう、ペーター!」
さすが、気が利くなあ。
まず、ミチャ用に、手早くパジャマを描いた。
「オオー!」
なにもない空間にパジャマが出現するのを見て、ミチャが驚きの声をあげた。
「フフ、すごいでしょ」
あ、いけない。下着も要るのか。そういえば、さっき脱がせたミチャの服に、ブラはなかったな。サラシみたいに布を巻きつけてた気がする。やっぱりブラのほうがいいかな。
サイズのことはあまり深く考えず、ミチャの体型をイメージしながら描いてみる。パステルグリーンのかわいらしい下着ができあがった。
最初はブラが窮屈そうで嫌そうにしていたが、洗面台の鏡に映してあげると、自分の下着姿に満足してくれたらしい。
「気に入ってくれた?」
うーん、自分で描いといて言うのもなんだけど、色っぽいなあ。
私も自分の着るものを用意しないと。家で着ているお気に入りのパジャマをイメージしてみた。薄いピンクの地にハート柄のキャミソールとショートパンツ、それにパーカーがセットになっている。
「お、かわいい。うろ覚えで描いたにしては、再現度けっこう高いかも」
鏡をのぞいていると、ミチャが不満そうになにか言ってくる。
「え、なに? ひょっとして、同じのが着たいってこと?」
私がパジャマを指して尋ねると、ミチャはうれしそうに何度もうなずく。
「ゼイタクなやつだなあ」
仕方ないから、同じデザインのパステルグリーンで、ミチャのサイズに合わせて描いてあげた。
「ホー!」
ミチャはご満悦の様子だけど、冷静に見て、私より似合ってるのでは…? このデザインは、胸が大きいと、セクシーでとってもかわいい。腹立つなあ。
「どうです? 描けましたか?」
廊下の奥からペト様の声がした。
「あ、ごめんね。お待たせしました!」
◇
居間に戻って、二人でパジャマ姿のお披露目をすると、ペト様も喜んでくれた。
「とっても素敵ですよ!」
「ペーターにそう言われると、照れます」
「これ、撮影しておきましょうよ」
「あ、はい」
すっかり動画撮影が気に入ったみたい。ペト様は、スマホをとってくると、私に手渡した。
「ああ、これね。この数字を入れたら、使えるようになるから」
私は、画面にゆっくりと6桁のパスコードを入れてみせた。
「覚えた?」
「教えてもらっていいんですか?」
「うん、ペーターなら」
「ありがとう。これでなにかあったとき、いつでも記録できますね」
「ですね」
ミチャと私が並んで立つと、ペト様は、感心したように言った。
「かわいらしい。姉妹みたいですね」
姉妹ねえ。なんか、二人を見比べてる?
「とてもよく似合ってますよ」
「これ、家で着てたやつなんです」
「へえ! 日本は服のデザインも洗練されているんですね」
「気に入ってくれた? じゃあ、ペーターにもいろいろ服、用意します!」
ペーターに撮ってもらった動画をミチャにも見せると、大喜びだった。操作方法を覚えると、何回も再生している。そのうち、鼻歌まで歌い出した。
「あ、そうだ。ペーターに話しておかなきゃ」
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