第13話:JK、母性愛に目覚める?
家に戻ると、太陽はもう地平線の向こうに沈みかけている。ミチャは、居間に入るなり、ヘナヘナとソファーに倒れ込んだ。よほど疲れてたらしい。
それから、私たち二人に向かって、なにか早口で話し始めたけど、やっぱり一言も理解できない。話してるうちに、ミチャはだんだん涙ぐみ、ついには大声で泣き出した。
うーん、かわいすぎんだろ、泣き顔。
さっきの食欲もすごかったけど、ここまで来るのは、大変だったんだろうな。よく見ると、腕や脚のあちこちにすり傷があり、ところどころかなり汚れてた。服もけっこうボロボロになっている。でも、実はかなり高級そうな服だ。
「ミチャ、お風呂入る?」
声をかけると泣きやんで、キョトンとした顔で私を見るので、ひとまず風呂のお湯をはってあげることにした。入浴剤も何種類かあるので、疲れがとれそうなやつを選ぶ。
「だいぶ疲れてる様子ですね」
ペト様も心配そうに言う。
「相当な距離を歩いてきただけじゃなくて、なにか怖い経験をしたのかもしれません」
「うん、そうですね」
しばらくすると、風呂の準備ができた。このままソファにいると、ミチャは眠りこんでしまいそうだ。
「ほら、お風呂でサッパリしようね~」
しぶしぶ起き上がったミチャをバスルームに連行する。バスタブにたまった緑のお湯を見ると、こちらの意図を理解したらしく、うれしそうな顔を見せた。
「どうぞ! ゆっくりつかってね」
そう言って立ち去ろうとすると、グイっと袖をつかまれる。なんか文句を言われたけど、意味はわからない。
「えっと、どうしたのかな~?」
悪い予感。
「どうかしましたか?」
隣の部屋から、ペト様が様子を見にきてくれた。ミチャの手がガッチリ私の袖を捉えている。
「ああ」
「え、ああってなに?」
「これは、カナに一緒に入ってほしいっていうことでしょうね」
ミチャは、嬉しそうな声をあげる。こいつ、やっぱり日本語わかってるのか?
「ええー!」
「ちょうどいいじゃないですか、カナも入れば」
「うーん、まあ、後で私も、とは思ってたけど…」
「では、どうぞ、遠慮なく!」
ペト様は隣の部屋に戻っていく。異世界転移2日目にして、異世界人と裸のおつきあい? ま、それも悪くないか。
「じゃ、一緒に入ろう」
私はササっと服を脱いで、バスルームに入ろうとする。と、今度は手をグイっとつかまれた。
「今度はなんなのよ!?」
ミチャは、自分の服を指さした。
え? ひょっとして、あなたの脱がせてさしあげろと?
「まじか」
裸になってる私を前に、ミチャは平然と立ったままでいる。日本語が話せたら、「くるしゅうない」とでも言いそうな雰囲気だ。
しかたないので、お召し物を脱がしてさしあげる。それにしても、これ、どんな布なんだろう。きれいな光沢があって、手触りもすごくいい。なんか、お姫様みたいだな。わがままそうだし……。
「むむっ!」
服を洗濯物のカゴに入れて、驚く。おい、この発育のよさはなんだ? 身長的には完全に子どもに見えたけど、身体的には私のほうが子どもに思えてくる。
ええと、きっとこの星の女の子だと、これが標準なんだよね!?
バスルームに入ると、ミチャは案の定、湯舟の前で突っ立ったままになった。悪い予感、的中か。まったく、めんどくせえやつだ。
バスチェアにミチャを座らせ、ボディスポンジに石鹸をつけた。身体が包まれると、ミチャは気持ちよさそうに目を細めている。
その小さな肩を見ながら、ふと小学生のころ、夏や冬の休みになると田舎のおばあちゃんの家に遊びに行ったのを思い出す。従姉のユミちゃんは、よくこんな風にスポンジで私の身体を洗ってくれた。懐かしいな。
「今度はこっち向いて」
身体を洗われている間、ミチャはずっとおとなしくしている。なんか妹ができたみたいでうれしい。超絶美少女で、身体も私より大人っぽいのは、なんだかなあって思うけど。
「はい、完了! お風呂入っていいよ!」
泡をシャワーで流してあげると、ミチャは湯舟に入った。私も身体を洗う。朝の水浴びは生きかえる心地だったけど、やっぱり温かいお湯のシャワーは気持ちいいな。
にーじげんじゃ おわーらないーの
ここーろのー とぽーろじいー♪
私は好きなアニソンを鼻歌で歌い出していた。
それにしても、少し大きめのバスタブにしていてよかった!ミチャの入っている湯舟に私も入ると、お湯があふれ出てしまう。勢いよく流れるお湯を見て、ミチャは楽しそうに笑った。
「ミチャの家族は、どこにいるのかな」
自分のことだとわかったせいか、ミチャが私の顔を見上げる。私も異世界に来て、家族や友だちと離ればなれだ。
「これからは一緒だね」
「カナ~!」
突然、ミチャは私に抱きついてきた。
なにそれ、かわいいんですけど?
この小さな身体で一人ぼっちだったミチャを想像すると、突然いとおしく思えてくる。ああ、17歳にして母性に目覚めるとは!
「ミチャ!」
うれしそうに頬をすり寄せてくるミチャ。
イージゲンチャ オナーラナイーニョ♪
「え?」
ミチャが、私の耳もとでなにかのメロディーを口ずさんでいた。
「そ、それって、なんの歌かな~?」
間違いない。歌詞がなんかおかしくなってるけど、ついさっき、私が鼻歌で歌っていたアニソンだ。昨年4月クール放送『俺ギリ』(『俺の嫁の中の人と付き合うのはギリ浮気じゃない』)OPのサビメロのところ。
ひょっとして、
……んなわけないよな。私が歌ったサビメロのところだけ繰り返しているところを見ると、一回聴いたメロディーを覚えられる才能なんだろう。
でも、異世界の女の子が楽しそうにアニソンを歌ってるのは、なんかかわいい。ミチャは、リズムに合わせて指を動かしていた。いや――。動いてるのは、指だけじゃないぞ。
シャンプーの隣においてあった石鹸が、ふわりと浮いた状態のまま、ミチャの指と同じリズムでユラユラと揺れていた。
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