第10話:遭遇(前編)

「カナ、手を」


 足もとの悪い岩場で、私がうまく登れずにいると、すっとペト様が手を差しのべてくれた。


「ありがとう、ペーター」


 この辺りは森林地帯になっていて、道なき道をもう1時間くらい歩いている。


「少し休憩しましょうか」

「うん、賛成!」


 昨日はたっぷり寝たので、まだまだ元気だったけど、そろそろ少し休みたいなと思っていたところだ。ここまでの道は少し登りになっていたので、二人で大きな岩の上に座ると、遠くまで見晴らしがきいた。私たちの家のある川もよく見える。


「私の故郷もこんな感じだったので、懐かしいです」

「こんなに森が多いところなの?」

「そう、森だけじゃなくて、草原や山もね」


 そうか、ペト様、わりとワイルドな幼少期を過ごしたのかな。『チェリせん』は、プラハの学生時代から始まってるので、少年ペト様のことはかなり断片的にしか語られていない。さぞかし可愛かったんだろうなぁ。


「どうかしましたか?」


 妄想してたら、ペト様が私の顔をのぞきこんでくる。いや。今でも十分、可愛い。


「ペーターって、子供のころもモテたの?」


 あ、なんかアホなこと聞いてしまった。


「『も』って、今もモテてるみたいですね」

「お? モテないと、シラでも切るおつもりか」


 ちゃんと知ってますよ、女性にかけては向かうところ敵なしのあなたのこと! その気になれば、男性だって行けちゃうかも。


 ペト様がニコニコしながら私を見ている。


「あれ、私なんか変なこと、言いました?」

「いえいえ、まったく。カナには、何でも見透かされてるような気がしますね」

「えっ?」


 急にそんなこと言われると、ドキっとする。


「ちょっと確認したいんですが」

「何でしょう」

「『モテる』という言葉は、『自分が気になっている人から気に入られる』という意味ですよね?」

「はい。ええと、だいたいそんなとこだと思います」

「だとしたら」


 一瞬、ペト様はわざと間をおくようにして、私を見つめながら言った。


「『モテる』のも悪くないかもしれませんね」


 そしてこの笑顔である。これ、計算してやってるのか、この人?


「あ、今の表情、動画に撮りたかったな!」

「もう!」

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