第5話:召喚――ペト様!

 嫌な夢を見ていた。


 内容は思い出せないけど、悲しいような、つらいような夢だった。


「お嬢さん」

「う、うーん」

「どうされました、お嬢さん? ひどくうなされていらっしゃいますが」


 お嬢さんなんかじゃないです。腐りかけのオタJKです。


「それより、ここはどこなのでしょう?」


 えー、それはこっちが聞きたい――って


「えーっ!?」


 一瞬で飛び起きた! 知らない間に眠ってたみたい。


 声の主に目を向ける。


「!?」


 夢か……夢、だよね? よし、ちゃんと寝よ。おやす……


「あ、あの! また寝てしまうのですか?」


 今度こそ、飛び起きる。夢じゃない! ここ、家じゃない。さっきまで寝転がってた土の上じゃん!


 あらためて、声の主に目を向ける。


 そこにいるのは――ペト様だった! かっこいいとかセクシーとかいう形容詞のはるか上を行く、まさに尊いとしか言いようのないお姿。至近距離にいたら死にそう。


 なぜペト様がここに!?


 しかも、ラノベにもコミックスにも出てきたことのない、露出度高すぎの、ビリビリに破れかけた服を身にまとって……。この服ってまさか?


「ペト様……じゃない。ペトルス・リプシウス様?」

「私のことをご存知なのですか?」


 ええ、ええ、よく存じておりますとも。存じてるどころか、いろんな意味でしょっちゅうお世話になってます。ご本人を前に、とてもお話できないけれど……。


「はい。それはもう、何年も前から」

「何年も? それは失礼なことを申し上げました」


 少しくすんだブロンドの豊かな髪。きれいな巻き毛が陽の光に輝く。青みを帯びたグレーの瞳が、私の顔を見すえてくる。


「あなたのようにお美しい方のことを、たとえ片時であれ失念してしまうとは」

「あ、いえ! 私は昔から存じ上げてるのですが、直接お目にかかるのは初めてなのです」


 そう。あなたは私の最愛の方! ずっと、ずっと、ずーーっと、お会いしたいと思っていたんです! まさかそれが、今日こんな場所で実現するなんて……。


「なるほど、そういうことでしたか!」


 ヤバーい! そのはにかむような笑顔、萌え死レベルです!


「失礼ですが、お嬢さんは東洋の方とお見受けしました。あなたのようにあでやかな黒髪は、物語の中でしか聞いたことがありません」

「髪、ですか?」

「ええ。もしお許しいただければ、少しだけでも触れさせていただけますか」


 今にもペト様が手を伸ばして、私の髪を手にとりそうになる。


 ちょっと待った!


 昨日はお風呂入れなくて、髪も洗ってない! 服だってそのままだし、汗かいたまま寝ちゃった! こんな私にペト様が触れるなんて、ダメ! 絶対ダメ!


「お、お待ちください!」


 リアル・ペト様がこんなグイグイ来るなんて、ひょっとして夢の続き?


 えーと、一体どうしてこんな状況になったんだ!?


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