《第1章 EP-04》【fragile】

「ねえ…」


「ん?」


「泊まってくの?」


「どっちでもいいけどお前はどうしたい?」


「トオルんち行きたい。なんかわかんないけど自分の家よりトオルんちのが落ち着く。

よく眠れるし…」


「照明とアリスのおかげじゃねえ?口開けて寝てるもんな(笑)」


「嘘だぁ…」


「じゃあ今度写真撮っといてやるよ。」


「えっ…ごめんなさい」


「梓、家行く前にしたい事あんだけど。」


「もう一回するの…?」


「それもいいけど、っつーかお前エッチ好きなの?」


「なんか優しく包まれてる感じがするからトオルのエッチは好き。」

なんか照れる。


「いや、エッチは帰ってすりゃいいじゃん。一緒に風呂入りたい。」


「お風呂だってトオルんちで入れるでしょ?」


「ここのが広いだろ?」


「そっか!?わかった。お湯溜めてくるね。」


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「何か幸せだよ…」

2人で湯船に浸かってるときに梓が言った。


「何かってなんだよ。」


「んー、わかんないけど幸せ。」


「そっか…」


「トオルありがとう。」


「何が?

お前「ありがとう」と「ごめんなさい」ばっかだな(笑)

俺たいした事してねえし言ってねえぞ。」


「アズにはたいした事だよ。トオルの考え方は凄いよ!

絶対勝てそうもない…」


「世の中に絶対はないし、別に勝ち負けじゃねえだろ。」


「ほら、そういう言い方だよ…」


「普通に喋ってんだけどなぁ…」


「トオルぅ…アズ気持ち良くて…眠くなってきた。」


「のぼせなかったら寝ていいよ。頑張っていっぱい喋ったからな。

それとも上がってちょっと寝るか?」


「いいの?ヤじゃない?田中も寝たベッドだよ。」

そんな事は最初から想定内だ。

それにさっきそのベッドでしただろっつーの。


「俺は別にいいよ。でも梓ちょっと疲れただろ?

それとも速攻でうち行く?」


「やっぱトオルんちがいいな。」


「わかった。じゃあ上がろ。」

風呂から上がり急いで服を着てタクシーに乗った。


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《3:30》

「ミーちゃんただいま!寂しくなかった?」


「梓、とりあえずパジャマに着替えろよ。飲む?」


「ハーイ。飲む!」


「あとこれ…」

引き出しから10万円出して梓に渡した。


「えっ!?何?どういう事?」


「お母さんに仕送りしなきゃダメだろ?

何かわかんないけど先週の競馬で2万が60万ぐらいに化けてさ、アドマイヤマックスと武豊様々だよ。だからお前とも同伴したろ。

それに焦ってタチのわるい店で働かれても嫌だしな。

お母さんに5万送っても5万ありゃ1週間は暮らせるだろ?

ゆっくり仕事探しな。別に働かなくてもいいし。」


「ごめんなさい…」


「お前日本語間違ってんぞ「ありがとう」だろ。」


「うん…ありがとう。借りるね。」


「どっちでもいいけど…親は大切にしな。

死んでから後悔したって遅いよ。俺がそうだから…」


俺の母親への想いが思わず口から出た。

こんな…今まで後悔してるなんて言った事はなかった。

梓、お前も魔力を持ってるよ。


「よかったら話してくれる?聞かせてよ…

トオルの事もっと知りたいから。」


俺は母親と仲が良くて父親と妹とは不仲だった事。

中3の冬に一度名字が変わり戻った事。

母親が肺癌で死んだ事。

家出同然で東京に出て来て実家とは一切連絡をとっていない事などを話した。


「お前何で泣いてんの?」


「だって…淋しくなかった?

辛くなかった?」


「どうかな?生きるのに必至で淋しいなんて感じる暇はなかったし、

家を出て来るときに電車賃込みで4万円しか持ってなかった事を考えたら辛いとは思わないでここまで来た。って感じかな。

まあコイツ(アリス)も居るし今は淋しくはないよ。」


「ミーちゃん偉いね。

これからはアズもそばに居るから…何でも話してね。」


「ちょっと待って、今の俺と梓の関係をハッキリしとこう。」


「えっ!?付き合ってんじゃないの?トオルはアズの彼氏じゃないの?」


「いつからそうなった?」


「いつからって…じゃあアズは何?」


「セフレとか居候(笑)」


「えー…」


「嘘だって冗談(笑)

だからハッキリしとこうと思って…

梓、俺と付き合ってくれる?そばに居てくれる?」


「はい…。こんな…」


「こんなって言うな!こんなって!」


「じゃあ、アズでいいですか?」


「アズでいい?じゃなくて梓がいいの。

俺は梓じゃなきゃ嫌…ダメなの。」


「はい…」


「また泣く。」


「だって…だってぇ…」


「はいはい(。・_・)ノ」


「全て話して…嫌われるか、軽蔑されるって覚悟してたのに…

それなのに「梓じゃなきゃダメ。」なんて言われるなんて思わなかったから…」


「そうなんだからしょうがねえじゃん。

じゃあ改めて飲もうか?涙拭いて…

お前さ…不細工になってるよ(笑)」

ティッシュで梓の頬を拭った。


「うんっ♪って誰が泣かしたのよ(笑)」





「トオルぅ…アズ眠くなってきた…」

ビールを2本ほど飲むと梓が言った。


「ん…先に寝てていいよ。」


「トオルは?

一緒寝ないの?そばに居てよ…」


「お前「そばに居て」もなんも1ルームじゃん!?

離れようがないだろ。」


「ギュッてしてて…」


俺は頷いて布団に入り腕枕をして梓の長い髪を撫でていた。

梓は直ぐに軽い寝息をたて始めた…

梓の寝顔を見ながら今日の会話を思い浮かべる。

なんか涙が込み上げてくる…

もう朝の7時を過ぎていたが軽く飲み直そうと思いそっと布団から出ようとする。

ん…梓がパジャマの裾を強く掴んでいた。

いつ外したのだろう?その指にリングはなかった…

「愛しい」一言で言うとそんな気持ちだろうか。

俺は布団に戻り梓を抱きしめ眠りについた。





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