第17話 大満足!

突然開催された木工細工教室は、楽しい時間のまま終了となった。

初めて木工細工を作った一花さんと友咲さんの作品は、決して上手ではなかったけれど、それでも手作りの温かさがあって僕は大好きだ。

奥さんは作るのが何度目かで、それなりにコツを掴んだみたいで、形も様になっている。


「なかなか難しいのね」

一花さんは出来栄えに不満そうだったけど、それでも経験した木工細工作りには満足してくれたようだった。

「楽しんでもらえたなら良かったです」

僕の笑顔に一花さんはそうだね、と笑顔で答えた。


一花さんと友咲さんの作品は、一旦僕が預かり根付けにして渡す事にした。

根付けにするだけなら、翌日に渡せる。

2人とも旅行先での体験教室みたいだと笑っていた。

僕はよく分からないけど、旅行すると色々な体験教室があるんだそうだ。

色々なことが体験出来るら、僕も体験教室に行ってみたいけど、それは追追にしよう。

生活基盤が整って、余裕が出てきたら旅行に行くのも良いかもしれない。


「あのね、佐藤さん」

帰り支度をしながら、一花さんが僕に声を掛けた。

「色々調べたんだけど…コロポックルの事は、全然分からなくて」

もごもごと話す一花さんの言葉を拾って、友咲さんが後を続けた。

「一花ちゃん、佐藤さんたちみたいな生活に憧れ始めたみたいなの」

楽しそうに話す友咲さんに、一花さんが何やら反論していたけど、僕は一花さんが僕らの生活に興味を持ってくれた事に嬉しくなった。


「えっと、えっと、僕らは普段は小さな集落を作って生活してて、それから…」

嬉しくて色々話そうとし始めた僕の言葉を、一花さんが遮った。

「今日は時間ないし、今度ゆっくり教えてくれる?」


生活習慣、食べるもの、何を仕事しているのか、僕は教えたい様々な事を思い浮かべた。


どんな事を教えようか?

どんな事に興味をそそられたのかも聞きたいな。


嬉しくて浮かれてしまう。

今までコロポックルだと言っても、殆どの人が話を流して聞いているようで、興味も関心も示してくれた事なんてなかった。

北海道内でもそんな感じだったのに、もっと広い外の世界に出た瞬間、コロポックルである事に興味を示してくれる人と巡り会えた。


あまりにも知られていない僕らの存在。

外の世界に出てみて、初めて知ったことの1つでもあるけど、ショックなことでもあった。

当然周知されてると思ってたのに、あろう事かコロポックルは想像上の生き物とまでされていた。


(…そういえば、一花さんたちも最初は半信半疑な感じだったっけ)


出会ったばかりの数日前の一花さんと友咲さんを思い出す。

不審がられてはいたけど、それでも2人には最初から親切にしてもらってた。

出会ってたった数日だけど、興味を持ってくれた事で、ぎこちなかった一花さんと一気に距離が縮まった気がする。


「嬉しそうね」

2人が帰ったあと、奥さんがニコニコしながら僕に声を掛けた。

「嬉しいです!」

即答する僕に、奥さんは良かったわね、と優しく笑いかけてくれていた。


それから僕は、斑鳩さんの所へ行った。

そして、一花さんがコロポックルに興味を示してくれた事、今日は皆で木工細工教室をやった事を話した。

「いがったなぁ!楽しくでぎんのは、いいこったでな」

僕の話に、斑鳩さんも嬉しそうだった。

斑鳩さんも、きっと僕と同じ気持ちだったと思う。


斑鳩さんと嬉しさを共有してる時、僕はハッとした。

僕は男だから、木工細工については教えられるけど、女の人の手仕事だった機織りは教えられない。

「い、斑鳩さん、どうしよう?」

オロオロし出した僕に、斑鳩はいつもの笑顔でとんでもない事を言った。


「大丈夫だんべよ。機織りなんぞ、別のコロポックルに聞けばよがっぺ!」


……

………え?


「あの、別のコロポックルって?」

信じられない言葉に、思わず聞き返す。

そんな僕に、当たり前のことを言うように斑鳩さんが言った。

「駅近くのスーパーで、矢井田さんっていう人が働いでるんだげんとも、その人もコロポックルだでな」


北海道から出て、斑鳩さんに会えたことだけでも凄いと思っていたのに、更に女性のコロポックルまでいるなんて。


「世界は…狭いですね…」

ぽつりと呟く僕に、笑顔の斑鳩さんが一言。

「なぁに言ってんだ?世界は広がっぺ!」

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私とあの子とコロポックル? はづき夏芽 @Noel_smile0826

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